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Act.1 湖の噂


「面白いことから逃げてはいけません。人間としての鉄則です」



鳴兎子湖

キーパー(以下 K)「では、始めます。シナリオの時季は今ぐらい(21世紀初頭、5月末)。前回のシナリオから約1年後。舞台はご存じ鳴兎子(なうね)でございますが、メインの舞台となるのはこちら、鳴兎子から南の方角にある猫鼠洞村(びょうそどうそん)と、今や廃村となっている水火水村(みずかみむら)となります。
 ちなみに水火水村がなぜ廃村になったかというと、今から約50年前、一夜にして村人たちが全員失踪したという伝説というか謂われがありまして、それ以来、住みつく人がいなくなっているわけです。
 で、今はある日の夕暮れどき。――西郷さんと岸野さん」

岸野恭三「はい」

「このふたりは、ジャーナリスト・コンビということですが、どういう関係ですか?」

西郷ひろみ「大学の先輩で、なんか凄い人がいるっちゅうんで、押しかけて、色々と」

岸野「もう記者になってる?」

西郷「なってないですよ。学生新聞レベルですよ」

岸野「じゃあ、目をつけられて危険な目に遭って新聞社を辞めたからといって、普通の生活ができなくなったわけではないので、岸野はフリーのジャーナリストとして、自分の古巣の新聞に寄稿したり、その系列会社の週刊誌の仕事をやってるということにして――個人でやってるので、事務所に来て話をしたりして面識があるということで」

「判りました。では岸野さんが、オカルト系も扱っているタブロイド誌から仕事を貰いまして」

岸野「はい」

「その仕事というのが、ここ最近――数年前から噂にはなっていたのですが、鳴兎子湖(なうねこ)に妙な怪物が出るらしいとか」

岸野「うわあ(笑)」 猫鼠洞村と水火水村

「ここんとこ、目撃証言が湖の東岸――猫鼠洞村付近でちょこちょこと聞かれるそうなんですよ。それで実際に行ってこいやー! ということになりました」

岸野「なるほど」

西郷「えっ! あの雑誌に書くんですか! 私あれ欠かさず読んでるんですけど(←オカルト好き)」

岸野「えーっ! いや、俺、この仕事断ろうと思ってるんだけどさ」

西郷「いや、ぜひぜひ行くべきですよ! 行きましょ行きましょ」

岸野「俺みたいなひとりでやっているフリーのジャーナリストが、やましい記事なんか一回書いたら終わりだよー(笑)」

西郷「(無視)さっそくですね、猫鼠洞村の民宿を予約して――」

岸野「待て待て待て、断るんだから!」

西郷「で、適当に予約しました」

「では(時間短縮のためにも)、なんやかんやあって、もう現場に来ちゃっていることにしましょう」

岸野「判りました。じゃあ、取材を依頼してきたところは、別に恥ずかしくないような雑誌ということで」

西郷「(笑)恥ずかしくないような雑誌ですよね?」

岸野「東スポとかフライデーとかじゃなくて」

西郷「『ムー』レベルじゃない?(笑)」

岸野「まあ、経歴に傷のつかない雑誌だったということで納得して、鳴兎子湖岸までやって来ました」

西郷「なんか起こりそうなところじゃないですか」

岸野「うーん、そういう目で見ると、なんでも起こりそうに見えるもんなんだけどなあ。そういうのは、一番ジャーナリストがやっちゃいけないんだよ」

「それでは、ここ数日ですでに色々と集めてある情報なんですが、特に水火水村沿いに、正体不明の怪物が出るという噂が、何年も前からありまして、大きな影が湖面に浮いていた、とか」

岸野「あー」

「湖面がざわざわ動いていたとか、野太い鳴き声のような音を聞いたとか」

岸野「うわー」

西郷「湖のとこから?」

「そう、湖の方向から。聞いた人の証言では、牛のようでもあり、人間の子供の声を太くしたようでもあり」

岸野「うー、気持ち悪いな」

「姿を見たという人もいるらしいですけれど、鳴兎子療養所の精神病棟に入院しています(笑)。なので、ちょっと信憑性は薄いかという感じはします」

岸野「なるほど」 湖のイメージ

「それで、ふたりはお昼ぐらいから、鳴兎子湖周辺で適当に写真を撮っていたりはしていたんですけれど、特にそれらしい痕跡も見つかるもんでもないなあといったところ。
 廃村となっている水火水村のほうに車を停めて、湖付近を動き回って、何か撮れればめっけもんで、暗くなってきたら帰ろうかと」

