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Act. 8Act. 9Act. 10Ending



Act.2 数学者の屋敷


「私の世界に他人は存在しない。人を殺すという概念はない」



「さて、同日夜。おふたりの刑事は現在、パトカー――覆面パトカーかどうかは知りませんが――の中にいまして、鳴兎子市から猫鼠洞村へ向かっている途中でございます」

山形「あれっ?(笑)」

「猟奇殺人事件発生」

山形「うわー!(笑)」

浮田「内心ワクワクしてしょうがない」

「またかい、と言われるかもしれませんが、猟奇殺人事件発生」

山形「じゃあ、後ろの席で足を伸ばして、(浮田に)運転を任せて、さっさと現場へ行けーっ、と」

西郷「前の席に乗らないんですか?」

山形「前の席には乗らないんです」

「浮田さんは、この鳴兎子署に配属になってからどれくらいですかね」

浮田「あまり経っていないような気がしますね。こいつ、27歳なんで。最近刑事になったばかり」

「じゃあ、浮田さんは手がけていないことにしようかな。半年前にもここ猫鼠洞村で猟奇事件が発生していて、そのときとどうやら状況が似ているそうなんです。山形さんはその捜査に関わったと思いますんで、そのときのことを思い出します。半年前のお盆に、帰省中のOLが殺されまして」

浮田「映画の導入的には、運転しながら、……そういえば山形さん、前の事件も担当されたんですよね? と(笑)」

岸野「説明的な台詞だ(笑)」

浮田「こないだのシラミネキリトの話は聞きましたけれど、半年前のほうはどうだったんですか?」

「大変話題になった猟奇事件でございまして、それはそれは遺体の損傷が悲惨な状況だったのですが、それはあとで言いましょう(笑)。……やがて猫鼠洞村に着きまして、制服警官から『係長、こちらです』と案内されます。カニのディスクアニマルがこっちこっちーと先導します(笑)。
 着くともちろん人がごった返しておりまして、制服警官がいっぱいいて、青いビニールシートで囲まれていて、中が見えないようになっていますが、名もない制服警官に案内され、遺体と対面します」

山形「はい」

「遺体を見ちゃいました」

山形「はい(笑)」

浮田「どんなんですか」

「被害者の身元は判っておりまして、この猫鼠洞村に暮らす女子高生、大森美由紀(おおもり みゆき)さん、16歳。シートをめろん、と捲ると……彼女は学校の帰りだったのでしょう、制服姿です。制服がセーラー服かブレザーかは、自由に決めてください」

西郷「(笑)」

浮田「ブレザーだ。脳内補完せよ」

山形「ブレザー好きなんだ」

「リボンスカーフなのかネクタイなのかも決めてください」

岸野「そんなに重要だと思えないが(笑)」

「色柄も自由に決めてください」

(制服談義に花が咲きそうなので割愛です。誰だ最初に言い出したのは)

「仰向けに倒れておりまして、まず頸部に大きな裂傷があります。切り傷と言っても、表面だけ切れているわけではなく、深く抉れています。あと身体中数ヶ所に、同様の傷が。両手には防御創があるっぽいのですけど、それがちょっと判りにくい。なぜかと言うと、肉が――溶けています」

浮田「うわあ!」

山形「溶けてる!?」

「指の表面とかも溶けて皮が捲れておりまして、たとえば爪の間に犯人の遺留物が残っている可能性も期待できないかな、と」

浮田「マジでこれ、ヤバイ奴の犯行だぜ」

「さらに、衣服とともに胸や腹の肉が大きく溶解しておりまして、内臓もドッロドロです」

浮田「うわっ」

岸野「じゃあ、ブレザーとかも」

「下唇から首にかけて、肉が大きく剥ぎ取られた感じになっている。身体の場所によっては、溶けて大量に穴が開いて網目のようになっていたりもする」

浮田「うわー。きもっ」

「しかも犠牲者は、まるで何かに驚いたような表情で目を見開いたままです。――というわけで、<正気度>ロールをお願いします」

西郷「PTAに怒られそうな残虐シーンだ」

山形「(コロコロ……)あーっ! 失敗したー!」

浮田「(コロコロ……)あ、成功でーす」

「成功しても1ポイント減らしてください」

浮田「新人のお決まりで、外で吐きます」

「失敗したら――本来1D6なのですが、刑事ですし以前の事件で同じようなものを見ているということで、1D4で」

(いくら宇宙的な死体とはいえ、1/1D6というのはちょっと高すぎたかな、と後になって思いました)

