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Act.3 蔵の中


「どんな斬新な思想も、どんな先進の才能も、最後は防御にまわるものだ」



「そのとき、独りぼっちの浮田さんは――」

浮田「警棒を握って――」

山形「ぶるぶる震えながら(笑)」

浮田「ライト持って行きます」

「こそこそ行きますか?」

浮田「こそこそ行きます」

「そうしましたら、<忍び歩き>と<隠れる>を」

浮田「うわ、なんにもねーや(どちらも初期値の10%)」

西郷「どちらもないのに行くのか(笑)」

浮田「では、<忍び歩き>ます。(コロコロ……)あ、44です」

西郷「ガサガサ……」

浮田「では、<隠れる>です。(コロコロ……)12です」

山形「惜しい!」

「それなりに、こそこそ行きました。誰かが気をつけて見ていたり、あるいは見える場所で<目星>や<聞き耳>に成功されたら気づかれるでしょう。
 では、入り口までやって来まして、人ひとりがぎりぎり入れるくらいの隙間が空いていますが、中は真っ暗です」

浮田「まず、扉の下を見ます。扉が普段どれくらい開いているのか、跡がついていないかどうかを。だいたいどれくらいの大きさの人が、普段通っているのか、みたいなのが判ったりなんかしないか」

「そういった特徴的な跡というのはないですね。おそらく、ずっと閉められていたり開きっぱなしなわけではなく、物置としてでも使っているのか、頻繁に開け閉めされているのでしょう」

浮田「音とか立てないように、中に入ります」

「はい。ギシギシ(笑)。中はひんやりとしていて、ちょっと黴臭いなといった感じです。懐中電灯で照らしますと、中には物置なんだろうなと思えるような、色んな物があります。そんなに狭くはない蔵なのですが、物がいっぱいあるので、かなり窮屈です。
 様々な箱が積んであったり長持があったり。ほとんど埃を被っていますが、比較的普段から使われているようなものが入り口の近くにありまして、農耕機具ですね」

浮田「農耕機具?」

「言い忘れておりましたが、麻耶野家の敷地内に、ささやかなものではありますが、畑がありました。
 で、ここに立てかけられているものはと言うと、鋤とか鍬とか鎌とか植木鋏とか――」

西郷「武器になるものがいっぱいある(笑)」

「屋根屋鋏なんていうものもあります」 屋根屋鋏

浮田「屋根屋鋏?」

「昔の茅葺き屋根を整えるときのやつですね」

浮田「ああー」

西郷「『クロックタワー』とか思い出しますよね(笑)」

岸野「あーっ、(シナリオのサブタイトルを指して)『A ClockTower』だ!」

浮田「これでちょん切られてしまうのかなあ」

山形「背後からシュッシュッって音がするんだよ(笑)」

(あまり先の展開を読まないように)

「中央に、上へ上がる狭くて急な階段がありますが、ただ2階への入り口を照らしてみると、板で塞がれているようです。よく見ると、板が打ちつけられているわけではなく、上げ戸が閉じられている状態です」

浮田「そしたらですね、とりあえず、あたりを照らしながら物音を聞きたい。もし隠れてるやつがいるんなら、息づかいとか」

「<聞き耳>をお願いします」

浮田「70%。(コロコロ……)36! 成功しました」

「じゃあ、微かに、頭上で『ミシッ』という音が聞こえたような気がした」

浮田「上を照らしてみます」

「まあ、普通に汚い天井が見えます」

浮田「誰かが移動したときに、何かがコロコロっと落ちるような音とかは?」

「それ以降は、特に音はしませんね。ただの家鳴りかな……?(笑)」

浮田「革靴を脱いで、靴下になって、階段に近づきます」

「再度<忍び歩き>を。靴脱いでるんで、倍でいいです(もともと10%しかないし)」

浮田「(コロコロ……)13!」

「じゃあ、これは見事なスニーキングだ、といった感じで近づけた」

山形「スタートボタンを押して、まずはCQCの基本を思い出せ(笑)」

浮田「閉じられている戸板に触れられるくらいまで行きたいです」

「そこまで、足音を立てずに近づけました。階段自体は多少軋みますが、できるだけ音を立てないように上がることはできました」

浮田「階段を誰かが上がっていったような足跡は?」

「そうですね、くっきりとは残っていないのですが、所々、埃は剥げています。たとえば蔵の中でも、入り口付近や農耕機具の近くはあまり埃がありませんが、それと似たような感じですね」

