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Act.9 手当たり次第に話を訊けば何かが掴めるかもしれない



こりゃあいい。これでやっと普通の密室殺人事件になったじゃないか!

― 榎木津礼二郎

(京極夏彦 『姑獲鳥の夏』)



「そうこうしているうちに、夜も遅くなっちゃうよ」

西谷「しかし、これだけ凝った造りの洋館なんだから、屋根裏部屋のひとつやふたつ、地下室のひとつやふたつ、あるのがまともなのでは――」

「さて、高坂さんから電話が」

西谷「はいはい、まいどまいど」

「『ひとつ面白い話が聞けたよ』」

西谷「おっ、ぜひ聞かせてもらいたい」

「『ただ、業者のほうでは、誰も信じてないような話なんだけどね。――工事に当たっていたひとりが、何か、その館の壁には幾つか穴が空いてるらしいけど、その穴から何かがニョロリと飛び出しているのを見たそうなんだ』」

西谷「にょろり?」

「『蛇のような。一瞬だけだから、よく判らなかったそうなんだけど』」

美崎「凄い話だな」

相原「蛇が棲んでる可能性か」

「『ただ、そのことを周りの人に言って、何人かが穴から覗いてみたりしても、別段そういったものも見えずに、誰も信じてはいなかったみたいだよ。――まあ、信じたとしても、蛇が一匹ぐらい入り込んだだけだろうし』」

西谷「そうかぁ」

「『ただ、その見た人ってのは、それ以来――』」

美崎「まさか(笑)」

「『それ以来、妙に仕事に身が入らないと言うか、大変真面目な奴だったんだけど、それ以来ミスが目立つようになったりとか、心ここにあらずという感じになったりだとか、情緒不安定になったりだとか――そういうことらしいぜ』」

相原「正気度チェックでどれだけ減ったんだろうか(笑)」

西谷「なるほどね。いや、結構参考になったかもしんない。ありがとう」

琴音「ところで、死体はまだ礼拝堂に置きっぱなしなんですか?」

山形「とりあえずシーツをかけて」

相原「もう一回見てみたほうが」

美崎「じゃあ、刑事さんのところに行きます。で、どうしても礼拝堂に入りたい旨を告げますが。――入りたいんですよ。何か解るかもしれないじゃないですか」

山形「刑事としては、駄目って言うしかないよね」

美崎「うーん、<言いくるめ>あるいは<説得>は効かないでしょうか?」

「ああ、PC(プレイヤーキャラクター)間では駄目ですね」

美崎「駄目ですかぁ。こりゃあ無理だなぁ」

山形「一般の人間を入れるわけにはいかないでしょ」

相原「ところで、佐伯さんの部屋を調べてみたいのですが。そちらのほうに、礼拝堂に行くとか、そういう事情があったのかもしれません。メモでも残しているかもしれませんから」

山形「私が立ち会いのうえ、っていうことで」

相原「ええ」

「では客室Gですね。調べてみてください。<目星>振っていいですよ」

(コロコロ……)