山形「(コロコロ……)うわ、4(笑)。ひさしぶりに見るときついなあ!」

浮田「その間に見られるはずもない酷い死体ですからね」

「さらに山形さん、<クトゥルフ神話>ロール」

岸野「ああー、そうだ」

浮田「そっちのほうのベテランですからね」

山形「(コロコロ……)失敗です」

「あー、じゃあ、よぐわがんねえなあ」

(山形は2つのシナリオを生き延び、<クトゥルフ神話>技能を有していますが、この遺体が神話存在に関わりのあるものかどうかは、幸か不幸か判りませんでした)

「ちなみに凶器は不明。現場に残されておりません。それと、どうやら物取りではなさそうです(笑)。また、いわゆる乱暴目的でもなさそうで、下着もつけてます。だいぶ溶けてますけど」

山形「前回の事件に関わっているということは、前回の資料を覚えているんですか?」

岸野「前回も溶けていたのか、とか」

「そうですね。前回も溶けていましたよ」

山形「そのときの犯人は? 迷宮入り?」

「まだ捜査中です。そんなときに、同じ村で同じような事件が起きてしまったと」

山形「またか! と言ってから、遺留品はないか? と言って、一応調べる」

「犯人の遺留品は、これと言ってないですね。この子の鞄が落ちている程度で。
 この人は同じ部活の友達と一緒に下校していたのですが、途中で別れてひとりになったところを狙われたみたいですね。肉が溶けているのは、変質者が硫酸か何かぶっかけたんじゃないかという見解が出ています」

山形「現場はどのへん?」 事件現場

(言うの忘れてた)そうですねえ、このへんになります(地図参照)」

西郷「……でもさ、硫酸でそんなに人の肉って溶けるもんなの? 網目状になるほど」

浮田「わざわざなんか不思議な方法でポタポタ垂らした変質者かもしれないってことですね、と涙目になりながら言う」

山形「酸の臭いは凄くしているんですか?」

「そうですね、酸っぽい臭いはします」

岸野「なんか、科学的検査で、たとえば硫酸で溶かしていますね、とかいうのは判ってるのかな」

「前回の事件のときの記録はありますが、その前に――今回は目撃者らしき人がいまして」

山形「おっ」

「猫鼠洞村在住の、小学校高学年の男の子」

西郷「可哀想に(笑)」

「この現場は見ていないんですけれども、現場から立ち去る人影のようなものを、家の窓から見たと言い張っている。
 婦人警官が色々と聞き出したところによりますと、とても小柄な人影だったらしい。目撃者の小学生は『子供だ』と言っていたそうなんですが、本当に子供かどうかはまだ判っていないので、小柄な人と称しておきます。
 そして、人影は何か長い物を持っていたそうです。凄く長いわけではないけれど、棒状の、1メートルくらいの長さのものではないかということです」

山形「子供にとっての“長い物”だからな」

「まあ、宵の口だったし、このあたりは街灯も少ないので、はっきりとは判らない。で、その人影みたいなのは、タッタカタッタカと走って、この現場から西の森の中へ消えていったそうです」

岸野「あららららら」

浮田「森の中に変質者が隠れているのか」

山形「非常線を張れ、と言っとく。で、山狩りだー!(笑)」

浮田「そしたら僕はノートパソコンを広げて、エアエッヂか何をつないで、海外のサイトとかにアクセスして、そういう死体を損壊する行為に素敵な興奮を覚える奴らの資料をあさります。――こんな事例がありますよ、警部補! とか言えるように」

西郷「アメリカでは……とか、ニカラグアでは……とか(笑)」

浮田「なんとかいう奴が300人くらい殺した、とか」

山形「頭をパーンと叩いて、足だ足! まず足で調べろ! と言って、森に引っ張ってく(笑)」

浮田「あー、俺の科学推理がーっ!」

「では、なんやかんやあって、他の警官たちも一緒に、森の中へ入っていったことにしましょう。――では、<追跡>ロールを」

(ふたりとも、初期値の10%しかありません)