浮田「頻繁に家の人が移動しているのか。しばらくそこで物音を聞いてみます」

「さっきの以来、聞こえません」

浮田「聞こえないですか。では、そっと戸板を押してみます」

「若干動くような気配はありますが、開きません。抵抗があります」

浮田「じゃあ、何か鍵のたぐいはないかどうか。1階から鍵をかけることはできるのか。あるいは、2階からでないと鍵をかけることはできなさそうか」

「鍵穴が見つかりました」

浮田「あー、じゃあ、これ以上は無理かと思うしかないな」

「だいぶ古いタイプの鍵穴で、向こう側に穴が通っています。覗くのは、角度的に無理がありますけど、やはり向こうも真っ暗なようですね」

山形「私、ピッキング(<鍵開け>技能)持ってます(笑)。40%」

浮田「なんで刑事がそんなん持ってるんですか(笑)」

山形「昔、悪いことやってたから(笑)」

浮田「そしたら、すごすごと帰る――前に、目撃証言にあるような、1メートルくらいの棒状の物がないかどうかというのを、見て回りたいです」

「やはり、さっき言った農耕機具が、どれも該当しそうです。それ以外には特に見あたりません」

浮田「酸で溶かされてるってことは、どんな物持ってたんだ?」

山形「タンク背負っていて、手に持った長い棒みたいなのの先から、酸がちゅーって出てくるんだよ(笑)」

浮田「噴霧器みたいに? やっぱりそれ気違いですよ(笑)。そんなんで人殺すなんて」

山形「人殺しをするんだから、気違いに決まっているじゃないか!(笑)」

浮田「忍法“溶かし霧”とか言って(笑)」

(よろしくない方向に話題が逸れましたので割愛です。お詫びを申し上げます)

浮田「……なんか、不法侵入に後ろめたくなってきたので、帰ることにします」

「では浮田さんが現場まで帰ってきて、山形さんと合流しました」

浮田「かくかくしかじかということで」

山形「こちらも得た情報を言って、でもトンデモだったという話を聞いて、頭がおかしくなってあんなところに住んでいるマッド・サイエンティストなんじゃないだろうかという妄想が広がってきた(笑)。よし、今後の捜査はふたりで動くぞ!」

浮田「は、はい! とか言いながら……山形さん、色んな事件に影響されて、どんどんおかしくなってるんじゃないかなあ。『羊たちの沈黙』とかあったしなあ、とか思っています」

「夜もだいぶ遅くなってきまして、現場検証はひと通り終わりました。山形さんたちは、いったん署に戻りますか?」

山形「徹夜して調べます。署に戻って」

「ジャーナリストたちは宿に戻って、女将さんから色々聞き出そうとするわけですね」

西郷「そうそう、前にもあったらしい――ということはキャラクターは知らないけど、そういうことも」


(場面転換)


「ではまず刑事から。鳴兎子署に戻りまして、さて、何を調べましょう?」

山形「えーと、麻耶野トンデモ本を」

浮田「調べるの? えーっ」

山形「しかもこんな夜遅くに(笑)」

浮田「署にそんなものあるわけないじゃないですか! ってノートパソコンを開いて、インターネットで検索します」

「では、ネット検索では<図書館>ロールを」

浮田「はーい。(コロコロ……)22。成功」

山形「やばい。このキャラ下手くそだ(<コンピューター>01%)」

「特別苦手とかいう設定なければ、普通に検索ぐらいできていいですよ。このキャラは『ダブルクリックしてください』と言われると左右のボタン同時に押します、とかいう設定でもない限りは(一同笑)」

山形「(コロコロ……)失敗」

「では、麻耶野数美のトンデモ著書のことですが――8年前に上梓されました本で、題名が『他元数学概論』。これが最後の本になったということですね」

浮田「内容とかについては?」

「内容はですね、色んなサイトでちょこちょこと書いてありますが、どのサイトでも、ようは荒唐無稽だと」

浮田「はー」

「この本を出すさらに12年前に画期的な論文を発表して華々しい登場をした人物とはとても思えないような、まるで荒唐無稽な内容だと。莫迦げている以前の問題で、意味が解らないとさえ称されています」

