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Act.6 数学者の過去


「数学の答は、ときとして、現実には滑稽なものだ」




(場面転換)


「時間はお昼過ぎに戻って、ジャーナリストのふたりです」

岸野「午前中に、是が非でも写真撮っておけばよかったなあ」

西郷「私は午後は猫鼠洞村で、民宿の仲居さんが話していた、沢村ハルさんちとか、その他お爺ちゃんお婆ちゃん長老たちの繰り言を聞きに」

「沢村さんちは、誰かに訊けばすぐに場所は判ります。行ってみますと、ご主人のおやじに話を聞くことができますが、具体的に何について訊きますか?」

西郷「まず、取材でこの村に来たことを話して、ちょっと前のことになるけれども、不審な話があることを聞いて、実際お宅に行って話を伺おうと思って来たんですが」

「不審な話というと?」

西郷「ハルさんについて」

「あれは7年前のことだな、と話し始めます。『そもそも、あの薄気味の悪い麻耶野の家に、あいつらが住むようになってから、何かがおかしくなったんだ』」

西郷「7年前に麻耶野さんがやって来たんですか?」

「だいたいね」

西郷「あっちの村のですよね?」

「そうそう。『主はいっさい姿を見せないし、薄気味悪い男が買い物に出歩いていたりするし。――ただ、そうそう、引っ越してくる半年くらい前にも1回、あそこの女の主がひとりで水火水村に来たらしい。見た奴がいてな』」

西郷「ほう」

「『と言うのも、その見た奴というのが、あんたよりも年上だし男だけど――あんたみたいな記者さんで、女――麻耶野数美――の写真を見せながら、この人が来ませんでしたか、と色々と訊いて回っていたな』」