相原「はい成功しました」

「そういった覚書のようなものは、いっさいないですね」

相原「何にもない?」

山形「現場百辺で、礼拝堂開けてみるか――。でも入っちゃ駄目だよ、学生は(笑)」

美崎「言われたとおりにするかどうかは、また別ですけど(笑)」

山形「現場を荒らしちゃいけないから、手袋をして――」

琴音「死体だんだん臭ってきませんか?」

淀川「礼拝堂の臭いは消えたんですか?」

「まだ消えてないと思う。周りの通路に漂っている臭いはもちろん消えてますけどね」

山形「執事に言って鍵を開けてもらって、淀川に、誰も入れるなよ、と言って見張りをさせて――」

淀川「たぶん、一緒に入ってく(笑)」

山形「じゃあ、相原とふたりで」

西谷「――今ここに集まってるメンツって、プレイヤーキャラクターと執事だけ?」

「開けた。中は相変わらず、凄い臭気が漂っていますね」

西谷「ブツ(死体)もバッチリありますか?」

「あります。あのときのまんまです」

相原「マスクをして、手袋填めて、」

琴音「ちょっと見れば聖書は目につくって言いましたよね?」

「はい」

琴音「じゃ、聖書を見に行きます。隅っこのほうに」

美崎「て言うか、入れたんでしょうか?」

琴音「そうだよね(笑)」

美崎「淀川っ!」

淀川「何、何?」

美崎「中に入れて」

淀川「よし(一同笑)」

琴音「何か偉そうだな(笑)。今だけ偉そう、淀川くん」

美崎「すーっと入る」

淀川「余裕で気づきそうなんだけど(笑)」

山形「もう二度と手伝わせない(笑)。たぶん蹴りが飛ぶ」

「こっそりと聖書を見に行くなら、<忍び歩き>か<隠れる>でどうぞ」

琴音「<隠れる>でいきましょう。(コロコロ……)はああっ! 駄目だ。ガサガサ……」

山形「こらっ、入るな! よーどーがーわーっ!(笑) 物を投げる(笑)」

琴音「現場の保存になってませんよ〜」

山形「あ、そうだ」

琴音「聖書を盗ろう」

淀川「盗られちった(笑)」

「<隠す>ロールだね」

琴音「(コロコロ……)あらら。ガサガサ……」

山形「何やってるんだっ! 駄目だ! あとで指紋採るからね、ちゃんとね」

琴音「それだけで済むんなら、もっと早く取っておけば……」

相原「聖書調べるんですか?」

琴音「うん。だって誰も調べないんだもん」

相原「調べようかなって今思ってたんですが、まあ、いいや」

西谷「――ちょっと、穴のそばまで行ってみます」

「はい」

相原「私は聖書を見たいと思っていたんですが――取られちゃった。どうしようか」

山形「取り返したよ」

琴音「へ? 取り返えされちゃったの?」

山形「だって、もう見つかったじゃん」

琴音「指紋あとで採るからねって言われただけじゃないの?」

西谷「言うだけ言うけど、現物も押収したと」

山形「うん。で、ビニール袋に入れた」

琴音「なんだ」

相原「ビニール袋に入れる前に、ちょっと見させてもらえませんか? 表や裏をひっくり返してみますけど、その聖書に特別なものは――」

「特にないですね」

相原「血がついてるとかいうことはないですか」

西谷「西谷、穴を覗きます」

「覗いた。中から臭いが特に強く漂ってきますね」

琴音「そういうときには、私の懐中電灯で(笑)」

「周りについていた粘液はだいぶ乾いてます」

西谷「臭いが強いだけですよね。で、懐中電灯を借ります。鷹見さんから」

琴音「貸してあげます」

西谷「で、カチッと点けて、覗きます」

「まあ、壁の中に空洞があるなぁというような感じですね」

西谷「そういう感じですか。――そこで、懐中電灯を放り投げて、うわーっ! 助けてくれーっ! と叫びます」

「(笑)」

西谷「叫んで、六平に突進していって、肩持って、おおおーい! 何だ、今のはーっ!?」

山形「えっ!? 何か見たの、今? ――どうしました?」

西谷「嘘。ぜんぶ嘘」

相原「嘘だけど解らないから、こっちは。――ええっ?! って言ってます」

西谷「おい! 今の何だよ! この屋敷ん中に蛇でも飼ってるのか!? 何だ、今の気色悪いのはっ! ――ということを六平に。何で蛇みたいかっていうのは、カズ兄ぃから聞いてたから、俺も同じものを見たんだという理屈のうえで、もう、大騒ぎ」