浮田「はあ(笑)」

「まるで狂人の妄想のようなものをずらずらと書き連ねている。もちろん、文章自体は普通に読めるものになっているそうですが。まったく意味不明の数学理論ですね。彼女の名を一気に貶めてしまった一冊だそうです」

浮田「じゃあ、そこからさらに遡って12年前(今から20年前)の、円周率に関する凄い発見というのはなんだったのかということを調べたいです」

「そちらも同時に調べられたことにしましょう。えーと、これは“πに関する画期的な論文”なのですが、詳細は決めておりません(笑)」

(すみません。キーパーが数学に明るかったら、何かしらでっち上げていたのでしょうが。すみません)

浮田「ああ、なんか凄いんだなあ、と」

「その程度に把握していただければ大丈夫です」

浮田「たぶんこのキャラ、数学について明るいわけでもないので」

山形「凄いらしい」

「雰囲気として受け取っていただければ大丈夫です」

浮田「たぶん、こういうところがこうだから凄いんだよ、ということが書いてあるんだろうけど、ぽかーんと眺めている」

岸野「世間が凄いと言っているから凄いんだ」

「一般的には全然理解されていなかったのでしょう。もちろん数学界では評判になりまして、その影響で名前が出るようになりまして、しかも――」

浮田「あ、すげー美人だという話が」

「そうですね。20年前の時点で30歳ということだったのですが、かなりの美貌でして、若干妖艶な雰囲気もある」

浮田「おー、いいですね」

山形「さっき見たじゃん」

西郷「シルエットだけね」

山形「あー、そっか」

「メディアにもちょこちょこ出るようになって、そのキャラクター性もかなり受けたみたいです」

浮田「ほーう。何か特異なキャラクターだったとか、人好きする人だったとか」

岸野「カリスマチックだった?」

「そうですね。非常にカリスマ性がありました。ともすると、容易に人を寄せつけないような」

岸野「もの凄く頭よくなって論理的な杉本彩みたいな感じか(笑)」

「で、この人のキャラを立たせていた一番の特徴なのですが、自称彼女は“眠らない”らしい」

浮田「は」

「眠ったことがないらしい。そこでついたあだ名が、“眠らない数学者”。皆が眠っている時間も研究に費やすことができる、と言っていたらしい」

浮田「はぁー、勉強家なんだなあ」

「本当に眠らなかったかどうかは誰も知らない」

浮田「眠らない人なんかいるわけがねー、とか思いながら、ああ、凄え眠くなってきたー(笑)。山形さん、仮眠取っていいっすかー?」

山形「山形はひとりでカチャカチャやってる。出ねえ! 出ねえ!(笑)」

浮田「山形さん、検索はもっと絞りこまないと出てきませんよ!」

「文章で検索してるんだ(笑)」

山形「該当がありません。――あれぇ?」

浮田「そんな、SF映画みたいにコンピュータの頭よくないですよ!」

「それと、麻耶野数美の顔写真もどこかにアップされていました。10年くらい前の写真のようです」

岸野「(イメージは)杉本彩じゃなく黒木瞳にしておこう」

「うーん、あえて芸能人で言うなら、りょうが近いかな」

岸野「あの人、イタチみたいで恐えー(笑)」

浮田「狐とか憑いてそうですよね」

岸野「ガンバに出てきたノロイみたい」

(失礼な話が続きそうなので割愛です。僕は好きですよ、ええ)

「さて、今の調査で<図書館>技能1回使ったので、だいたい4時間くらいかかりました。すでに日付は変わっていて、もしも、もう1回<図書館>技能で調べものすると、朝になりますよ」

浮田「眠らないことなんて、人間には無理です!」

山形「寝ます(笑)」


(場面転換)