山形「(コロコロ……)できなーい♪」

浮田「(コロコロ……)僕もできませんでした」

山形「夜だからな(笑)」

浮田「これからは科学捜査の時代っすよぉー。プロファイリングで云々……」


(場面転換)


「ジャーナリストふたり組ですが、西郷さんの後ろのほうから、『おい!』と大きくて野太い男の人の声が聞こえましたが、どうしますか?」

西郷「振り返ります」

「振り返るとですね、ちょっと離れたところに、汚い身なりをした年配の男が立っております。髭ぼうぼう髪ぼうぼうで、帽子を目深に被っているため、あまり表情は窺えません。見た目は浮浪者みたいです」

西郷「敷地内にいるんですよね、その人」

「はい。で、そのおっさんが言うには――『勝手に人の家入って、何やってる!?』」

西郷「あっ、す、すいません! でも、ちょっと、あの……と、蔵のほうを指差します」

「『蔵がどうかしたか?』」

西郷「うーん……蔵をもう一度見てみますが、別にそのへんに人影はないですか?」

「ないですね」

西郷「蔵の陰に行って、そのまま消えている、と」

「そうですね。それ以降は見えない」

岸野「じゃあ、とりあえず、そっちまで追っていけば判りますかね? 浮浪者みたいなのがいることは」

「ばっちり判ります」

岸野「じゃ、すいません、こちらにお住まいの方がもしいらっしゃったら伺おうとしていたんですが――連れが何か失礼なことを?」

「彼は不機嫌そうですね。『人の土地に勝手に入ってきて何をやってるんだ?』みたいな感じです」

岸野「申し訳ございません。勝手に入るつもりはもちろんなかったのですが、彼女がこの屋敷に入っていく人影を見て、もしやお屋敷の人かと思って声をかけようとしたんですが」

「『この屋敷になんの用だ?』と訊いてきます」

岸野「彼は、僕とだけ話してるんですよね?」

「そうですね、今は。こっち(岸野)のほうが偉い感じがするので(笑)」

岸野「まあ、歳は確かにかなり違うんで。……ちょっと、鳴兎子湖の周りで不審な動物がいるという噂話が今ありまして、それが本当かどうかはともかく、それを我々も知りたくて、こちらのほうに取材にお邪魔してたんですが、ちょっとこのあたりを歩いていたところ、お屋敷の2階に明かりが見えましたんで、もしや誰かいらっしゃるのなら、お話を伺いたいと思ってお邪魔しようというところだったんですよ」

「『不審な動物?』」

岸野「いや、大きな魚ないしは何か獣なんじゃないかな、というところなんですが。あまりいたずらに騒ぎ立てるのもなんですし、なるべくおかしな噂が立つ前に、たとえば何かの動物の見間違いとか、こういう可能性が高いよと世間に知らせるべく、調べに来たんですけれども」

西郷「一生懸命喋っている間に、奥のほうから門へ戻ってくるんですけど、窓の明かりとか見えます?」

「見えます」

西郷「そのおっさんは、玄関から出てきたっぽいんですか?」

「そうですね」

西郷「でも玄関は暗い?」

「そう。おっさんは懐中電灯持っています」

西郷「戻りながら色々、玄関とか覗いてみたりする」

「そうしましたら、『そんな変な噂に振り回されてないで、真面目に働け』みたいなことを言われます(笑)」

岸野「ああ、恐れ入ります。……この屋敷にお住まいの方でいらっしゃいますか?」

「『そうだけど、なんか文句あるか?』」

岸野「いや、実は水火水村のほうで、たびたびそういう大きな動物を目撃した話が以前からありますんで、もし何かご存じでしたら、ちょっと伺いたいんですけど。よろしいでしょうか?」