「(上手い!)――しかし、六平はキョトンとしているだけですね」

西谷「<言いくるめ>があるのに……」

「うーん、<心理学>振ってください」

西谷「(コロコロ……)07。成功ですね」

「明らかに知らない、って感じですね。何も」

琴音「はあ? って感じですか」

西谷「――知らないっ!?」

山形「取り押さえる(笑)」

西谷「取り押さえられたのは俺のほうだった(笑)。遂に狂った――!」

相原「こっち(西谷)の<心理学>チェック(笑)」

「『な、何のことでしょう?』と六平」

山形「落ち着け、落ち着け、と後ろから羽交い締め」

相原「まあまあ、ここは俺に任せて、って感じで」

西谷「お前はもう寝ろ、とか言って追っ払われるわけですか」

山形「現場から外に連れ出して」

琴音「――その間に、ちょっと、祭壇が動くかどうか調べてみたいんですが」

「がっしりと固定されているということが判った」

美崎「うーん。なら、祭壇の中に何かなかったりとか」

西谷「燭台を引っ張ったら祭壇が動くとか」

「いや、ないですね」

相原「抽斗(ひきだし)の中に鎖があって、それを引くと――(笑)」

琴音「聖書の裏表紙の裏には家系図が書いてあるっている法則が(笑)」

美崎「あと重要な署名がしてあったりとか」

相原「マルコの第五章って、確かアレじゃなかったですか? 悪魔払いの話じゃなかったでしたっけ?」

「うん、悪霊に取り憑かれたゲラサ人を癒やすという」

山形「レギオンの――」

西谷「レギオンって、豚の群れの中に入ってったやつじゃなかったでしたっけ」

淀川「聖書を見ましょう。パラパラと捲っていたら何か落ちるかもしんないし(笑)。俺が触ると怒られるから、お願いしますよ刑事さん」

山形「あの学生、どうにかしろ! と言いながらパラパラ捲ってみたり」

「最後の署名を見るのなら、間違いなく榮太郎さんのだと判りますね」

山形「他に気がついたようなことは? ラインが引いてあるとか」

「ないです」

西谷「挟まってた紙切れがパラッと落ちたりとか、そういうことは」

「ないんですよ、これが(笑)」

相原「――カマかけるんだったら、どっちかって言うと、庵にかけたほうがいいと思う」

西谷「じゃあ、庵に次にかけよう」

淀川「――もともと聖書はどこにあったのかな」

琴音「下に落ちる前に」

美崎「誰がそこに持ってったのか」

西谷「遺品の中か、晶が持ってたか」

美崎「なぜそこに持ってく必要があったのか」

相原「聖書だから、祭壇の上に置いてあったのかも」

美崎「でも誰も使ってないんですよね、礼拝堂は。そんなところにわざわざ置いておくというのはおかしいですよ」

西谷「いや聖書だから、そういう場所に置きっぱなしにしておいても相応しいんじゃないんですか?」

美崎「そうかなぁ」

「さて、もう寝る時間だよ」

西谷「俺は蛇と一緒には寝ない! とか聞こえよがしに叫んでいる」

淀川「寝る前に、ちょっと執事さんに訊きに行きたい」

「それじゃあ、執事室に行くわけですね?」

相原「俺のほうは、庵さんところに行って話を訊きたいんですが」

西谷「やけくそになってついていきます。蛇を見たんだ! いや蛇じゃないかもしれないが、少なくとも蛇みたいに見えたんだ! 庵のやつ、何か知ってるかもしれない。もう俺はあいつにも訊くぞ! と。半分作ってますけど、だんだんその気になってきてる」

淀川「鷹見さん、美崎さんも来ます? 執事のところ」

琴音「あ、行きたいです」


(場面転換)