「では、それからちょっと時間は戻りまして、ジャーナリストおふたりが猫鼠洞村の民宿に戻ったところです。飯を食いました」

西郷「じゃ、仲居さんに訊きますよ。――なんか、今日、警察の人がいっぱいいたみたいですけど」

「『ええ、なんだか物騒になっちゃいましたねえ。半年前にもこんなことがありまして』」

西郷「ええっ!? そのときの犯人は?」

「『まだ捕まっていないんですよ。警察は何をやってるんでしょうねえ』」

山形「耳が痛い(笑)」

西郷「前のときはどんな事件だったんですか?」

「『○○さんというOLさんが実家に帰ってきていたときに殺されちゃって』」

西郷「誰々が怪しいとか怪しくないとか、そういう話はないんですか?」

「『泥棒が出ただけで騒いでいるような村ですからねえ、殺人なんて起こるようなところじゃないのに――』」

西郷「ちなみに、仲居さんは歳いくつぐらいですか?」

「40代くらいですね。で、怪しい人とかの噂といったほうに話題が行くと、『ここだけの話ですけど――』と声を潜めて、本当は言いたそうな感じで『隣の水火水村に、10年近く前だったかしらねえ、麻耶野家の家に、人が住むようになったみたいなんですよ』」

岸野「はい」

西郷「10年くらい前――と思っている?」

「そうですね(正確には8年くらいなのでしょうが)。『そのときから、おかしな人が住むようになったねという噂にはなっていましたよ』」

岸野「麻耶野さんとこには、ご当主っていうのは今もいらっしゃるんですかね?」

「『詳しくは知らないけど、使用人みたいな男の人がいて、その人が色々と買い出しに出かけたりしているみたいです。まったく愛想がなくて、薄気味の悪い人ですよ』」

西郷「麻耶野さんって、代々そこに住んでいたわけではなくて、10年くらい前までは、他のところに住んでいたの?」

「『そうだと思いますが』」

岸野「使用人の方がおられるくらいだから、結構大層なお屋敷だと思うんですけど、そんな、住む人もいなくなった村にやって来たなんて、なんだか不思議な話ですねぇ」

「『そうですね』」

西郷「殺人犯かどうかは置いておいたとしても、変な人ではある」

「『ええ。悪い噂を言ってる人も結構いましてねえ、沢村さんのところでもね、ハルお婆ちゃんという人がいたんですけど、家族に何も言わずに麻耶野さんの家に行ってきたことがあるらしくて、帰ってきた次の晩に亡くなっちゃったらしいんですよ』」

岸野「はあー。そりゃまた妙ですねえ」

浮田「家に行って次の日帰ってきて死んだ。……吸血鬼?(笑)」

岸野「吸血鬼がお婆ちゃんを襲うかな?」

西郷「違いますよ。お婆ちゃんは、何かを封じこめに行ったんですよ(笑)」

岸野「ああー、失敗したんだ」

西郷「最近だけでなく、もっと昔にも残虐な事件が起きたりとか、そういうことはないんですか?」

「『特にないと思いますよ。私が生まれるちょっと前、だいたい50年くらい前に、水火水村で村人全員がいなくなった、という事件はあったみたいですけど。原因はいまだに判っていないみたいですねえ』」

岸野「当時は、なんて言われてたんですか? その原因は? “神隠し”で済んじゃったんですか?」

「まあ、そんなところですね」

西郷「今日、廃村のほうで小柄な人影を見たんですけれど、それってやっぱり、麻耶野さん関係なんですかねえ。そういう人のことを聞いたりしたことは?」

「『さあ、聞いたことないわねえ。……やっぱり、麻耶野さんとつきあいがある人がいないから、詳しいことを知っている人はいないと思うんですけど、たとえば、この村に住んでいる年配の人とか、50年以上前から暮らしていた人とか、そういう人のほうが詳しいかもしれないですね』」