「『俺は知らないね』と言っていますが、ふたりとも<心理学>ロール」

西郷「(コロコロ……)失敗」

岸野「(コロコロ……)あー、失敗だ俺も。こんなに高いのに」

「じゃあ、早く話を切り上げたがってるな、ということだけは判ります。たんに面倒なだけかもしれませんが」

西郷「麻耶野さん、と仰るんですか? と訊きます」

「『ああ。俺は麻耶野じゃないが』」

西郷「でもこの家に住んでるんですか?」

「『この家で働かせてもらっている』」

西郷「じゃ、麻耶野さんが今住んでらっしゃるんですか?」

「『主はいるよ』」

岸野「“麻耶野さん”がいるんだろうな……あの、まあ、こんな遅い時間ですし、明日また改めてということにしていただいてもよろしいんですけど、我々は無責任に遊びに来て、おかしな噂を広めに回っているわけではないので、短い時間で結構ですから、お話に伺ってもよろしいでしょうか?」

「<言いくるめ>か<説得>か振ってください」

岸野「どっちがいいんだろうなあ……<説得>のほうが高い。じゃあ<説得>で、あくまで真面目な取材に来ましたっていう気持ちで試みます。(コロコロ……)うわー、失敗したー! なぜだーっ!」

「じゃあ、『俺も忙しいから、明日来られても迷惑だ』」

西郷「じゃあ、明後日なら(笑)」

岸野「こらこら、そういうこと言うんじゃない。――解りました。ですが少なくとも、我々はもうちょっとこのへんを取材させてもらいたいと思いますんで、今日のところはどうもお騒がせしてすみませんでした。――とだけ言います。明日来ないとは絶対言わない」

西郷「私も、黙って入っちゃってすみませんでした。――ところで、主って、ちっちゃい女性の人ですか?」

「『女性だけど、ちっちゃくはないが?』」

岸野「ほう」

西郷「こんな辺鄙なところで、何人で住んでるんですか?」

「『お前らには関係ないだろう』と言われます」

岸野「彼がそう言うのに被せて、こらこら、そんな立ち入ったことを訊くもんじゃないよ――と、たしなめるポーズを取っておきます」

西郷「でも、あの蔵の後ろのほうにさー……」

「と、やりとりを続けていると、敷地の裏側――裏門は開きっぱなしで、壁も一部崩れています――その先の森の奥から、ちらちらと懐中電灯の光が近づいてきたり、何か呼びあうような声がしたりして、やがて、ぬっと出てきたふたり組の男がいます(と言って、刑事コンビを見る)」

岸野「なるほど。これでメンバー勢揃いしたわけですね」


(4人集合)


浮田「家がありますよ、警部補」

西郷「人もいますよ」

山形「人がいる!? ここは廃村なんだから、人が住んでるわけがない。職質するぞ!」

岸野「ふたりは制服じゃないんですよね? 腕章か何かで刑事だと判るかな?」

「でも、山形と岸野は知り合いだから」

岸野「あっ! 貴方は、何年か前にお世話になった山形さんでは」

山形「何してんだ、こんなところで!」

岸野「いやいや、何も糞も、これも仕事のうちですから」

山形「ちょっと、殺人事件が起こってな。……ん? この人は?(と西郷を指す)」

西郷「どうして刑事と知り合いなんですか、岸野さん?」

岸野「前に話したじゃんか、ほら、俺が銃器密売の記事書いたとき世話になったんだよ」

山形「(浮浪者風の男に)じゃあ、貴方は?」

「『俺は木辺(きべ)だが』」

山形「ここで何をしてらっしゃるんですか?」

「『ここで暮らしている』」

山形「ここは廃村ですが? 住んではいけないことになってるはずなのですが」

「いやいや、人が住んでいないから廃村と呼ばれているだけであって、住んでいけないわけではないです。ここはもともと麻耶野家の土地だから、所有者の麻耶野さんであれば、問題はありません」