西郷「それを訊いて回っていたのは、今から7年半くらい前ってこと?」

「そうだね。引っ越してくる半年くらい前だから」

西郷「そのジャーナリストの名前とか、名刺とか残ってないですか?」

「『それはもうないな。――ただ、その人は行方不明になってね』」

西郷「はい?」

「『その翌日、この村の民宿に荷物を置いたままいなくなったそうだよ』」

西郷「ジャーナリストが、この人知りませんかと麻耶野数美の写真を見せて回っていて、その翌日に消えた……で、しばらくしてから、麻耶野家に彼女らが引っ越してきた、と」

「『引っ越してきてまもないくらいかなぁ……うちのハル婆さんが、あそこの使用人の男とふたりで、あっちの家のほうに歩いていくのを見たって奴がいてね』」

西郷「え? あの使用人と?」

「『そして、その夜になっても婆さんが帰ってこなかったんで、探したんだが、朝早くになったらひょっこり帰ってきて』」

西郷「そのときは普通だったんですか?」

「『まあ、普通って言えば普通だけど、何も喋ろうとしなかったな。どこに行ってたとか、何してたとか、全然。いつもどおり、ぼけーっとしてたよ』」

西郷「失礼ですけど、呆けていらしたわけではないですよね(笑)」

「ちょっと始まってたけど、呆けてはなかったそうです。『そしたら次の日に、あっさりぽっくり逝っちゃってな』」

西郷「朝発見されて、そのまま1日何事もなく過ごして、翌朝もうぽっくり? ハルさんは、麻耶野さんと知り合いだったとか?」

「『いや、そんな話は聞いたことがないな』」

西郷「ハルさんって、日記つけてません?(笑)」

「『つけてないねえ』」

西郷「つけてないんですね(笑)。ちなみに、死因はなんだったんですか?」

「『死因は、まあ、老衰』」

西郷「でも、お元気だったわけですよね。前日までは」

「『まあ、でも、年寄りは突然逝くからねえ。……でも、あの麻耶野っていう奴たのところで、何かあったんじゃねえかなって思うんだよ。上手く言えないけどさ』」

西郷「ちなみにそのときは、ハルさんはお幾つだったんですか?」

「『80歳だったな』」

岸野「ハルさんが亡くなったとき、身内で他に不幸とかあったのかな? ハルさんと親しい人が亡くなったとか」

西郷「訊いてみます。ハルさんの死の前後に、何か変わったことはなかったか。誰かが亡くなられたとか」

「別に、前後に人死にはないそうです」

西郷「ないか。――その後、麻耶野のおうちに関すると思われる変な事件とかは?」

「『これといって聞きはしないけど』」

西郷「半年前の殺人事件と、昨夜の殺人事件と、まだ犯人は全然、警察のほうでは見当がつかないみたいですけど、何か、噂だけでもいいんですけども――」

「『噂ねえ。うーん、やっぱ、あの麻耶野が越してきてから、空気が変わったって言うか、なんかおかしな感じになったような気はするなあ』」

西郷「ハルさんと親しかった人で、今もまだご健在の方がいたら教えていただきたいんですが」

「『ああ、それなら、タツ婆さんがお茶のみ友達だったよ』」

西郷「じゃあ、タツ婆さんの住所を聞いて、それと、行方不明になったジャーナリストが泊まっていた民宿っていうのも」

「貴方が今泊まっているところです」

西郷「あ、なんだ」

岸野「不吉な空気だ」

西郷「え、不吉なのかな? ラッキーとか思ってしまった(笑)」

山形「そしてジャーナリストの女はいなくなったとさ(笑)」

西郷「タツ婆さんとこに行って、お茶を飲んで話します」

「大変耳が遠いですよー。<大声>ロール」

(そんな技能はありません)

西郷「大きい声で喋りまーす。こんにちわー! ――要するに、ハルさんの行動が不自然だったから、何か覚えていることとかあったら教えてちょうだい! っていうのを」

「『あんだって?』」

西郷「一生懸命に言います!」

「『とんでもねえ、あたしゃ神様だよ』(一同笑)」

山形「そっちか!(笑)」

「えー、そうしましたら、『ハルちゃんが、なんであんな家に行ったんだろうねえ』」

山形「方言で聞き取れなかったりして(笑)」

西郷「それ以前に、麻耶野さんちと行き来があったりとか? 水火水村出身だったわけでもない?」

「『それはない』」

西郷「なんか、ハルさん、こぼしてませんでしたか? 気にかかることがあるとか」

「『そう言われてもねえ、そうだねえ、やっぱり、年寄りになって呆けてくるから、なんでもいいから仕事とか趣味とかしたほうがいいのかね、なんて話はしていたかねえ』」

西郷「タツさんは、水火水村に人がいなくなったときのことを覚えています?」

「『見たわけじゃないけど、覚えてるよ。50年も前だったかね。朝になったら誰もいなくなっていたなんて、大騒ぎで』――で、一夜にして消えたその夜に、このお婆さんが見たわけではないですが、水火水村の湖の岸辺のほうの上空に、光を見たと言うか、空が光っているのを見た人がいるらしいよー(笑)」

西郷「タツさん自身は、みんながいなくなったことを、どういうふうに考えていますか?」

「『さっぱり判んないねえ』」

西郷「そのときは、麻耶野さんの家はあったんですよね?」

「『そうだよ、もともとあそこはあの村の網元だったんだから。でも、当時の当主がなんだか、かぶれちゃってね、ほら、算数だか何かに』」

西郷「あー、はいはい。そのお爺さんには、当然、奥さんもお子さんもいたんですよね? その人たちは、どうしちゃったんですか?」

「『やっぱりいなくなったみたいだよ』」

西郷「え! 水火水村のみんながいなくなったときに、奥さんもお子さんも、いなくなっちゃったの? じゃ、お爺ちゃんひとりで残っちゃったってこと?」

「お爺ちゃんもいなくなっちゃった」

西郷「え!? お爺ちゃんもいなくなっちゃったの? じゃあ、今いる数美さんっていうのは、どっから来たんですか?」

「『あたしに訊かれても判んないよ』――そのときいなくなったと言っても、死んだわけではなく、どこかに引っ越したという可能性もあるわけで」

西郷「数美さんという人は、7年くらい前に戻ってくるまで、この辺では見かけたことはなかった?」

「うん。なかった」

山形「じゃあ、そういう人は存在しなかった――?」

岸野「定義したからこそ存在している自分っていうのが、数美の正体なのかなあ」

西郷「あと、湖のあたりで、でっかい、こーんな幅のある化け物みたいなのは見たことがないか、って一応訊いてみる(笑)。噂も聞いたことない?」

「『いやー、それは』」

西郷「跡を見たんですよ。だから絶対いるんです。聞いたことないですか?」

「『ないねえ。童(わらし)どもが騒いでいたぐらいで』」

西郷「うーん、駄目だったか。巨大生物、否定されてばっかりだよ。――じゃ、失礼して、あと民宿のおばさんから、消えたジャーナリストについて聞き出そう」

「では、その間、岸野さんは――」


(場面転換)


