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Act.8 壁の中が大いに気になる



機械的な工作を説明できたところで何になる?
心理的な側面からは、この密室はまだまだ謎だらけじゃないか。

― 信濃譲二

(歌野晶午 『白い家の殺人』)



西谷「ちらっと思ったんですけど、山形さんが採取したネバネバありますよね? あれは誰かチェックしなくていいんですか?」

「ああ、あれは調べている人いないですね」

西谷「医学生とか? とりあえず、生物(なまもの)に強そうな理系の方」

山形「私の部屋に置いてあります、タッパーは」

「あれ調べたい方は<化学>ロールになりますな」

西谷「<化学>ロールは全然ないんですけど、理系の人――直人にロールさせるとか」

「それと、誰が見たかにもよるしな――」

山形「誰が見たか?」

「まだ見たのは四人(山形・相原・西谷・淀川)だけですよね」

山形「それではタッパーを取り出して。それにしても、ここに顕微鏡とかってあるのか?」

「そういうのはないけど、」

西谷「見て判るところだけでも」

山形「俺にはそういうのは判らないから鑑識に廻そうと思ったけど、この吹雪じゃなぁ、とか言って」

西谷「鑑識じゃないにしても、判りそうな人いるじゃないですか」

山形「と言って、直人に」

西谷「直人もそうだし、鷹見さんもそうだし」

山形「鷹見さん? あ、そっか。じゃあ、頼む」

「それでは、見せるのは、琴音と直人?」

西谷「その順番がいいかな」

「じゃあ――(琴音に)見せられた(笑)。リビングで」

琴音「これは何?」

西谷「かくかくしかしかじか……礼拝堂の惨殺死体のあったそばにあった穴の周りに付着していた……」

琴音「まあ、穴が!?」

美崎「えっ、マジで!?」

「それでは、今までも含めて、見た人全員<化学>ロールしてみてください」

美崎「<化学>ロールってことは、01%で成功しろということですね(笑)」

(コロコロ……)

相原「惜しい! 02!」

美崎「おおっ! 成功だっ!!(一同拍手) 貴子ちゃん、やっと成功だ! っていうか、何か役に立った?」

「何で知ってんだ!?(笑)」

美崎「よく解らないけど、成功しました」

琴音「片栗粉じゃないの?」

「まあ、見たことはないけど、予想がつくのは、何らかの生物の体液関係ですね。有機的な」

美崎「ゲッ。――鼻水みたい」

「更に――<クトゥルフ神話>振ってください」

琴音「おっ! (コロコロ……)はい、解りません(笑)」

淀川「恐いよ、ひとりで何か理解してるよ(笑)」

美崎「なんかこれ、鼻水みたいでやだなー」

「見たことはない。こんなもんは」

西谷「でも間違いなく生き物の躰から出たものだと」

「そうです」

西谷「それを踏まえたうえで、更に、直人に見せてみる」

「じゃあ、直人くんも見せられた。――直人くんだけに見せるんですか?」

西谷「他に誰か、強い人いましたっけ? ――庵とか協力してくれんのかな。いや、嘘言いそうだな(一同笑)。
 ――とりあえずこの場合は直人だけで」

山形「協力しましょうか、って彼は言ってたから」

西谷「あと、見て役に立つかどうかは別にして、霜月にも」

琴音「直人・霜月コンビ」

「じゃあ、見せました。直人・霜月コンビが、『何ですか、これは?』『フムフム』と言いながら――(コロコロ……)――では直人くんが、『よくは判んないですけど……』と、まあ、同じようなことを言うね。『何かの生き物の体液というか何というか――あまり、人工的に作られたものではなさそうですね』」

琴音「何で貴ちゃん知ってたの?」

美崎「なんか、鼻水みたいな気がしたしたんだもん」

「(笑)直感で判ったんだ」

美崎「たぶん、かなり直感です」

淀川「探偵だ(笑)」

琴音「もしかして礼拝堂って、私たちの知らない仕掛けがいっぱいあったりしたわけ?」

美崎「そういうことになるね。何か、きっといるんだよ。何か――」

淀川「いるんだ! どうしよう!(笑)」

西谷「空洞があることは、はっきりしましたよね。空洞の中なんかに、たとえば鼠みたいな生き物が巣を作るとか何とかで、不本意ながら勝手に繁殖していて、そういった生き物って、やっぱりこういう体液を分泌するもんなんですかねえ」

