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Act.5 世萬の集落



「この村の名前は何というんですか」
「名前? そんなものはない」

― 麻耶雄嵩 『鴉』



山田「何か、持っていく装備あるかなぁ」

日向「地図によると世萬は、ここからすぐ歩きなの? それとも途中まで車で行ける?」

「すぐ歩き。――距離からして、まあ、半日は見ないとなぁ。山道だからね」

山田「時間的に大丈夫かな」

「いま行くと、迷わず着いても、夜だね」

日向「夜出発する?」

北村「(迷って)やばくなりそう」

山田「白々としたときにGO! というのが一番いいのかな」

北村「ここは、体力の回復を優先したほうが」

日向「――非常事態ではないのかい、今は!?」

山田「うん、非常事態――強行しましょう」


(善は急げ。すぐさま一行は、森の中へ足を踏み入れました)


「さて、<ナビゲート>振って〜♪」


(全員、<ナビゲート>技能は初期値の10%。まず成功はしないでしょう。ここでしばらく道に迷わせておいて――というのが、キーパーの目論見でした)


(コロコロ……)

日向「あ、惜しい」

山田「あ! 出た」

北村「(こちらも)成功だ」

「(何ぃ〜っ!?)――――迷わず行けた」

山田「あれ?(拍子抜け)――結構合ってるじゃないですか、地図」

北村「だろう?(笑)」


(地図のトレースに失敗しているので、ここでの<ナビゲート>にペナルティを課すべきかもしれませんでしたが……(実際は、地図のトレースに成功していたらボーナスを与えて振らせるつもりでした)……それでも成功しているんですよね、この人たちわ)


「突然、森が開けた」

<一同>「おっ!」

「全員、<CON×5>振ってみて」

日向「成功」

山田北村「失敗」

「道を判ったふたりが足を引っ張ってしまったため(笑)、夜遅くに着きました」

日向「これだからなぁ(笑)」

山田「いや、合ってたからよかったじゃないですか、日向さん」

「ほう、ここが噂の世萬の集落か、と――真っ暗ですね(笑)」

山田「判んない(笑)」

日向「明かりは?」

山田「建物らしきものは」

「深夜ということもあって、明かりは窺えないね、一切。多少、盆地のようになっているところに出てきたので、みんなは集落を見下ろす形になっている」

山田「月明かりは」

「空に月はあるだろうけど、曇り」

山田「うああ」

日向「今は動かないほうがいいのでは」

山田「ここで野宿?」

「ちらほらと家は見える。藁葺き屋根だね」

北村「電信柱みたいなのって、ある?」

「パッと見、ないね」

日向「朝まで待つ?」

山田「ここで朝まで待っても、休む場所が――」

日向「見つかったら……明らかに不審者だよね」


(ちょっとした相談、もとい雑談の末――)


日向「行っちゃう?」

山田「うん。降りましょう」

日向「近づいた」

山田「建物は何棟くらい?」

「うーん――まあ、二十はない」

山田「本ッ当に明かりはない?」

「本ッ当にない」

山田「人の気配は?」

「ない。誰かがいたとしても、寝静まっているだろうし」

山田「時間は?」

「丑三つ時を過ぎたあたり」

北村「ぽつぽつと家がある間の、他の土地っていうのは、何なの? 田園?」

「いや。単なるサラ地」

北村「じゃあ、空き地で特別広そうな、広場みたいなのってある?」

「そういうのはないね」


(探索者たちは懐中電灯を点けたまま、集落の奥へと歩いていきます)