「じゃあ、執事室まで行くと――その前で、六平さんと晶氏が立ち話してますね」

美崎「ほう」

「六平さんが、『あの記者さん――西谷様が、このようなことをおっしゃってましたよ』みたいなことを(笑)」

西谷「ナイス、六平」

「『いったい何なのでしょうねぇ』って感じで。そうすると晶さんが、『うん、そうか』と何やら考え込んで、『解った』と言って書斎に引っ込んだ」

西谷「"解った"(笑)」

琴音「何が解ったんだろう」

西谷「俺の企みが解ったのか(笑)」

「――で、そこに来た。学生三人組。何か訊きますか?」

琴音「ちょっとお伺いしたいことがあるんですけども、――禄郎さんと榮太郎さんの仲は悪かったんですか?」

「『私の口から申し上げることは、ちょっと』」

琴音「ご一緒に写っている写真とか何かありますか?」

「『まあ、ございますが……』」

琴音「やっぱり榮太郎さんの顔に禄郎さんの顔は似てました?」

「『それは、まあ、親子ですから』」

琴音「晶さんと榮太郎さんは似てますか?」

「『そうですね、特に目元がそっくりですね』」

琴音「じゃあ、直人さんや典子さんは?」

「『どちらかと言うと母親似でしょうか』」

淀川「聖書はもともと、どこにあったんですか?」

「『あれは確か、常に祭壇の上に置いてあったはずですが』」

淀川「榮太郎さんが亡くなってから、ずっとそこに置きっぱなし?」

「『そうですね』」

琴音「開いたまま置いておくなんてことはなかったですよね」

「『それはないはずです』」

琴音「たまたま開いちゃっただけなのかな」

美崎「開きやすいページだったとも考えられますね」

琴音「ああ、そうかもしれない。――佐伯さんと禄郎さんは、随分親しいご友人だったんでしょうね」

「『ええ、そうですね』」

琴音「晶さんの代になってから、佐伯さんは以前のように親しく逆木原家とつきあってました?」

「『ええ、あまりお変わりなく』」

淀川「晶さんはお爺ちゃん子だったんですよね」

「『まあ、そうですね』」

淀川「ということは、ここに子供の頃にいた?」

「『ええ』」

琴音「子供の頃は全員ここに住んでた」

「『榮太郎様の代は、ご家族全員こちらにお住まいになってました』」

美崎「じゃあ、何で禄郎さんはこの家に住まなかったんですか? こんなに素敵なとこなのに」

「『何かと不便だからではないでしょうか』」

美崎「ああ、そうですね。――普通に納得します。こんな山の中じゃねぇ」

「『今日のように天候が悪いと、陸の孤島と化してしまいますから』」

琴音「ところで榮太郎さんは、図書室の英語の本をお読みになれたんですか?」

「『ですね』」

琴音「お子さんの禄郎さんとか、お孫さんの晶さんとかは」

「『特に外国語に明るいということは――』」

琴音「執事さんもクリスチャンだったりします?」

「『私は違います』」

淀川「ここは退くしかないですかね」

美崎「もういいや。寝よう寝よう。ひとりで部屋に戻ろうとしていますね」

琴音「なんかこの一家すっきりしないんだよなぁ」

淀川「ここは戻るしかないですね、ありがとうございましたって言って」

美崎「明日になって天気がよくなれば帰れるんだしー」

琴音「でも何か、このまま帰るのは――釈然としないと言うか」

淀川「いや、たぶん帰れないですよ。警察の取り調べが」

美崎「ええ〜っ。せっかくのクリスマスなのにぃ。まあ、いい男いたからいいけどぉ」

琴音「誰のこと?(笑)」

淀川「直人さん」

美崎「お金持ちだし〜」


(場面転換)


「では、庵の部屋を訪ねました」

西谷「俺は蛇を見たぁ〜っ! 俺は蛇を見たんだ〜っ!」

「『何ですか、いきなり?』(笑)」

西谷「あんたが俺以上に詳しいのは知ってるし、この家に関係を持って長いことも知っている。俺の頭が完全に狂ったのか、それとも俺の見たものに何らかのヒントをあんたが与えてくれるのか、とりあえず教えてくれ! 俺の正気を疑うあんたの気持ちは解らんでもないが、俺もこのままだと自分の正気を疑わざるをえないんだよ。――頼むよ! この家では壁の中に蛇を飼っているのか!?」