西郷「一応、車は別々に乗ってきたけど、(自分の車は)宿に置いておいて、彼の車に乗せてもらってるということでいいですかね」

「はい。宿は猫鼠洞村の民宿ということで」

山形鉄男「(ボソリ)……鳴兎子湖の怪物だから“ナッシー”(笑)」

岸野「“ナッチ”とか(一同笑)」

西郷「ボートでも借りて、湖に出てみましょう、もう」

岸野「ええーっ! まあ、この時間帯はやめようや、危ねえし」

西郷「いや、でも、だって、陸でできることはあらかたしたから、あとは『湖に乗り出した我々は……』とか書かなきゃいけないんですよ(笑)」

岸野「俺は二度と食えなくなるな、この業界で――とか言いながら、どうしようかなーと」

西郷「私の名前使ってもいいですよ(笑)」

岸野「お前だけおいしいじゃないか、そうしたら」

西郷「とかブツブツ言いながら、そのへんにボートとかないか、ちょっと」

岸野「じゃあ、あれば考えるとして」

「じゃあ、<目星>振ってみてください」

西郷「(コロコロ……)あったよ、あった」

岸野「あったんだ(笑)」

「では、貸しボート屋を見つけ――るわけがないので」

山形「廃村だからね(笑)」

「そのへんに、もの凄く古い、乗れるのかこれ? といったボートは見つけました。浮くとは思うけど、オールは1本しかないです」

岸野「こんな船に乗っていくのは自殺行為だから、やめよう。明日出直すぞ」

西郷「明日になったら、船調達できるんですか?」

岸野「調達してこよう、街に行って」

西郷「ちょっと待ってくださいね。鳴兎子のボート屋を携帯で検索……」

岸野「そのフットワークの軽さが見上げたもんだね。優秀優秀」

西郷「どこそこにボート屋があります、ということが判りますね?」

「まあ、簡単に調べられるでしょう」

(水火水村は携帯圏外であること忘れています。たいして重要な場面ではないですが)

西郷「じゃあ、どこそこにボート屋があるから、明日の行動はこれで決まりですね」

岸野「決まり決まり。計画練って、今日は帰ろ」

「では、今日は帰ろうということろで――時間的には7時過ぎ、薄暗くなってきたころですね――ふたりとも<目星>をお願いします」

岸野「(コロコロ……)成功」

西郷「(コロコロ……)あ、あれはなんだ?」

「ある岸辺の一ヶ所に、まるで大型の何かが――」

岸野「ええっ!?」

山形「足跡が?」

「足跡ではないけれど、まるで這ったような、引きずったような、若干の窪みが。――もしそれが生きているとしたら、這ったような感じに見える」

岸野「ああああ」

西郷「ちょっ、ちょっと岸野さん、見てください、あれ!」

「先日大きな雨が降っていて、まだ地面がぬかるんだままということにしておきましょう。幅は、大人が両手をいっぱいに広げたくらい――2メートルくらいでしょうか」

岸野「きっとカタツムリの群れが這っていったに違いない」

西郷「王蟲だ王蟲。――すぐ、これに合致するオカルト的な(UMAの)名前を出したいんですけれど、私(プレイヤー)はよく知らないので、何かそれっぽいことを適当に言います」

浮田弘志「これはモケーレ・ムベンベと一緒だーっ!(一同笑)」

西郷「そうそう、そういったことを言います」 何かの痕跡と建造物

「そういった跡がですね、このあたりについています(地図参照)」

西郷「何かが陸に来たんですよ!」

岸野「ええーっ! 何だこれ!」

西郷「写真に撮りましょう」

岸野「写真にはもちろん撮りますね。それで、さりげなく煙草の箱とか置いて、大きさの比較を」

西郷「岸野さんがそこに立って、指差してくださいよ」

岸野「そういうのは、ちょっと勘弁して」

「痕跡の部分では、雑草が外側に倒れたりしています。さらに面白いことにと言うか不気味なことにと言うか、湖に棲んでいるのであろう魚が何匹か、死骸となって地面に落ちています」