「奥まで歩いていくと、ひときわ大きな屋敷を見つけた」

日向「表札には何て書いてあるの?」

「表札はない。それでだね――<聞き耳>ロール」

日向「(コロコロ……)09」

「でかい屋敷の中から、ボソボソと、会話のようなものが聞こえてくる。明かりは点いていないけど」

日向「何と言ってるかは判るの?」

「全然判らない。でも複数いる」

日向「(ふたりに)中に複数いるっぽい」

山田「明かり消しましょうか」

日向「うん」

山田「消す。――この建物も古い?」

「みんな古いね」

山田「特別壁に囲まれているわけじゃなくて――?」

「じゃないね。ふっきらぼうに――という言い方が相応しいかどうか――サラ地の中にどーんと建ってる。見た目は重視されてなく、住めればいいや、という感じがする」

日向「入っちゃおうか」

山田「でも――ここにしか人がいないみたいだから、人のいないところを捜索するっていう手もあるかもしれないけど。下手に入ったら強盗だし(笑)」

日向「(きーてない)入ってもいいかな」

北村「普通に正面から(笑)」

日向「客人として(笑)」

山田「道に迷いましたぁ〜?」

日向「服をビリビリに破いて」

山田「襲われました〜。熊が!(笑)」

北村「口々にみんな違うの。襲われた動物が(笑)」

山田「兎だーっ」

北村「狼だーっ」

日向「――だったら、山からバタバタ走ってくるとこからやらないといけないんじゃない?」

山田「テイク・2(笑)」

日向「うーん……ジャンケンで負けた人がひとり代表でというのは?(笑)」

北村「どこか身を隠せるようなところってあるんですかね? ――家が幾つか点在して、あとはみんなサラ地?」

「まあ、ところどころ茂みはあるよ。あと、一見小さな家かなと思ったら納屋だったり」

北村「それだ」

日向「中に入る。そこで一日偵察してみる」

「じゃあ、いちばん外れの納屋にする?」

日向「うん、いちばん人が来なさそうなのに」

「特に鍵は掛かっていないので、納屋にはすぐ入れるよ。中には色々なガラクタが置いてある。農耕具の他に、木箱がいっぱいあったり」

日向「とりあえず中でさ、」

山田「うん、体力回復。えーと、起きてなくていいかな、ひとりくらいは」

日向「うん」

山田「日向さんは酔っているから、寝ていいです(笑)」

日向「なんか、弱っているからね」

山田「じゃあ、ふたりで交替で見張ります」

「どっちが早番遅番か決めて」


(ダイスを振り合って決め、北村が早番、山田が遅番となりました)


「それじゃあ、明け方です。だんだん遠くの空が明るくなってきたかな、といった程度。――(日向に)あ、先にMP全部回復しちゃって」

日向「やったね」

「見張っている人?」

山田「はい」

「<目星>か<聞き耳>好きなほうの2倍で振ってください」

山田「<目星>で。(コロコロ……)あ、成功」

「さっきの大きな屋敷から、何人もの人影がぞろぞろと出てきた。暗いので、どういう人かは判らない」

山田「(ふたりを)起こしたい」

「起こした」

日向「起きた。何?」

山田「例の建物から人が出てきました、と」

日向「北村、懐中電灯――じゃないや、双眼鏡を」

北村「持ってないっス(笑)」

日向「ああ、そう」

北村「ちなみに、どっちのほうに歩いて行っているの?」

「色々」

山田「こっちのほうに向かってきてるのは?」

「それはない」

山田「あ、よかった」

日向「いま何時?」

「四時ぐらいかな」

日向「早起きだなぁ。――ここは電気がないから、陽が出たらご出勤なんじゃないの?」

山田「ああ、うん――ご出勤って、何をしてるのかな、ここの人は」

日向「鍬(くわ)を担いでいたりは?」

「手ぶらだね。それと、みんな、あまり元気のあるような歩き方じゃない。だらだらと」

日向「朝早いから眠いんだよねぇ」

山田「本当に人影程度にしか見えない?」

「望月峯太郎の漫画風にしか――って、解んねえか(笑)――遠くに真っ黒なシルエットが」


(『ドラゴンヘッド』の暴徒みたいな感じー)