岸野「麻耶野家を写真に収めて、家をひと廻りして何もなければ、――とりあえず、鳴兎子湖の周辺で釣り道具とか扱っている業者さんを今日いっぱい使って渡り歩いて、レジャー雑誌の取材だという触れこみでサービスや料金についてひととおり訊いてから、冗談めかして、噂があるけど未知の生物なんて棲んでない? なんて話を訊いて、実はこっちの話を事細かに聞いて、与太話でも、子供らの間で流行った話でも、収集して参ります。
 記事自体は、そういたネタを総合して文章に書いちゃって、送っちゃって仕事を終えられるようにしておきたい。で、あとは数美の研究が本当はなんだったのかということに俄然興味が湧いたので、そっちに時間を割きたいんですよね」

「では、怪物話を聞いて廻りますと――噂話とか目撃証言が出るようになったのは、5年くらい前から。でも、実際に、本当に見たという証拠はないみたいです。湖面がざわついていたとか、夜中に大きなシルエットが見えたとか、不気味な鳴き声が聞こえたとか」

岸野「そういうのは、共通してるんですかね? そういう証言の1個1個を集めていくと、だいたいこれぐらいの大きさで、こんな外観であろうとか」

「そういった具体的な手がかりはないですね」

岸野「噂だけで、実体が伴っていないような感じ?」

「そうですね。それと、岸辺に体の一部が引きちぎられていたり溶けていたりする魚が打ち上げられることは、ここ数年でちょくちょく見られるらしい」

岸野「じゃ、釣具屋とかボート屋の人たちに、――気になる魚の死骸があったんだけど、あれってやっぱり、この湖にいる生き物が食い荒らしてるわけ? と訊いてみます」

「『いやあ、判んないけど、工場からの廃液が悪い影響を与えているんじゃないかって噂もあるよ』」

岸野「なるほどね。そういうので市民運動とか、水質調査なんかもあったりしたの?」

「『ああ。でも国はなかなか動いちゃくれないよ』」

岸野「へー、酷いもんだねえ――と話を合わせておいて」

「『昔は魚がいっぱい捕れてたみたいだけどね』」

岸野「この怪物って、あんまり、実体ってないのかもね」

西郷「そのへんは心配しなくたって、私が色々書くからいいんですよ(笑)」

岸野「午後いっぱいで情報を集めたら、民宿で西郷と落ち合って、話をして、このネタだけでちゃちゃっと書けるよね? と」

西郷「書きます書きます。記事の署名は岸野さんでもいいですから」

岸野「任せた」

西郷「民宿に戻ってきたら、仲居さんに訊かなきゃ。7年ぐらい前に行方不明になったジャーナリストがいるんですよね!?」

「あ、ちょっと待ってください。午後の部が終わって夜に入りますので、刑事さんたちに変わりましょう」


(場面転換)


山形「岸野の電話番号知ってるよね? かけます」

岸野「あ、電話だ」

山形「やあー♪ いつもの、無償で何かを頼むときの、やばい雰囲気がひしひしと(笑)」

岸野「プツッって切ったりして」

山形「つれないなー」

岸野「どちらにお掛けですか?(笑)」

山形「あ、いいのかな? いい情報があるんだけどなー」

岸野「あ、なんだ、山形さんじゃないですか(笑)」

山形「数学者のところであったことを、かくかくしかじか話して、なんやかんやあって、夜に見張っていてほしいんだけど(笑)」

岸野「夜、見張る? 一般人の我々が?」

山形「装備が色々あるから、届けてもいいよ(笑)」

西郷「でも、夜寝ないと、昼間活動できないっすよ。いいじゃん、警察官いっぱいいるんだから、警察官に任せれば」

岸野「でもなあ、これもギブアンドテイクの関係だしねー」

西郷「でも、その代わりに、何が貰えるんですか?」

岸野「何も貰えないかもしれない(笑)。奴のやり口だからな。逆に、これをネタにこっちが要求するとしたら、何がいいかなぁ」

西郷「――何か起こりそうなんですか? その森で」

山形「起こりそうなんだ。いや、別にネタいらないって言うんだったら――せっかく目撃して記事にできるチャンスだと思ったから連絡してあげたんだけど、なー。いらないんだったらいいよ(笑)。撮るチャンスじゃないかなと思うんだけどなあー」