山形「確認しますから、車まで同行していただけませんかね?」

「車まで? 森の中をてくてく歩くの?(笑)」

山形「職質だから(きっぱり)」

西郷「ずいぶん偉そうですね(笑)」

岸野「とりあえず、ここはプロに任せよう」

山形「これで厭だって言ったら逮捕。言った瞬間、逮捕できるからね」

西郷「あの強引な捜査方法を記事にするべきじゃあ(笑)」

岸野「まあまあまあ(笑)」

西郷「一言一句を手帳に書いておきます」

山形「いや、警察って、こういうもんだよ。――実際に職質されたことがあるプレイヤーが言ってるんだから本当(笑)」

西郷「殺人事件って、いったいなんなんですか? 教えてください――って(浮田に)。私たちには知る権利があります!(笑)」

山形「えーと、ここで働いてるんだっけ?」

「まあ、かくかくしかじかで、これまでのジャーナリストとのやりとりは知ってていいです」

山形「ご主人さんもいるわけですね? 今はいらっしゃいますか? ちょっとお話聞かせていただきたい」

「では、みんなでわいわいがやがやしていると、2階の明かりがついていた窓がありますが、そこがちょっと開きました。
 逆行なので顔はよく判りませんが、凛とした女性の声で『何かね?』と。ある程度歳は取っているかもしれないが、老いているという感じはしない。よく通る力強い声です」

岸野「見上げます」

「すると木辺が上を見上げながら、『博士、殺人事件が起きたそうで、警察の者たちが入ってきています』と言います」

山形「貴方たちがここに住んでもいい人かどうか確認しますから、同行してください」

西郷「私たちも不法侵入していますけど、この警察官たちもしてますぜ」

山形「捜査だから」

西郷「ところで、国民には知る権利があるんですけど、殺人事件って、なんですか!?」

浮田「えーと、殺人事件は殺人事件ですよー」

岸野「彼女は泳がして警察から情報を得よう。よしよし頑張れ西郷」

山形「あまりにも怪しいから。確認できればいいから」

 プレイヤーが同時に色々と発言して、少々場が混乱気味になりましたが、ようは、山形が麻耶野家の女と男をしょっぴいて職質したいと主張している状況です。
 リアルな警察官だったらそう動くのかもしれませんが、どうしてもこのNPCに無粋な行動を取らせるわけにはいかず(木辺だけならともかく)、また、職質はシナリオの本道ではないため、ここは山形のプレイヤーに譲歩していただきました。
 あとになってから、スマートな(?)解決策が思いついたのですが。やはりテストプレイは必要ですね。

山形「じゃ、署のほうに身元の確認を取りますから、と言って、車まで戻る」

浮田「僕はここでちょっと、こちらの方々から目撃証言が取れそうな感じなんで、お話を聞いてますよ」

山形「じゃ、一応俺は確認してくるから」

西郷「とりあえず、敷地の外――さっきの大きな跡があるところまで出ていって、そこで一生懸命、若い刑事から情報を絞り出そうとします」

山形「そうだな、とりあえず先に目撃証言を。名前を訊いて、職業を訊いて」

「では、すべて木辺が説明します。上の主はすぐに引っこんだ」

岸野「では、その山形さんとの話が終わってからでいいですけど、木辺に、失礼しましたと言ってこの場を立ち去る――前に、せっかく暗視機能付き双眼鏡持ってるんで(笑)、屋敷全体とか見回して<目星>とか振ってもいいのかな。おかしいとこないかな、とか」

「うーん、特にないですね」

山形「ここは携帯は通じますか?」

「普通の携帯は通じませんね」

岸野「あたりに小動物とかいませんか? たとえば、野良猫とか、あるいは鳥の鳴き声が聞こえるとか」

「そういうのは普通にいますね」

浮田「ちょっと歩けば猫がニャー! と言うような」

山形「猫鼠洞村には猫がいっぱいいますよ(笑)」

西郷「鼠もいますよ」

「では説明しますと、木辺の名前が弘造(こうぞう)。年齢は58歳だと言います。……ちなみに、PCの中で鳴兎門(めいともん)大学出身の人はいませんか?」

(いませんでした。……まあ、あまり気にせずに)