北村「その真っ黒なシルエットが家に入ったりとか――そこまでは判らない?」

「各自、それぞれの家に入っていくような感じだ」

山田「……みんな入った? その人影っぽいのは」

「うん、入った」

山田「出ますか、ここから」

「まだ、だいぶ暗いけど」

北村「じゃあ、陽が昇ってから――?」

山田「いや、陽が昇ってからだと(笑)、まずくないですか(笑)。
 ――でもまあ、とりあえず、外には出ておいて」

北村「人が入っていった家は、明かりが点いたりは?」

「点かない」

北村「でも、人影が入っていった家がどこかは、判る?」

「だいたい判る」

山田「大きな建物が何かの集会場だとしたら……うーん、誰かが住むようなところ? そこは? それとも何かの施設みたいな――」

「大金持ちの屋敷、って感じかな。古いために見すぼらしさもあるけど」

日向「屋敷の裏まで歩いてしまおう」

山田「なるべく人目につかないような通りを歩いて」

日向「怪しくなく歩く(笑)」

「他に誰も出てないからいいよ。はい、裏まで着いた。屋敷の裏側は、すぐ林になってます。そして登り坂」

日向「窓とか、ついてるの?」

「まだ暗いから近づいてみないと判らなかったんだけど、窓は全て板で塞がれている」

日向「雨戸じゃなくて?」

「(頷く)」

日向「じゃあ、窓の意味をなしてないってこと?」

「YES」

日向「人の気配は?」

「感じられない。音も聞こえない」

日向「ドアは? 入口は?」

「裏口がある」

日向「勝手口――あとは野となれ山となれ(笑)。行く?」

山田「後ろからついていきますよ」

日向「ドアに触れた途端、大事件が起きるかもしれない(笑)……ドアに触れた!」

「触れた」

日向「開く?」

「鍵が掛かっている。見たところ、しばらく使われた様子がないね。錠前も、中は錆びてるんじゃないかという気がする」

山田「パワーチャージ(笑)。どーん!」

「長い棒をみんなで抱えて?」

日向「少し力を入れてみる」

「開かないね」

山田「誰かがタックルしないと駄目なのね」

日向「蝶番(ちょうつがい)を外す」

「錆びてるね」

日向「ドライバーとか持ってないじゃん」

北村「ツールナイフで何とかならない?」

「ドライバー、ついてんのかな?」

日向「十徳ナイフならついてるよ」

「じゃあ、<機械修理>」

北村「(コロコロ……)おお、いった!」

「蝶番を外した」

日向「外したけど開くのかな?」

「まあ、かなり大きな音はするけど、開けることはできる」

日向「しょうがないよね」

山田「(笑)もう、開けちゃったから」

「じゃあ開いた。静寂に包まれた集落に、騒音が響いた♪」

日向「誰か、にゃあお、って鳴いて(笑)。
 草むらに隠れてみようか。誰か来ると思うので。ちょっと隠れて様子を窺う」

「何も起きない」

日向「もとのポジションに戻る(笑)。入っちゃう? ――入った」

「入った。廊下が奥へ続いている」

日向「廊下には、もの凄い埃(ほこり)が積もってたりするの?」

「いや、そうでもない」

山田「廊下には扉がいっぱい?」

「うん」

山田「かたっぱしから開けていくしかないのかぁ?」

北村「とりあえず、すぐ隣の扉を開けてみようとする」

「開けたよ」

北村「中を覗いてみる」

「真っ暗」

北村「懐中電灯を点けましょう」

「物置のようだね」

北村「ちょっと中を物色して――」

「物色する? <目星>どうぞ」

北村「(コロコロ……)成功」

「いろんなガラクタに混じって――面白いものを見つけた」

北村「?」

「こんな集落には不釣り合いな、迷彩模様のバッグがあって、その中に、信号ピストルが入っていた」

北村「ほーう。迷彩のバッグって、リュック?」

「うん。リュックだよ」

日向「貰っていったほうがいいでしょ」

山田「うん。不釣り合いだからね(笑)」

日向「いざとなったら武器になるね」

「まあ、なるね。当たったら相当痛い。死ぬと思う(笑)。信号弾は炎も出るから」

日向「寒いときにもありがたい」

山田「いやいや(笑)」


(なぜこんなものがこんなところにあるのか? そうか、これはきっと何かの伏線に違いない! ――そう考えた貴方は鋭い! …………嘘です。すみません。こんなものがこんなところにある理由は、永遠の謎です。恐らく、以前この山中を訪れた何者かの持ち物を、集落の者が拾ったか盗んだかして手に入れたものでしょう)


日向「(ふたりに)次の部屋行っちゃう? ――(キーパーに)ドアがもの凄いたくさんあるわけ?」

「うん。僕も数えられない(笑)」

山田「えーと、この先扉がずーっとあって、玄関までそれが続いてる?」

「いや、曲がってるよ。途中で」

日向「そういえば外から見たとき何階建てだった?」

「平屋」


(一行は廊下を行き、特に大きく襖の開きそうな一室を見つけ、そこへ入ろうとしました。が――)