「『いや、僕は何とも』」

西谷「お前が訳している本の中に、こういうのは出てこないのかよ」

「『それはまあ、蛇に関する信仰は、世界各国で昔から……ぶつくさぶつくさ……』」

西谷「そんなことはあんたに訊かなくても知ってるんだから(笑)、この家で飼ってる蛇について教えてくれって言ってるんだ、俺は!」

「『いやあ、僕は何も知りませんが』<心理学>をどうぞ」

西谷「もしあれが蛇じゃなくて蜂だと言うんなら、俺はそれを蜂だと呼んでもいい。その代わり、蛇を明日から蜂と呼ぶ! ――と、わけの分かんないことを言いながら(笑)。
 (コロコロ……)大失敗ですね」

「演技に熱が入りすぎちゃって(一同笑)」

西谷「自分のことに精一杯で、相手を見ていないってやつだな」

「『僕に言われても解らないですけれど、そんなことは』」

西谷「俺が見たのは蜂か蛇か、それだけでいいから教えてくれ!」

「『じゃあ、蛇だったんじゃないですか?』(笑)」

西谷「そうかぁっ! 蛇かぁ! ――納得!」

相原「何も解決してないですよ、それ(笑)」

西谷「<心理学>ロールにヘマったんだもん。しょうがねえじゃん(笑)。立ち聞きしていた相原は、ロールしてくんないの?」

「いや、表情なども見てないと判りませんから、駄目ですね」

西谷「くそう、自己陶酔に陥ってしまった(笑)。――結局、庵のところに行っても、西谷自身は何にも手応えがなかったということで、でも、さんざん家中に触れて廻ってて、何か変化を呼び込もうという意図はあるわけで」