「『いや、僕は聞いたことないですよ』」

西谷「うーん、直人くんでも判んないか」

美崎「じゃあ、鼠の鼻水だよ」

琴音「嘘つけ!(笑)」

美崎「判んないながらも言ってみたり」

西谷「――尾道さんは?」

「尾道さんは、もう晩飯の準備してる頃です」

西谷「ああ、準備か。じゃあ、掴まえるわけにはいかないか」

淀川「礼拝堂も調べ尽くしましたもんね」

「ですね」

淀川「やることやったって感じですよね。――物置調べたいんですけどね、理由がないんですよ。遺品探したいんですけどね」

美崎「何か事件の手掛かりが、とか。探偵風に言えば(笑)」

淀川「僕の直感が騒いでいる、とか言って」

美崎「ゴーストが囁いてるんですよ(笑)」

西谷「――六平さんに訊いてみたいんですけど」

「はい、すぐに掴まります」

西谷「――壁の中に、粘液出すような生き物、住んじゃってません?」

琴音「恐いなぁ」

「『いやあ、とんと見当がつきませんが』」

西谷「でも、これだけ広い屋敷だし、石造りなわけでしょ? 外がいくら寒さ厳しくても、中の温度変化ってのは外ほどじゃないし、おまけに毎日ここで人間が生活しているわけだから、食べ物やら何やらに困るわけでもないし、絶対これ、害獣駆除じゃないけど、改めるべきですよ。――と、さも知ったかぶって」

「『館改装の際に、そういったことは全て業者さんにお願いしたんですけども』」

西谷「業者、呼びましょうよ! ――いや、呼びはしないけど、電話ぐらいしましょうよ! こういうトラブルがあって、改装も何もあったもんじゃないじゃないですか」

山形「ああ、そうか! 業者という手があったか! ――業者さんに、改装のときの状況を」

相原「晶さん確か、改装のときの写真を持ってると言ってた」

西谷「そうだ、それ見せてもらえる約束だもんね」

山形「やっと先が見えてきた(笑)」

美崎「――ちょっと、いいですか? その間に。――執事さんにですね、壁の中に入れるかどうかを訊いてみたいんですが。入れるんですかー? こん中って?」

「『いえ、入れませんよ』」

美崎「なーんだ。ちぇっ。――でも何か、変な生き物が入ってたりとかするんですよね。どうやって入ったんでしょうね?」

「『変な生き物――?』」

美崎「鼠とかー」

相原「可能性の話ですけど、あるとすれば、晶さんの寝室から地下に下りてそこから――ってのがあるんですが」

美崎「外に穴とかあるんですよね?」

「『ありますね』」

美崎「そういうとこから入ったのかなぁ」

相原「ちなみに、今も音はしてるんですか?」

「鳴動ですか? してますよ、時折」

淀川「ところで今、他の人たちはどうしてますか? たとえば滝口さんとか」

「たとえば滝口さんはですね、この館を舞台に新作映画ができないものかと、色々見て回ってるようですね」

淀川「凄ぇ(笑)」

西谷「滝口と共謀して、壁の中に入る」

琴音「何で滝口さんと共謀して?(笑)」

西谷「それはファンだから」

琴音「((((笑))))))」

美崎「『SISTER』の(笑)」

「どうやって入ろう」

西谷「どうやって入ったものかな。――懐中電灯を鷹見さんに借りるとか」

琴音「貸さないわよ、私は絶対」

美崎「あーあ、せっかく壁の中に淀川入らせようとしたのに(笑)」

淀川「はまっちゃうよ淀川(笑)」

山形「六平さんに業者の電話番号を訊いて、あと改築前の写真を見せてもらって」

西谷「取材のためだからということで、相原さんを通じて。――今こんなこと起こっちゃってますけど、我々もご迷惑かからない範囲で、なるべく速やかに引き上げますんで、仕事続けさせてもらえますかね? ――っていう感じで、約束の資料を全部さらわせてもらうという。
 で、鷹見さんに、カズ兄貴に連絡取ってくれ、と。屋敷の人間にはひと言も言わなくていいから、ここの内装工事とか請け負った業者全部洗って、連絡つくヤツ片っ端から当たるように言ってくれ」