「職業は下男だと言います」

西郷「今どき下男とは。女中もいるのかな(笑)」

浮田「主は自分のことを“博士”って呼ばせてるような人ですよ」

「で、主の名前はもちろん、麻耶野数美と言います。この麻耶野家の跡取りと言いますか、代々この家は麻耶野家のもので――」

浮田「今の麻耶野家当主が、麻耶野数美?」

「そうですね。――というわけで、刑事ふたりも<知識>に成功すれば、彼女の名声は知っています」

浮田「知識りまーす。(コロコロ……)71。ぎりぎり知りません」

山形「て言うか、あとで調べれば判ることだから。でも自分が知ってるか振っておこう。(コロコロ……)そんなやつは知らねえ(笑)。もし知っていたら、(へりくだって)あ、そんな偉い先生でしたかー! となる(笑)」

浮田「権力にへつらうような(笑)」

西郷「さっき浮田さんから、不審な人が逃げているって聞いたので、自分の見た人を思い出してるんですけど――」

(キーパーと山形の会話の陰で、そんなことを話していたらしいです)

西郷「髪の毛が後ろになびいていたりしてたんでしょうか? そういうのはなかった?」

「はい」

西郷「小柄で、両手を前にして、蔵のほうに走ってゆく人影を見たんだよって話を、警察の人にします」

浮田「真新しいシステム手帳か何かに書きこみながら、なんだってーっ!? と」

山形「じゃ、家の人と色々話してみた感じで、強引に連れて行かなくても大丈夫そうだなっと思ったら、浮田のところへ行って、ちょっと見張っとけと言って、森のほうに戻っていく。帰ってから麻耶野数美のことを調べます。そんな人物が本当にあの土地の所有者なのか、とか、経歴とか」

「山形さんは立ち去る間際、<目星>を振ってください」

山形「(コロコロ……)あーっ、90!」

「じゃあ、気づかなかったですね。そのまま立ち去ります」

浮田「じゃあ、謎の小柄の人物が蔵の陰に消えたことまでは聞いた、と。なるほどなるほど……とメモして、(西郷に)ご協力ありがとうござます」

西郷「ところで刑事さん、ここの人ですか?」

浮田「自分は東京の出身です」

西郷「このへんで、なんか、変な噂とか聞いたことないですか? えっと、怪物が出るとか(一同笑)」

「噂として知っていてもいいですよ。<知識>に成功すれば」

浮田「じゃ、振ります。(コロコロ……)あ、知ってた」

山形「知ってるんだ(笑)」

西郷「じゃ、刑事さんの知ってる噂を聞かせてください、と、ひととおり訊いて、実はここにもね――と刑事さんに大盤振る舞いしちゃいます」

浮田「興味ないんで煙草吸ってます」

西郷「なんか、湖からここまで、跡があるんですよ! 刑事さん、懐中電灯でここを照らしてみてくださいよ! って、窪みがちゃんと見えるように照らさせます」

浮田「じゃ、照らします」

「見えた」

浮田「あ(笑)」

西郷「これが湖からずっと続いているんですよ。今、私、岸野さんとふたりで、夕方ごろからずっと湖からこの跡をつけてやってきたんですよ」

岸野「刑事さん、おかしなものであることは間違いなさそうなんですよ。だから明日また来て調べてみようと思ってますがね」

浮田「これはいったいどこから……?」

西郷「湖だって言ったでしょ」

岸野「ずっと跡をたどっていくと、湖に消えているんです。物が倒されている方向から考えると、湖から大きな物を引き上げて、進路上にあった木や廃屋やらを倒して、この屋敷のすぐ手前まで来ている、と。
 もしくは何か大きな動物が上がってきて、どんどん乗り入れてきて、しかもそれもこの屋敷の前でぱたっと消えている、と」

西郷「不思議なことにね、ここから消えちゃったんですよ。これやっぱり、羽が生えてて飛んでっちゃったんでしょうかね」

岸野「ええーっ、そんな生き物いるわけないだろ」

西郷「そんな生き物だって、いる可能性は――」

浮田「いないんじゃないですかねえ」

西郷「じゃ、なんだと思います?」

浮田「それは誰かが何か大きな物を引っ張ってきたんじゃ――」

西郷「でも周りには、引っ張ったような跡はなかったんだよね?」

「ないですよ」

岸野「足跡がないんです」

浮田「雨で流れたんじゃないですか? ……もはや興味がなくなってきたので、いやそれよりも仕事が大事だろう、みたいな」

西郷「じゃ、この怪物に関すると思われるどんな情報でもいいんで、何かあったらここに連絡してください。その代わり私たちは、殺人事件に関する情報があったら、お教えしますから」