相原「あるけど――次に狙われる気がする(笑)」

西谷「もう、ここまで来たら。クトゥルフ神話のことなんて全然知らないから、そこまで深刻に考えてやってないでしょ」

相原「たぶんそうですね」

西谷「持ち前の三流記者魂で」

相原「えーと、こっちは、西谷が出ていくときに、入れ替わりで入っていきます。――何ですかアレは? とか言いながら」

「入ってきたんですね」

西谷「既にアレ呼ばわりされている。――蛇か蜂か、とか歌いながら出ていく(笑)」

相原「それはさておき、話してもらえませんか、本当のこと」

「『本当のこと?』」

西谷「つまり蜂か蛇か(一同笑)」

相原「晶氏から、全ては庵さんに訊けと言われましたよ。本当のことを話してないみたいですね」

「『何のことでしょうか。心当たりがないですね』」

相原「それはつまり、晶さんが嘘をついていると?」

「『いやぁ、何のことやら。見当もつきません。話が見えてこない』――もちろん<心理学>を振っても構いません」

相原「(コロコロ……)おお、成功」

「まあ、何か隠してまさぁな」

西谷「雑誌に載せるとき、蛇と蜂の館として紹介してやる(笑)。鳴風館じゃなく、蛇蜂館(じゃほうかん)とか(一同笑)」

相原「庵さんのほうを黙ってじっと見て、お願いします、と」

「じゃあ、<説得>振ってください」

相原「(コロコロ……)成功です」

「ぼそりと、『あまり首を突っ込まないほうがいいですよ』」

美崎「お。出ましたね」

「『僕が言えるのはそれだけですね』」

相原「少なくとも、同僚のアレを何とかしたいんですけど」

「『でしたら、彼の暴走を止めたほうがいい。彼のためを思うなら』」

山形「おおっと。恐いな。恐いな」

淀川「やられる前にやる、とか(笑)」

相原「なぜ本当のことを話してくれないんですか」

「『彼がどうなろうと、僕の知ったことじゃないですしね』」

相原「それはそうですけど……この館がどうなってもいいんですか?」

「『まあ、別に』」

相原「逆木原家がどうなっても、ですか?」

「『僕個人には、さほど関係のない問題ですから、構いませんけど』」

相原「だったらいいじゃないですか。教えてくださいよ」

「『教える必要もないでしょう』」

相原「あなたにとって私も他人ですから」

西谷「じゃあ、私も西谷の暴走止めるのやーめた。あいつ、あんたに何か腹に一物あるみたいだから、寝首かかれないように気をつけたほうがいいですよー、って(笑)」

相原「それでどうなるということもなさそうだが、とりあえず、そういうことを言って。――私が知りたいのは真実です」

「『真実というのは、人から教えてもらうものじゃありませんよ』」

相原「ですが、あなたが一番真実を知っていそうですが」

「『いや、僕の知ってることなんて、ほんのちっぽけなことにすぎません』」

相原「ですがあなたはこの現象について、何かの手掛かりを得ているんじゃないですか?」

「『そうですね。手掛かりを得ていないと言ったら嘘になりますね。しかし、まあ、僕の口から語ることでもありませんし』」

相原「では、せめてその本を貸していただけませんか? 又貸しでも構いませんが」

「いやいやいや(笑)、『僕は構う』」

山形「証拠として押収。――言ってくれれば、犯人隠匿の罪で捕まえることができる(笑)」

相原「事件解決のためには、庵さんの協力を得るのが一番手っ取り早いと思うんですよね」

「『でしたら、僕はその協力を拒否させていただきます』」

相原「それは――人が幾ら殺されても構わないと?」

「『まあ、僕が殺されなければ構いませんが』」

相原「あなたが殺される可能性は皆無だと?」

「『そうですね。僕は圏外ですから』」

相原「圏外?」

「『僕は網の外ですから』」

相原「網の外」

「『それでは、お休みなさい』(笑)」

相原「圏外、ね。――これだけやって駄目なら、もう、刑事の力を頼るしかないでしょ」

山形「それを言いに来る?」

相原「うん」

山形「じゃあ、無線で、重要参考人として連絡しておく。俺が死んだら重要参考人は彼だから、彼を指名手配になるようにしておくよ(笑)。
 今、重要参考人として晶と庵を指名しておく。でも、彼は確実に何かを知ってる旨、だから、もしこの事件で私が死んだら、彼が犯人として指名手配されるように、無線で」

「そこまでできるんでしょうか。――まあ、正式な手続きではないにしろ、信頼できる同僚に教えとくわけですね」

山形「怪しいんだ、こいつは。いやひょっとしたら俺の命も危ないかもしれない、と言って」

相原「自分が"圏外"だと言っていたけど、それが何を意味しているかだよね」

西谷「犯罪について明らかに知っていながら――」


(場面転換)


山形「その間に、尾道さんに話を訊きたい」

「はいどうぞ。尾道で〜す」

山形「いつからこちらに勤めてらっしゃるのですか?」

「『禄郎さんの代に、既に市のほうで禄郎さんのお宅の使用人として雇われていました。それでそのままこっちに来たわけです』」

山形「そのときの禄郎さんの様子とかも」

「『厳しい方ではありましたけど、ちゃんと見るところは見てくれる人でしたよ』」

山形「榮太郎さんについては何か知ってることはございませんか?」

「『榮太郎さんのことは知りませんね』」

山形「ここに勤めるようになってから何か怪しいものを見かけたとか、怪しい音を聞いたとか、そういうのはないですか」

「『別にないですね』」

山形「何かを目撃したとかないですか? 蛇のようなものを見たとか」

「『いやあ、知らないです』」

淀川「――晶さんが礼拝堂に入っていたのは初めて見た?」

「『初めて見たわけではないです』」

山形「尾道さんに話かけてみて、何か嘘をついてるような感じでもある?」

「いや、別に正直に答えてるみたいだよ」

山形「じゃあ、本当に何も知らないんだ」

淀川「どういうときにいたんですか? 礼拝堂の中」

「『まあ、何となくひとりで佇んでいらっしゃいましたよ』」

淀川「結構しょっちゅう? それとも最近になってから? 特に何をしてるってわけでもなし?」

「『まあ、私もじろじろと見たわけじゃないですから。特に何かされてるふうではありませんでしたよ』」

山形「じゃあ尾道さんは何も知らないということで」

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