岸野「行っちゃおうか?」

西郷「あの殺人事件も大事だけど、でっかい生物(笑)についての情報を警察が出してこないので――うーん」

山形「そっちは追ってないもん。気にはなってるけど」

岸野「まあ、単純に考えてそうだよね。――あまり民間人ただで使うと、民間人もただで色んなこと書いちゃいますよ、山形さん」

(侃々諤々の話し合いの結果、UMAのみならず、殺人事件にも首を突っこむことにした岸野さんでした)

西郷「肌に悪いから私は寝ます。行くならひとりで行ってください(笑)」

岸野「落ち合う時間決めましょうよ、山形さん。こっちも仕事の残りがあるんで、今すぐ腰を上げてってわけにもいかないんですよ」

西郷「とりあえずこっちで民宿の仲居さんに話を訊いてから、返事をしましょう」

岸野「こっちで2、3時間、仕事を片づけなきゃなんない。あらためて、こっちから電話をかけるよ」

山形「じゃあ、連絡してくれ。こっちで手に入れたネタがあるから、それをちょっと読んでからがいい」

岸野「今から2時間後ぐらい――9時に電話します」

山形「期待してるよ! 第一線に戻りたいでしょ?」

岸野「はいはい(笑)」


(場面転換)


山形「じゃあ、持ってきたノートを読まないと」

「かなり薄汚れておりまして、消えかかっている字もあるのですが、どうやらこれは、――麻耶野史丈(まやの ふみたけ)という人物がものした覚書らしい」

浮田「ほー」

「かなり読みづらいので、読解には、<日本語>ロールを」

山形「うぉー。ふたりで読むぞ!」

浮田「いや、とりあえず僕は、『他元数学概論』を」

「そっちを読むには、<アイデア>ロールを」

浮田「はーい」

山形「(コロコロ……)<日本語>成功!」

浮田「(コロコロ……)あ、<アイデア>も成功しました」

「では、順番的に『他元数学概論』のほうから説明したほうがよさそうかな」

浮田「はーい」

「時間があまりなかったので、斜め読みではありますが、まえがきには比較的解りやすいことが書いてありまして、そこを中心にまとめますと――、他元数学とはそもそも麻耶野数美の祖父である、麻耶野丈之助(まやの じょうのすけ)が発案し、父・麻耶野史丈が、それを否定したらしい」

浮田「ほー」

「しかし、自分――数美は、祖父の考えを受け継いだ、と書いてある。まえがきをひととおり読んで解るのは、自分の父に勝ち、かつ、祖父を超えたい――そういった心理と言うか意気ごみと言うか、そういったものを読み取れます」

浮田「はいはいはい」

「彼女が特に言いたいことは、――目に見えるものだけが存在するものではない。定義可能なものは、たとえ信じがたいものであっても存在可能なものである。世界はすべて数学で説明づけることができる。数学とは世界のルールである。我々は我々の数学を通して世界を定義している。我々の数学を使わなければ、世界を認識することができない」

浮田「ははーん、なるほど」

「そこで、我々の数学とはまったく異なる数学を定義することができれば、すなわち、我々の世界とはまったく異なる世界を定義することができる。他の世界には、その世界独自のルール――数学がある。祖父はそのひとつを発見し、“他元数学”と名づけたー! ババーン(笑)」

浮田「“発見”って、なんだ?」

岸野「どうやって発見できたんだ?」

浮田「定義じゃなくて発見なんだよね」

西郷「定義されてるのを発見したんじゃない?」

「で、肝心の内容ですが、やはり専門的すぎてよく解らないですが、本の中に書いてある数式は、数美の部屋で見たホワイトボードに書いてあった数式と、非常に似ている。細かいところまで同じかどうかは判らない」

浮田「あー、なんか、こんなのは見たような気がする」

「πが多くて、円とか球とかに関する式が多く含まれているらしい。――それと、本文に書いてあることですが――、現在、この他元数学を、我々の世界の数学で表現する研究を進めている。言うなればこれは、“翻訳”と呼べるかもしれない」

浮田「ははーん。なるほど」

「証明式完成の暁には、本書の第2弾を上梓できるだろう――と書いてある」

浮田「なんだ、やっぱり書く気だったんだ。今はそうじゃないけど」

西郷「7、8年前の段階ではね」

「まあ、そんなところですねー。――で、祖父と父の名前が判ったところで、さきほどのノートのほうですが。
 これは史丈――数美の父ですね――の覚書でして、えーと、それでは、読解した方はさらに<アイデア>ロールを」