西郷「ざぶーん、と上がってきたってことですよ。その死骸からするに、いつろご上がったっぽいですか?」

「そうですね、蠅はたかり終わって、現在は地虫がたかっている状態です」

岸野「もう乾いちゃっているわけですね」

西郷「1日2日は経っている」

「ただ、その死骸の一部ですが、ドロッと溶けていると言いますか、半ゲル状のようになっています」

西郷「消化されたものっぽいってことですか? 溶かされた?」

岸野「臭います?」

「鼻を近づければ臭いますね。特殊な臭いがするわけではなく、ただの腐敗臭のようです」

岸野「シンナー臭いとか、そういうのはないですね?」

「<化学>あります?」

岸野「(01%で挑戦……コロコロ……)駄目でした」

「ちょっと判らないですね」

西郷「痕跡は、進んだ方向には何があります?」

「古い家々がありますが、塀がまさに通り道の部分だけ壊れていたり、木が倒れていたりします」

西郷「なぎ倒されたような」

「何か相当でかくて重いものが通ったんじゃないだろうかという気はします」

西郷「鱗とか、何か遺留品ってないですか? たとえば塀にガチガチっと擦ったときにパラパラと落ちたりとか」

「そういうものはいっさい見つかりませんでした」

岸野「爪痕とか足のつきかたが判るような跡とか、そういったものはないですか?」

「<目星>半分で振ってみてください」

岸野「(コロコロ……)失敗。判んないか」

西郷「通った跡は蛇行している?」

「蛇行はしていない。真っ直ぐというわけでもないけど、大きく蛇行しているわけではないです」

西郷「その周りに、他の足跡が並んでついているとかいうのはないですか? 人の足跡とか、小さな足跡とか」 時計塔

「ないです。ふたりが痕跡をつけていくと――これは伏線ですが(笑)――北の方向、駅の近く、かろうじて水没していないところに、大きな時計塔が建っているのが見えました」

岸野「ほー」

西郷「もちろん時計は動いてないんだよね?」

「もちろん動いてないです。古い村なので平屋建てが多いのですが、この時計塔だけ凄く高い」

西郷「火の見櫓のように建っているんですね」

「目測ですけど、10メートルくらいはあるんじゃないかと」

岸野「時間は、この写真と同じで止まっているんですか?」

「それはあまり気にしないでください。画像はあくまでイメージなので」

(時計塔はさておき、ふたりは謎の痕跡を追っていくことにしました)

西郷「行ってみましょうよ。今ならまだ大丈夫ですよ、陽もあるし」

岸野「確かに気になる。行ってみよう」

「跡を追って東へ行きました」

西郷「這った跡を荒らさないようにして」

「では、<追跡>を振るまでもなく追っていくことができまして、内陸部にもちょこちょこと魚の死骸が見つかりました」

西郷「何か、お椀状のものに水が溜まっていて、じゃっぷじゃっぷ溢れていたのかな(笑)」

「やはり、魚の死骸は身体の一部がドロドロに溶けていますが、内陸部だと特に。虫がたかっている物体があるのでよく見てみたら、どうやら魚のようだ、という感じです」

岸野「魚はみんな大きいんですか?」

「まちまちですね。そんなに莫迦でかいのはいないけど」

西郷「メジャーで測ったり、そういった様子を写真に撮ったりしています。もしかして、足跡を石膏で取るための用意もしてあるとか(笑)」

岸野「それはない」

西郷「まあ、とにかくついて行きましょう」

「鳴兎子湖のナッチを追って」

(ナッチって名前になっちゃった)

「色々調べながらなので、ゆっくり進んでいくわけですが、そうしているうちにだんだん陽が沈んできて、真っ暗というわけではないですが、もう少しでそうなりそうな頃合い」

西郷「何か臭っているんですか、このへん?」

「そんなに酷い臭いはしないですよ」

西郷「死んだ魚の臭いがするぐらいで」

岸野「天気は今、晴れているんでしょうか?」

「曇天です」

岸野「星は出ないのか」

「やがて、この村にしてはかなり大きなお屋敷にたどり着きました。2階建てで、立派な門があります。痕跡はその手前で止まっていて、それ以上進んでいないようです」 麻耶野家イメージ