「廊下を徘徊していると、向こうから足音が近づいてくる」

日向「あぁ、どうしよう。やばいかも」

「ゆっくりとした音です。ぎし、ぎし、ぎし……」

日向「その音に合わせて、うちらも歩く(笑)」

「<忍び歩き>」

日向「うわぁ、無理だな、こりゃ」

山田「さあ、振りましょう」

(コロコロ……)

(全員失敗)

「ぎしぎしぎしぎしぎしぎしぎしぎし……四人分の"ぎしぎし"が鳴る(笑)」

北村「猫だと思ってくんないかな」

「近づいてくる足音の歩調が、やや早まる」

日向「こっちはライト消してんのかな?」

「まあ、消していいけど」

日向「近づいてきた途端にライトを向けて目眩ましと同時に、戦術的撤退(笑)」

北村「近づかれる前にそのまま逃げるってのはどうかな」

日向「ああ、なかなかいいアイデアだ(笑)」

北村「逃げる。――いや、逃げると言うか戦術的撤退を(笑)」

日向「撤退するか」

「じゃあ、撤退した。ほうほうのていで(笑)」

日向「どこまで撤退したのかな。外まで?」

「外まで出たよ」

日向「じゃあ、いつもの草むらまで」

山田「定位置なんだ」

「いつもの草むらに隠れた」

日向「ドアが壊れてるんだよね。――誰か来ないか見守る」

「見守っていると、壊れたドアの隙間から、手だけがにゅうっと出てきて、ドアを掴んでもとに戻した。やけに生っ白い、不健康そうな手だ」

北村「でも、普通の人間の手なんでしょ?」

「まあ、そう見えたよ」

山田「爪伸びてなかった?」

「別に」

日向「埒が明かないから、もう一回、静かに行ってみようか」

「えーと、だんだん陽が出てきますよ、もう」

山田「ああ、明るくなってきた」


(陽が昇り視界がよくなってきたところで、一行は、この集落の全体像を見渡すことができるようになりました)


「みんなの後方、やや離れたところに田畑がある。更に、大きな屋敷の向こう側――みんなが集落に入ってきた方向だね――幾つか家があるんですが、そちらのほうから――
 <聞き耳×2>を振ってみて」

(コロコロ……)