琴音「うーん、そっちに行くんですね?(笑)」

「OK、OK」

美崎「高坂和義が」

西谷「中に何があるか、洗いざらい吐かせるんだ」

山形「高坂さん、使いっ走りですか(笑)」

西谷「走ってもらわないと」

美崎「神話事件に関わってますからねぇ、前回」


(あるいは、他のプレイヤーキャラクターを、プレイヤーの許可なくシナリオに登場させてしまうことには反対意見もあるかもしれませんが、面白い展開なのでOK、OKです。しかし無論、高坂のプレイヤー氏には、無断借用してしまったことの報告と陳謝をせねばならないでしょう。勝手ながら、この場を借りてお詫びと御礼申し上げます。
 なお、高坂和義に関しては、『闇に用いる力学』をご参照ください)


「さて、何から解決しようかな。――では刑事さん」

山形「はい」

「写真など、色々資料を揃えてくれます」

山形「現在のやつと見比べて、どこが違うかとか」

「そうですね、やっぱり見た目ですね。壁紙とか床板とか。目に見えて違うというのは、綺麗になったなという程度ですよ。別段、大改造されたようなことは」

美崎「造りが変わったというのは?」

「そういうのは見当たらない」

山形「じゃ、業者に電話」

「それは高坂さんがやってくれてるかな」

相原「そうですね」

淀川「物置を見てみたいんですけど」

「別段、変わったものはないですね」

淀川「遺品っていうのは――?」

「それは二階の物置になりますね」

相原「寝室Aのほうは、施錠されていたんですか?」

「施錠はされてないですよ」

相原「開けていいですか」

「いいですよ。何もないですが」

相原「二階の空室と物置を開けてもらいます」

「空室のほうは、特に何もないですね。空っぽです」

相原「壁をトントンやってみてもないですか」

淀川「じゃあ、向かいの物置を。――あのペンダントみたいなのがないかどうか、探してみます」

「<目星>をどうぞ」

(コロコロ……)

淀川「一応、成功しました」

「では――、ないことが判りました」

淀川「探し尽くしてみて?」

「そうですね」

相原「執事さんに、肖像画にあったペンダントのこと知ってますか? と」

「思い出したことにしよう。『あのペンダントは、いつも榮太郎様が首から下げていらっしゃいましたけど――』榮太郎が行方不明になった話は、刑事から聞いてますか?」

淀川「聞いてはいるかもしれないけど――」

「刑事があなたたちに言ったということを六平は知っていない――。ですね。じゃあ、特にそれ以上は言わないですね」

淀川「何か隠してるなって、判ります?」

「まあ、判っていいですよ。急に口ごもったから」

淀川「何だろう。――ここだけの話にしておきましょう。あなたが何か隠していることは判っています、と」

「<言いくるめ>? どうぞ」

淀川「(コロコロ……)ああっ、失敗。大学生探偵、さらばだ(笑)」

相原「(コロコロ……)こちらは成功してますけど」

「なんだか、とことん成功しているイメージあるなぁ(笑)。じゃあ、言っちゃおう。『榮太郎様はいつもあのペンダントをつけていらっしゃったのですが、お亡くなりになったときは外されてましたね』」