西郷「長老だ。――あの時計塔は、ずっと建ってるんですよね?」

「時計塔も大昔――村人たちが消える前から、建っていたそうです」

西郷「いつごろまで動いていたんですか?」

「『それはちょっと判らないですね』」

西郷「1日に2回だけ正しい時刻を指すんだ」

「多湖輝の『頭の体操』ですか(笑)」

西郷「そうそう。……やっぱり、引き続き、変な生き物についての噂を聞いたら教えてと言っておきます」

「『噂程度なら聞きますけどねえ、本当にいるのかしらね』」

西郷「いますよ絶対! あんまり大きい声で言えないけど、ね? (岸野に)いますよね?」

岸野「うーん、猪苗代湖とか屈斜路湖とか、有名な湖にはそういう話が結構ありますからね」

西郷「本当にいるんです! とムキになりながら(笑)」

「『またまたー、お客さん』」

西郷「――ともかく、半年前に突然起きた事件で、それ以前から代々あったわけではないんだねー」

岸野「ただ、数学と殺人がどうして結びつくのか……」

浮田「麻耶野数美本人のところに行きましょうか? トンデモ本の解説をしてもらいに」

山形「ようこそ! よくいらっしゃいました! って、すぐ生贄にされちゃいそうな(笑)」

西郷「なんの生贄ですか(笑)」

「仲居さんに他に訊いておくことはないですか?」

西郷「湖に出ても、何か悪いこととかタブーを犯すようなことはないですよね」

「タブーは別にないですよ(笑)」

岸野「湖に出る人って、いますか?」

「いないですね。特に水火水村方面に立ち入る人は滅多にいないし、子供たちも遊びに行かせないようにしているみたい」

西郷「……こんなもんでしょうか。じゃあ、とりあえず今日は寝ます」


(場面転換)


「翌朝です。朝一番に何かする人はいますか?」

浮田「僕としては、麻耶野数美が気になるので、図書館に行って、くだんのトンデモ本をゲットします。……<図書館>ロールって、必要ですかね? 書名が判っていて、それを借りるだけですから。何かについて調べようとしているわけではなく」

「そうですね。ロールの必要はないですね」

山形「あと、木辺をちょっと調べたいんですが」

岸野「犯罪歴とかあるかもしれない」

山形「あいつを数学者が匿っているという説も」

岸野「木辺のほうが本当は博士だったりしてね」

「で、ジャーナリストのほうは、村人に色々とインタビューの予定ですね」

岸野「そうですね、村に出て」

「ではまず刑事のほうから。検死結果が出ましたので報告しまーす。
 死因ですが、前回のOLさんのときと同じで、頸動脈切断による出血多量。鋭利で大型の刃物によるものと思われます。刃物の侵入経路ですが、首の片側からだけではなく、左右両方から入っています」

山形「ああ、鋏だ!」

「また、下唇から顎にかけて肉が捲り取られていると言うかこそぎ取られていると言うか、喩えるなら野獣に囓り取られている感じでもあります。とは言っても、別に喰われているわけではなく、剥ぎ取られた肉片は、遺体のそばに落ちていました。ただ、溶けかけていたそうです。
 また、ところどころ、顔の近辺などに、歯形がついていたそうです」

浮田「うわー」

「歯形は小さく、成人のものではなさそうです。しかも歯並びや噛みあわせは大変悪いということです。歯形からの犯人の特定はできていません。
 胸部腹部が溶解しておりまして、制服、下着、皮膚、肉、骨の表面、内臓の一部、これらがドロドロに溶かされています。おそらく強酸によるものであることは間違いないのですが――成分の詳細は、前回もそうでしたが、一部不明」

山形「一部不明(笑)」

浮田「ある程度までは判るんですか?」

「ええ。やはり硫酸のたぐいではあります」

浮田「それ以外に、謎の溶解液が使われていたと」

「それと興味深いのは、溶けた肉の量が足りないということ」

山形「うわ、食べられてる」

「気化したのか、あるいは持ち去られたのか、それは不明。犯人の手がかり――頭髪とか皮膚組織とか体液とか――は、見つかっておりません。被害者の指先も若干溶けておりまして、爪の間に手がかりが残されてはいません」

浮田「溶けた肉が地面に染みこんだということは?」

「裏道ではあったのですが、一応舗装されている道路だったので、そういった可能性はないです」

浮田「そのへんは全部パソコンに入力しておきます」

「ちなみに死亡推定時刻は当初の予想どおりで、お友達と別れてまもなく襲われたのであろうことが判明します」

山形「前回と同じだな。同じ犯人だな」

浮田「過去の事例とか調べて、肉を溶かして食べたがる殺人鬼が(笑)いねーかなーと、プロファイラー気取りでいます。……あっ! 『クロックタワー』に似ているということは、もしかして犯人はホラーゲーム好き? 畜生、ホラー映画とかホラーゲームとか根絶やしにしてやる!(笑)」