日向「成功」

「――子供たちの声が聞こえてきた」

山田「子供?」

「うん、楽しそうな」

北村「じゃあ、そっちを見る」

「見るには、移動しないと。でっかい屋敷が目の前にあるので、迂回しないといけません」

北村「周りに人の気配はないのかな」

「すぐそばにはないよ」

日向「見に行こう」

「見に行くとだね、和服姿の子供たちが遊んでいる。コマ回したり、竹馬乗ったり」

北村「見たところ普通の……?」

「うん。すごい無邪気です。見ていると、タイムスリップしたかのような感覚に陥る」

北村「男の子も女の子も?」

「どちらかというと、男の子のほうが多いかな」

山田「服は今風の服?」

「和服。昔風の。古びた。つぎはぎのある」

日向「子供しかいないんだよね?」

「おっ、大人がいたぞ。やはり和服姿の、若い男の人が、腕組みをして子供たちを見ている。かなり若い。おじさんではないです。まだ二十歳に届いているかいないか」

日向「今なら、やあ、と言って出ていっても怪しくないんじゃないだろうか」

山田「いや、充分(笑)」

日向「なにげに、通りがかりのふりをして(笑)」

「やがてその男だけが近くの建物の中に入って、子供たちだけになった」

日向「子供たちだけならいいかもしんない。ごく普通に通りを歩いていく(笑)。そして、『あら、子供たちが♪』という感じで――演技力溢れる作戦を(笑)」

「猿芝居を三人で(笑)」

山田「男優魂を(笑)」

「男優魂を見せた(笑)。君たちの姿を見た途端、子供たちが『きゃーっ!』と蜘蛛の子を散らすように逃げていった」

山田「男優魂散りました(笑)」

「家に入ってバタン、バタン、バタン、と戸を閉め――シーン(笑)。竹馬やコマだけが打ち捨てられて」

北村「寂しーい(笑)」

日向「うちらも、わーって言って、納屋に入ってく?(笑)」

山田「また納屋なんだ」

「しーんとしている。以後、動きはない」

日向「て言うか、ここに何をしに来たかを、もう一回確かめてみようよ」

山田「はい(笑)。えーと、誰かふたり助けなきゃいけないんだよね」

北村「巽君救出部隊。まあ、香奈ちゃんも見つけられれば」

山田「探索しなきゃ」

北村「俺たちでコマを回して、危険じゃないよってことを(笑)」

「猿知恵だなぁ(笑)」

山田「手の上で回したり」

「<コマ>ロール」

日向「……もう、屋敷を訪ねてしまっていいんじゃないだろうか(一同笑)」

「さて、みんなが呆然としていると、後ろのほうからカサッと物音がする」

山田「振り返る」

「振り返ると、小さな人影がサッと隠れる」

日向「じゃあ、こちらもサッと隠れる(笑)。隠れたおす(笑)」

「隠れるんだ。じゃあ、何も起きない」

日向「と、言いつつ、またノコノコ出ていく(笑)。――どこに隠れたの?」

「建物の陰」

日向「逃げも隠れもしないで、――危険なさそうな雰囲気を醸し出す(笑)」

「(笑)じゃ、醸し出して。<信用>(笑)」

日向「これ<信用>なのかな」

山田「身体から漲る自信で」

日向「(コロコロ……)成功」

「えーと、子供がひとり近づいてきた」

山田「醸し出てるな、さすが(笑)」

「『おじさんたち、』――訛りは酷いんですが、敢えて(都合上)標準語で――『おじさんたち、外人さんだろ?』」

山田「外人!?」

「『だって、そんな格好してるもん』」

日向「そうさ、外人さ(笑)」

山田「日本語喋る外人(笑)」

「『昨日も外人さん来たよ』」

日向「へえ。どういう外人さんが来たんだい?」

「『んー。おじさんたちと同じような格好してたよ』」

日向「ふうん。男の人かい女の人かい」

「『男の人だよ。――あ、これ内緒だよ。外人さんとは話しちゃいけないって言われてるんだ』」

日向「うん。それは僕たちも同じだ!(笑)」

「男の子なんですが、パッと見、利発そうな。十歳くらいかな」

日向「ところで、昨日来た男の外人さんはどこへ行ったか、知ってるかい?」

「『うーんとね、あっちのほうに行ったけど』と指差すのは、あの登り坂になっている林のほうだね」

山田「畑のほう?」

「いや、でかい屋敷の裏手の林」

日向「あっちのほうへ歩いていったのかい?」

「『うん。でもね、あっちは入っちゃいけないんだよ』」

日向「ふうん。何があるのかな」

「『判んないけど、長(おさ)が決めたんだぁ』」

日向「長? へえ」

山田「長って、もしかして、あの建物にいるのかなぁ、って指差して訊く」

「『ああ、大屋敷(おおやしき)の長だよ。ここで一番偉いんだぁ』」

日向「もちろん今、お祭りやってるよねぇ?」

「『お祭り? ああ、うん。"あきおくり"のことでしょ?』」

日向「うん。あれって、もう終わったのかい?」

「『いや、まだ始まってはいないよ。まだ準備中だよ。大人のひとたちが』」

日向「いつからやるのかな」

「『さあ、詳しくは僕らは知らないんだ。子供はお祭りに出ちゃいけないって言われてるから』」

山田「どういうことやってるかも見たことないの?」

「『見たことない。子供は絶対見ちゃ駄目なんだって』」

北村「君の家のお父さんも、準備してるのかな?」

「『うーん、だと思うよ』と、ちょっと言葉を濁す。<心理学>ロール」

(コロコロ……)

日向北村「成功」

「えーと、……これは非常に難しいんだけど……君たちが抱いている"お父さん像"と、この子が抱いている"お父さん像"が、会話の端々で微妙に食い違っている感じがする。どこがどうとは言えないんだけど。だからこれはモヤモヤとしたままだね」

日向「ふーん……。もう、いいかな。解放してやろうかな」

山田「ああ、そうだね。あまり一緒にいると、お父さんに怒られちゃうだろうから。じゃ、怒られないうちに早く帰んな、と」

「『うん』たったったった、と帰っていく」

日向「何か飴玉の一個でもあげればよかったかな」

山田「いやいや、まずいまずい(笑)」

日向「……じゃあ林へ、普通に、怪しくなく、歩いていく」

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