浮田「じゃあ、それはぜひお願いしますと言って、電話番号やメールアドレスを交換したりします。また何かあったら連絡差し上げるかもしれないんで、宿泊先とかも教えてください」

西郷「一応言いましょう、はい」

浮田「ご協力感謝します」

岸野「山形さんには、昔みたいに情報交換しましょう、と言っておいたことにしましょう」

山形「それを立ち去る直前に聞いて、おう、と言って森へ消えたという感じですか」

浮田「会話が終わったら、屋敷の周りをウロウロしたいと思います。証言なんかもあってんで、もしかしたら容疑者が屋敷の中に匿われているとか逃げこんでいるみたいなことを考えながら、懐中電灯で照らしつつ。
 ふたりと別れるさいに、この周辺に殺人犯が潜伏している可能性があるので注意するよう言っておきます」

「ジャーナリストふたり組はどうしますか?」

岸野「どうしましょう。……中の人間とコンタクト取るのは無理だろうし、逆効果になるから……」

西郷「人影が走っていった方向だけ見に行ってみて、それから民宿に戻ってご飯を食べて、殺人事件について民宿のおばちゃんと話をしよう」

浮田「えーと、携帯電話は使えないんでしたっけ?」

「そうですね、この水火水村内では電波が届かないものと思ってください」

浮田「やっぱり危険なので、ふたりを民宿まで送っていきます」

西郷「行く前に、屋敷の壊れた裏門――ここから人影が入ってきたように見えたんだよね?――そっちのほうに行ってみます。懐中電灯で色々照らしてみて、何かの跡とか、落ちてるものとか、探してみます」