「さて、浮田さんが図書館へ行き、山形さんは残って木辺について調べるということですが……木辺についての調査結果が出る前に、まずは図書館から行きましょう」

浮田「はーい」

「鳴兎門大学の図書館へ行きまして、『他元数学概論』を探すということですね? ……探せば普通に見つかりました。四六のハードカバーでございまして、お値段は2000円くらいでしょうか(もっと高くてもいいのかな? まあ、“概論”だし)

浮田「そんなに時間かけるつもりもないですが、座りこんでペラペラ読みます。章立てとか序文を読んで、だいたいの内容を推察しようと」

「もしも読破しようとするなら、丸1日はかかりそうなボリュームです。ペラペラと捲ると、やはり数式がいっぱい書いてありまして、この数式を見て<数学>ロールなんてのはないから――<知識>ロールでいいです。過去にお勉強したことを覚えているかな?」

浮田「(コロコロ……)35。成功です」

「πを使った式が結構多いなあという感じで、円とか球体とかに関する式のように見える部分も結構あります」

浮田「そうだ、せっかく鳴兎門大学に来たんだから、数学の先生に、これについて訊いてみよう。というわけで話を訊きに行きたいです」

「では、続けてやっちゃいましょう。数学教授のさんという人がいまして、午前中は講義がないので大丈夫です」

浮田「かくかくしかじかと、事件の詳細を語るようなことは――しませんが(笑)、この本はどういう意味なんでしょうか、と」

「突然そんなことを刑事さんが訊いてきたんで、ほんのちょっと驚いてるみたいですが、親切に教えてくれます。
 麻耶野数美が8年ほど前に発表して、姿を消すきっかけになった本で、一般常識からすれば荒唐無稽で理解不能だけれども、麻耶野数美の著書ということで出版はされた。今は絶版で、なかなか手に入らないみたいです。
 どんな内容かというと――、『説明することはなかなか難しいけど、その名のとおり他元――この次元ではない別の次元についての証明を試みようとしている本だね』と」

浮田「SFみたいなものですか?」

「教授は苦笑して『まあ、SFと言えるかもしれないね』」

浮田「四次元とか五次元とか、ウルトラマンの怪獣とかが出てきそうな」

「『前書きにもあったと思うけど、そもそも麻耶野数美のお爺さん――その方も数学の研究をされていた方で、お爺さんがそもそも発案したアイデアらしい。それを受け継ぐ形で研究続行しているらしいよ』」

浮田「なるほど。――事件とは別に関係なさそうだけど」

岸野「木辺が爺ちゃんなんじゃないの?」

西郷「あの年齢の孫がいたら変でしょう」

浮田「じゃ、ありがとうございますと言って」

「『何か事件と関係あるの?』」

浮田「いえ、たまたま個人的な興味がありまして」

「『私も彼女のファンだったんだけどねえ……』」

岸野「遠い目をして言うな(笑)」

「『あの本が出てから見限ったという部分はあるね』」

浮田「もし、麻耶野数美の所在が判ったとかなったら、それはそれで凄いことなんですかねえ?」

「『そうだね。それは事件だよ』」

浮田「なるほど。ありがとうございました、と帰る。いったん署に戻って、山形さんに報告はします」

「では、お昼ぐらいに帰ってきたことにして、それまでに木辺の調査結果が出ました。――木辺弘造、58歳。元、鳴兎門大学数学教授」

(一同)「おおー」

「7年前に突然辞職、その後、職に就いた形跡はなし。ちなみに、辞職と同時に離婚もし、家を出て行方不明」

山形「奥さんはどこに?」

「当時は鳴兎子に住んでいたけど、実家に帰っちゃったみたい。かなり遠くに引っ越したことにしましょう(笑)」

山形「じゃあ、話は聞けないか」

岸野「数美たんに目が眩んで道を踏み外したのか(笑)」

西郷「ふたりの隠し子が鋏を持って夜な夜なシャキンシャキンですよ、これは。もう完璧ですよ(笑)」

(あまり先の展開を読まないように)