岸野「そのお屋敷の塀とかは、異常ないんですか?」

「異常ないですね。塀よりも10〜20メートル手前で跡は消えている」

西郷「跡が止まったあたりに石を投げてみる。透明な何かがいると仮定して(笑)」

「普通に飛んでいきます」

西郷「ああ、やっぱり、透明なわけないよね」

岸野「暗くなってきたのに合わせて、双眼鏡の暗視モードをオンにして見ています」

「そのお屋敷、2階のある部屋に明かりがついています」

西郷「ええっ! 誰か人住んでるんですかね」

岸野「じゃあ、普通に双眼鏡で」

西郷「覗き(笑)」

「2階の北側の部屋に窓があるんですけれど、そこから明かりは漏れていますが、中はちょっと覗けない」

岸野「明かりがついているということだけしか判らないと。人影とかあるんですか?」

「見あたりません。ちなみに明かりと言っても蛍光灯のようなものではなく、ランプのような薄暗いものです」

岸野「どういうことだろう? 人が住んでるのかな? いや、住んでるわけないなあ」

「誰かが懐中電灯を持って動き回っているわけではなく、一ヶ所――たとえば天井に光源が固定されている感じです」

西郷「せっかくだから入ってみましょうよ。――表札とかありますか?」

「だいぶ古い表札で判読は難しいですが、なんとか読めた文字は――麻耶野

岸野「その名前でピンと来ますかね?」

「キャリアの長いジャーナリストなので、<知識>でいいです」

西郷「<オカルト>で何かないですか?(笑)」

岸野「(コロコロ……)バッチリ成功してます」

「その昔――と言っても十数年前なのですが、結構有名だった人で、麻耶野数美(まやの かずみ)という人物の名前を思い出しました」

西郷「男ですか?」

「いえ、女性です。その人は天才数学者と呼ばれた人で、出身地はおそらく鳴兎子近辺なんじゃないかということを言われてました。世間に名前が出てきたのが20年前。当時30歳ぐらいでした。π(パイ)に関する画期的な論文を発表し、世界の注目を浴び、その美貌も手伝って、若き天才女性数学者ということで、日本のみならず世界的に有名になりまして、著書もだいぶ売れていました。売れてはいたけどあまり読まれてはいなかったでしょう。ホーキングの本みたいに」

岸野「はいはい、ベストセラーだけど理解されてはいない、みたいな」

「その人ですが、今から8年ほど前に、突然、世間から姿を消してしまいました。なぜ消したかのいきさつを知っているかどうかは……」

西郷「そのころ、まだ13歳だもんな」

「ではやはり年齢的に、岸野さんだけ<知識>をお願いします」

岸野「(コロコロ……)はい、成功しました」

「8年前に突然、詳細はよく覚えていませんが、変な理論を発表したらしく――」

西郷「トンデモだー(笑)」

「学会から総スカンをくらって」

岸野「時の人の地位から転落したんですか」

「そのとおりです。それ以降、ふっつりと姿を消してしまった」

西郷「その人を追わねば(笑)。トンデモですよトンデモ(笑)」

岸野「俺はなんだか変なものに呼ばれているような気がしてきたよ。帰ろっか(笑)」

「その人のことを思い出し、鳴兎子周辺の出身だったと聞いていたので、この表札を見て結びついた。珍しい名字ですし」

浮田「鳴兎子で麻耶野と言えば……みたいな」

岸野「てなことを西郷に話して、しかし、よもやこんなところでUMA騒ぎと結びつく余地はないと思うんだがなあ……」

「と、そこで、ふたりとも<聞き耳>をどうぞ」

西郷「(コロコロ……)成功。24」

岸野「(コロコロ……)大失敗」

「じゃあ、西郷さんだけが気づきました。屋敷の東のほうに小規模な森があるのですが、そっちの方角から――森から出てきたのかは判りませんが――ガサガサとかタタタタとか、走るような物音がしまして、ちょっと見てみたら、暗いので具体的にどういう人物かは判りませんが、人影が1体、麻耶野家の敷地内に走って入ってきました」

岸野「1体(笑)」 蔵

「麻耶野家の敷地には、こんな蔵があるのですが(画像参照)、その陰にさっと人影が消え、それ以降、見えなくなりました。ちなみに蔵の入り口は、こちらからは見えません」

西郷「あっ! と言う」

「その人影ですが、背は高くなく、非常に小柄な感じがしました」

岸野「ほう」

西郷「“人”ですよね?(笑)」

「もちろん人です。走っていたのですが、普通に腕を振っていたわけではなく、両手を身体の前に持ってきて、腕を組んでいたのか何か持っていたのか、という状態」

西郷「何か変だよ(笑)」

岸野「抱えて走っていたのかな」

「何か抱えていたのかもしれないね」

西郷「じゃあ、それを見たら、あ! ちょっと! て言って、ザザザっと私も蔵のほうに走っていきます」

「走っていくには、麻耶野家の門をくぐる必要があります。――門は開いていますが」

西郷「はい、行きます」

岸野「人影に気づいてないから、なぜそんな急に走っていくのか、岸野は判らないんだ」

「では、突然走り出して入っていきます。敷地内は手入れもされておらず、雑草ぼうぼうに生えています。西郷さんが蔵のほうへ走っていこうとしたところ、突然背後から、『おい!』と野太い男の声が聞こえた」

西郷「えっ!? 後ろから?」

岸野「その声の主は俺ではない」

「と、いうところで、場面転換」

西郷「このあと岸野さんが、行方不明になった女子大生を探しに行くんだ(一同笑)」

岸野「あー、またこんなつまらんことで警察に借りを作ってしまうのか、俺は」

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