淀川「ほーう」

相原「どこかに置いてった? 礼拝堂とかに」

「『確か、ご自分のお部屋に置かれてたと思います』」

相原「それの現在の行方は――この物置にないとなると、判らない?」

「『判らないですね』」

相原「書斎と晶の寝室を調べたいな。こっそりと。これが一番手っ取り早い」

山形「ペンダントは晶が持ってるんでしょ?」

相原「たぶん」

淀川「でも、こっそり探してペンダントが見つかっても、事件との繋がりが全く見えないし――」

「やがてすぐ晩飯になりますよ」

美崎「晩飯になりますか」

山形「業者に連絡して、何か判ったことあるの?」

「そうだね、じゃあ、晩飯のあとにそれを教えてあげよう。晩飯とはいっても、みんなバラバラって感じですけどね。みんな揃って楽しく、というわけにはいかないですねぇ」

琴音「まあ、そうでしょうね」

西谷「でも料理はいっぺんにされるわけだから、スタート時刻は一緒になるわけですよね」

「はい。まあ、食べたい人が食べたいときに来て、って感じですね」

美崎「じゃあ、ご飯食べに行きますね」

琴音「行きます」

「ちなみに、晶さんは部屋に運ばせたみたいです」

西谷「カズ兄ぃからの連絡は、飯のあとになんないと来ないだろうし――」

相原「庵さんのほうは?」

「自室にいるみたいですが?」

相原「庵さんのところに行って、――実はちょっと、興味がありまして、本を貸してはいただけないでしょうか」

「『本と言いますと、僕が翻訳している?』」

相原「ええ、そうです」

「『あれはまだ途中ですし、僕の所有物でもないので、お貸しすることはできませんね』」

相原「じゃあ、少し話を聞かせてもらっていいですか」

「『どんな話です?』」

相原「翻訳の内容です」

「『そうですね、十二、三世紀頃の、自称魔術師が書いたような、そういうオカルトの書物ですよ』」

相原「オカルトと養蜂が何で結びつくのか、訊きたいのですが」

「『さあ、晶さんの考えることですから』(それに"結びつく"なんて言ってませんよ)」

相原「それと、星の形の話とかは出てきてますか?」

「『星の形の話?』」

相原「ええ。紙にささっと書いて、こんな感じですと」

「『ああ、そんなものが榮太郎さんの肖像画に描かれてましたね。――まあ、こういった図形は、書物を漁っているとたまに目にしますが』」

相原「出てきますか、やはり。――ちなみに、題名については?」

「ああ、この本ですか? 『魔女の槌』です」

美崎「ああ、あれですね。――ええと、ご飯食べてますよね? で、食堂に逆木原直人はいつ来るでしょうか?」

「もう来ていいですよ」

美崎「来てますか。じゃあ、食べる速度をチラチラ見ながら、合わせて、同じくらいに終わるようにします」

「じゃあ、同じくらいに食べ終わった」

美崎「終わったら近づいていって、ちょっとお話ししません? みたいな感じで」

「『え? なんでしょう?』」

美崎「ちょっと、色々と訊きたいことあるんですよね? と、(琴音と)ふたりで」

琴音「(笑)」

「『なんですか?』」

美崎「直人さんのお父さんって、どんな人だったんですか?」

「『父ですか。そうですね、仕事ばかりっていう感じの人でしたね。あまり僕らのことは構ってくれませんでした』」

美崎「どんな仕事してた人だったんですか」

「『今は兄が引き継いでますけど、色々な会社の経営って感じですね。まあ、悠々自適でしたけど』」

美崎「なるほど」

琴音「直人さんのお母さんは、もう?」

「もう亡くなってますね。父親より先に。彼を産んでまもなく」

琴音「お兄さんって、小さな頃から、ああいった虫とか何とか好きだったんですか?」

「『まあ、そうですね。途端に興味を示したものをとことん追っていく、みたいな人です』」

美崎「お爺さんとお父さんって、似てたんですか?」

「『そんなに似てるってほど似てはいなかったですよ。どっちも厳しい人ではありましたけど』」

琴音「お爺さんの息子がお父さんなんですよね?」

美崎「養子じゃなくて」

琴音「で、禄郎さんの息子さんが直人さん」

「はい。三兄妹ですね」

美崎「直人さん、お父さんに似てるんですか?」

「『僕はどちらかというと母親似と言われてましたね』」

美崎「じゃあ、お母さんって美人だったんですね。きゃはっ。とか、わけの分かんないこと言って引っ込みます(笑)」

「さて、業者さんに連絡を取ってくれた高坂さんですが」

西谷「待ってました!」

「『おう西谷、久しぶり』とかいう挨拶もそこそこに、大事な用件を――。業者さんですが、逆木原晶氏から厳命を受けていたらしくて、館の改装――と言っても外装だけではあるけど――まあ、壁の中に空洞があって、音が鳴る仕組みとかは業者さんもあらかじめ言われてたそうなんですけど、そちらには一切手をつけないように、と」

西谷「あ、手をつけないように?」

「そこはもう、完全にもとのままで改装するように、と厳命されてたらしい」

相原「ちなみに晶さんの寝室と書斎なんですけど、あそこの改装は命じられてたの?」

「そのへんは壁紙程度ですかね」

相原「床板は?」

「手をつけてないようですね、床板は」

西谷「高坂と電話繋がってるんですよね?」

「繋がってます」

西谷「――ついでで悪いんだけどさ、そのときに、こういったベトッとしたものがついたりとか、そういった話って聞いたことあるかな、現場の人から?」

「『なんだそれ? 聞いてないけど?』」

西谷「いや、半信半疑なのは解るんだけど、どうしてもこっちで気になることがあるんだよね」

「『解った。訊いておくよ』」

西谷「お願いします。――ここで、事故にでも遭ってるような業者でも出てくれば――」

山形「行方不明とか(笑)」

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