山形「木辺の出版物とかは?」

「まあ、教授でしたからそれなりに出してはいましたけど、特にこれといって麻耶野絡みのものはないです。学生に買わせて自分の講義で使うような(笑)」

山形「麻耶野数美との関係は調べようがないか……」

「麻耶野数美が鳴兎門大学にいたことがあって、そのときには一緒に仕事をしていたらしいですよ」

山形「そのときに信者になったと」

「まあ、ありていに言えば」

岸野「数美たんのしもべになりなさい! とか言われて、萌え萌えになってしまったのか」

「その後お昼に合流して、ひとまず刑事の午前パートは終了です」


(場面転換)


「ではジャーナリスト。どんな人にインタビューしましょうか?」

岸野「インタビューというよりも、船を出してみるというのは? ちなみに、今日の天気はどうですか?」

「今日は普通に晴れています」

西郷「でも船を出してもですね、今“あれ”は陸上にいるんですよ。……どうでしょうか?」

岸野「まあ、もともと船を出すことについては反対だったから、そういった意見に傾きそうだけど。どうしようかな……」

(結局、長い話し合いの結果、西郷が村人から噂を収集することにしました)

西郷「過去の鳴兎子湖の怪生物の噂をもらってくる」

「うーん、じゃあ、総合的に聞きこみということで、話術のスキルとして<言いくるめ>か<説得>を振ってみてください」

西郷「(コロコロ……)失敗」

「たいした情報は集まらないけど、そういった噂が出始めたのは数年前からということと、ちょっとした目撃証言が色々――首長竜だとか鰐だとか獣だとか不統一なものですが」

西郷「ついでに、半年前の殺人の話を」

「やはり、さっき刑事組に言った情報以上のことはないですね」

西郷「麻耶野家について調べてみます。麻耶野家に限らなくても、水火水村の古い家のことなどを」

「それは、じゃあ午後になってから図書館で調べるということで」

岸野「岸野はもう一度現場に行って、そのあたりを見たいと思います。溶けちゃってる魚の組織片をちょっとだけ取って、どこか鳴兎門大学でもいいし、なんとかして調べたいな」

西郷「カメラずっと設置してさ、夜通し撮影するというのは?」

岸野「あんな大層な機材持ってるわけないじゃい。お金ないんだもん」

(魚の組織片採取後、再び麻耶野家へ行くことになりました)

岸野「すっとぼけてもう1回、麻耶野家へ行きます」

「では、午前中のうちに麻耶野家につきました。さすがに2階の部屋に明かりはついていません。ついていても判りませんが」

岸野「そしたら、いきなりごめんくださいではなく、周りをぐるっと回ってみます」

「回ってみましたが、特に夕べとの変化はないです」

岸野「おかしな足跡もなければ、動物の爪痕が塀にあったりとかいうこともない?
 じゃあ、なんてこともないと判ったら、腹を決めて、ごめんください、と行きます」

「すると、また木辺が出てきまして、『夕べのあんたか。何の用だ?』」

岸野「すみません、何度も。えー、実は私、様々な方面から取材の依頼を受けてこちらにお邪魔しておりまして、今回の未確認動物の目撃情報もさることながら、麻耶野先生がこちらに隠棲してしまわれた経緯などを、世間のほとぼりも冷めたことですし、ここいらできちんと研究業績の再評価などをするための準備ということで、そのへんのお許しと今後の方針なんかをお話させていただけたらと思いまして。
 そういったことを望んでいる声も多々あるんですが、大挙して押しかけてきてもご迷惑でしょうから、一応文筆を生業としている私がそのようなことを頼まれて、今回こちらに伺いました。お話を伺うことはできますでしょうか?」

「そうしましたら、<言いくるめ>を」

岸野「よし、振りましょう。(コロコロ……)おおっ、48、成功した」

「『そういうことなら博士に相談してみよう』」

岸野「ありがとうございます」

西郷「自分も博士なのに(笑)」

「木辺は玄関に引っこんでいって階段を上がって、しばらくして戻ってきて、――『博士が話を聞くと仰ってる』」

(一同)「おおーっ」

岸野「ありがとうございます。成功!」

「というわけで、単身、乗りこんでいきました」

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