岸野「こっちも暗視ゴーグルで」

「主に見るところは、屋敷の裏側とか蔵のあたりということですね? では三人、<目星>ロールをお願いします」

岸野「(コロコロ……)失敗」

西郷「(コロコロ……)成功ー」

浮田「(コロコロ……)82(笑)」

山形「駄目じゃん刑事ふたりとも(笑)」

「西郷さんが都合よく足跡を見つけました」

西郷「あっ! 足跡が!」

浮田「えっ! なんですって!」

西郷「来ないで!」

山形「来ないで、なんだ(笑)」

西郷「だって踏んじゃうんだもん」

「小さな靴の跡です。それがひとつだけ見つかりました。小学校中学年くらいの大きさでしょうか」

西郷「これは、私がさっき見た、蔵に向かっているような?」

「そうですね。さっきつけられたばかりのような跡です。方向も合ってます」

西郷「これを逆にたどっていけば……」

「でも、草ぼうぼうで、たまたま残されているのが、これひとつだけだから」

西郷「ともかく、私が見たのは本当だったということですよ」

岸野「確かに」

浮田「デジカメで撮って、大きさが何センチくらいとかメモっておきます」

西郷「もしかして、不思議生命体を発見する途中で、私たちが事件を解決しちゃったりしたら、そっちのほうで仕事できませんかね」

岸野「そういうのを、取らぬ狸の皮算用って言うんだよ」

「では、さらに蔵のほうを見ますと、蔵の扉が若干開いています」

西郷「中から光はない?」

「光はないです。まるで誘っているかのように、狭く開いています(笑)」

山形「行け! っていうことだよね(笑)」

浮田「山形さんの命令だー(笑)」

「2階部分に窓がありますが、そこはしっかりと閉じられています。もちろん明かりが漏れているようなこともないです」

浮田「それでは、ここは、同行している一般の方々に、ここでお待ち下さいと言って、刑事っぽい動きをしたいと思います」

西郷「あの不思議生物が入れるくらいの大きさのドアですか?」

岸野「不思議生物が入れるくらいのでかい蔵?」

「そんなに大きくはないです」

西郷「当然、周囲の草がたわんでいたりはしない?」

「そういうことはないです。――それと、言い忘れてましたが、木辺は話が終わって家に引っこんでいます」

西郷「ここから屋敷2階の部屋の明かりは見えますか?」

「角度的に無理ですね」

西郷「ということは、向こうからも見えない?」

「そうですね。その明かりがついた部屋にしか人がいないのであれば(笑)」

西郷「少なくとも、そこからは見えない、と」

浮田「では、特殊警棒を念のためシャッと出して――」

西郷「え? ちょっと、どうするんですか?」

浮田「一般の方はここでお待ちください」

西郷「これ、不法侵入になりますよ」

岸野「あんたひとりで行って、もし蔵の中に殺人犯が潜んでいたりしたら、やっぱり危険じゃないか?」

浮田「うーん、かなり揺らいできました。……入る前に、えせプロファイリングを試みたいと思います(笑)」

西郷「なんだそれは(笑)」

(浮田のプレイヤーによるジョディ・フォスターごっこが始まりましたが、録音が聞き取りづらいので涙を呑んで割愛です)

「で、結局、蔵には近づかないんですか?」

浮田「近づきたいんですが(笑)……よし、近づこう」

西郷「一応止めます」

岸野「解った。ひとりで行かせるのは心許ないし、私も行きますよ」

西郷「えーっ!!(一同笑)」

岸野「こうしてくっついていくと、スクープものにできたりするんだ、これが」

浮田「やはり不審な人影が目撃されているわけですし、もしかしたら麻耶野のさんのお宅で匿っているなんてことがあるかもしれないけど、そうでない場合、麻耶野さんたちに危害が及ぶ可能性もあるので、ここはひとつ調べてみたいような気がする」

岸野「でも、ひとりで行かせて、あとの人間に連絡が取れなくなるというのも困るしな。……面倒臭え、帰るか」

西郷「もう民宿のおばちゃんがご飯作ってると思うんで、帰って、殺人事件について話を聞こう」

岸野「というわけで、我々は帰ります」

(本当はもうちょっと長いこと話し合いがあったのですが、割愛します)

山形「浮田ひとりだ。頑張れ!」

浮田「こういう映画でひとりになったら死ぬ運命なんだ(笑)」

西郷「まだ大丈夫じゃない? 判んないけど(笑)」

岸野「携帯も通じない場所だからね」

山形「天使と悪魔が囁いてる(笑)」

「天使も悪魔も行け行けと(笑)」

浮田「(ふたりに)この森を抜けると、我々が捜査している現場に出ますので、僕の名前を出してもらえれば云々と言っておきます」

西郷「捜査令状もなく入っていくんだから、増援は望めないけどね」

岸野「こっそり山形さんに、彼がこんなことを企んでいたので、このまま動かしておいたらいかがですか? みたいなことは言ってもいいわけですね」

山形「グー!」

西郷「って言うだけで、助けには行かない(笑)」

浮田「やっぱり酷い人だ(笑)」

西郷「では、浮田さんを残して帰ってから、山形さんに報告します」

「ではそのころ山形さん、車から無線を使って麻耶野数美について調べてもらい、色々と判明しました」

山形「はい」

「麻耶野数美が水火水村に住んでいるということは、かなり驚くべきことのようです。あの天才数学者が、まさかそこに暮らしていたとは! といった感じで。ちなみに、法的にも問題はないということです。そういうことにしといてください(笑)。
 確かに現在は誰も住んでいないはずの村ですけど、土地は麻耶野家のものであり、現在、戸籍上残っているのは麻耶野数美だけのようです」

山形「じゃあ、強引に行けないなー、ということで」

「それと、麻耶野数美の経歴についても、さっき岸野さんに説明したことは判ります」

山形「木辺については?」

「それはもうちょっと時間かかりそうです」

山形「それも頼む、と言っておきます。なんだったら俺も調べるから、と」

「キーパー的には、NPCを利用しすぎずに、できればPC自ら調べてほしいところではあります(笑)」

山形「解りました(笑)。じゃあ、調べに行こう」

(山形のように部下を動かせるキャラクターの場合、ある程度仕方のないことではありますが)

岸野「明日になれば、どうせ我々も調べますから」

「それと、翌朝には検死結果が出るみたいです」

(実際にはどれくらいかかるのか、よく知りませんが……)

「と、そこへジャーナリストふたりが帰ってきて合流して、かくかくしかじか、といったところですね」

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