山形「何ぃー。(コロコロ……)成功です」

「これはおそらく、自分だけに判るように書かれた覚書ですね。やはり数式がいっぱい書いてありまして、その数式だけはちゃんと読み取ることができました。この数式は、数美の部屋で見たものと非常に似ているけれど、微妙に違うような気がしてならない。――似てるけど非なるものだな、ということが判ります」

山形「数美のは間違っているのか? こっちが正しいのか?」

浮田「違う数式が、史丈だけのために書いてある――?」

「まあ、この式の意味みたいなことについては、数学の専門家でもなければ解らないんじゃないかなー、という気はします」

浮田「これには、本当に数学のことしか書いていないんですか?」

「そうですね。日常的な記録とか日記とかは書いてない」

浮田「訳が解らん」

山形「じゃあ、これは明日ちょっと、大学に行って調べるか」


(場面転換)


「では、同じ夜の時間帯に、ジャーナリスト軍団は」

西郷「民宿のおじちゃんおばちゃんじいちゃんばあちゃんその他諸々を質問攻めにしています」

「(笑)何を訊きますか?」

西郷「えっと、まず、ジャーナリストが行方不明になったっていう話を」

「では、時間短縮のためにまとめて言いますと(笑)、7年半ぐらい前に、麻耶野数美が引っ越してはいないのだろうけど一度訪れたらしくて、そのあとを追うようにして例の男性ジャーナリストが写真を見せながらうろつき廻っていた。しかしその日の夜に行方不明になってしまった。さらに、その夜、水火水村の方向の湖岸のあたりの上空が、光っていたとか明滅していたとか、雲の色がカラフルだったとか、そのような目撃証言がある」

西郷「このときも光ってたのかー」

「実際に俺は見たというお爺さんもひとりいましたけれども、具体的にどうだったとか、そういったことは覚えていないらしい」

(<正気度>ロールに失敗し、正気度を5ポイント以上失い、かつ<アイデア>ロールに失敗したのかもねー)

西郷「その人の荷物とかって、結局どうなりました?」

「やっぱり行方不明ということで、お巡りさんが――」

岸野「ああ、お巡りさんが持って行ったんだ」

西郷「それっきりなんですか? 死体が浜に打ち上げられたとか――」

「そういう話は聞かない」

岸野「山形さんに訊くネタができたな」

西郷「そのジャーナリストの人が、具体的に何がしたくて麻耶野さんのあとを追って来たのか判らないかな」

「やはり、話題の美人天才数学者がトンデモ本を発表して、表舞台から姿を消した直後だったので、追いかけて来たんじゃないのかな、と」

岸野「俺、危ないところだったのかな」

西郷「上空の光の供物に捧げられなくてよかったね(笑)」

岸野「空見上げたんだけど、光ってなかったな」

山形「まだ時期じゃなかったんでしょう」

岸野「そういうことか」

山形「“近々”だからね」

岸野「そろそろ時間であれば、山形さんのところに連絡を入れますが」

「では、山形さんが史丈のノートを読んでいる間に、電話がかかってきました」

山形「おう!」

岸野「おまたせ山形さん。どうしようか? こっちから出向けばいいのかな。待ってればいいのかな」

山形「こっちから行ったほうがいいね」

岸野「じゃあ、待ってるから、指示ちょうだい」

山形「機材持ってくから」

岸野「機材? 何をする気なんだ?」

山形「だから、夜の撮影(笑)」

岸野「撮影? 本当か?」

山形「俺、侵入するからさ(笑)」

岸野「ま、まずい。あとは、会ってから話そう。とにかく待機してっからね。ガチャ」

西郷「じゃあ、私も浮田さんに電話して――、ジャーナリストの荷物が警察署のほうに行っているはずだから、その中に何か証拠品とか覚書とかあるかもしれないから、そっちで持ち出せるようだったら持ち出してもらえません?」

浮田「そんなことできるわけないじゃないですか! そんな、法律を犯すようなことは――」

西郷「できますよー。だって、ひと晩のうちに返しておけばいいんだから、大丈夫ですよ」

浮田「えー」

西郷「でも、蔵に不法侵入したこととか、あんまり言わないほうがいいと思うんだけど、でも、もし誰かに訊かれたら言っちゃうと思うしー、そしたらどうしようかしらー」

浮田「揺するつもりですか!?」

西郷「お願いします!」

(なんやかんやあって――)

浮田「……交渉成立しました……」

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