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Act.2 宵闇と血液



僕らよそ者には迷路にしか見えないこの得体の知れないジャングルにも、
生き延びていく者たちはちゃんと自分の道を持っている。

― 島田荘司 『数字錠』



「学生に場面は戻ります」

琴音「はい」

「ぐつぐつぐつ(鍋の音)、ああおいちいおいちい、ぺちゃくちゃ……」

琴音「食い終わりました」

都筑「寝るべ寝るべ」

琴音「ここって、村とか建物みたいなのはないんですか?」

「ないです」

琴音「別に何もなくて、ただの空き地が広がっているんだ」

「そうだね、ここは。沼のそばだけ空いています。他はもう、本当に鬱蒼とした森ですね」

琴音「じゃあ、肝だめしとかしようって言ってみたり(笑)。あ、でも、やだな。真っ暗なんだよね、ここ。うーん、ちょっと厭かな」

都筑「懐中電灯で照らして、昆虫を呼び寄せて写真を撮ってみたい」

「誰かと間違えられそうだ(笑)」

都筑「報道写真家じゃないじゃん。昆虫写真家じゃん」

琴音「菜摘ちゃんとふたりで、森のほうに」

都筑「あ、天気は?」

「晴れです」

都筑「星空も見えます?」

「綺麗に見えます」

都筑「とりあえず、そんな風景は無作為にパシャッパシャッとやってます。フィルムだけは山のように持ってきてますから」

琴音「奥には入らないようにして、ちょっとだけ森に入ってみる。菜摘ちゃんとふたりでウロウロ。あ、身鍔くんも連れていこうかな。あんたも来なさいよ」

「じゃあ、身鍔・菜摘・琴音で」

都筑「仲間外れになってしまった。写真なんかひとりで撮っていて」

琴音「あと、岩のような木村くんと、秋原さんが残っているよ。助教授も」

都筑「ハズレが残ったぜ」

琴音「いや、ハズレっていうわけじゃ」

都筑「喋らないし、騙し絵だし、手下風だし」

琴音「一応、こっちが若い軍団なんだ」

都筑「酒は入ってるんですか?」

琴音「背負ってきたんじゃない?」

都筑「いや、背負ってない。車出してるから」

「特に先生や院生は持ってきてないですけど」

都筑「こいつも持ってきてないですね。荷物を増やしたくないということもあるし」

「あくまで先生は仕事がメインですし」

都筑「学生ごときが酒を持ち込めねえだろうな、やっぱり。手下の手下だから」

「呑むのは構いませんけどね」

琴音「そこにいる秋原さんに、ちょっと森のとこまで行ってきまーす、と」

「『迷わないでねー』」

琴音「はーい。焚き火か何かあるんですよね? 離れても判りますよね」

「焚き火というか、ライトがある」

琴音「はーい。行ってきまーす」

都筑「写真撮ってあげたのに。連れてってくれれば」

琴音「都筑くんも行くー?」

都筑「行きまーす♪」

「いってらっしゃい」

都筑「その前に、みんなの写真を一枚」

南田「最期の写真だな(一同笑)」

都筑「何かあったら、ひとりひとり、マジックで消していくんですよ」

「それじゃあ、おふたりさん、<目星>振ってください」

(コロコロ……)

琴音「全然判りません。ぽやーん」

都筑「05!」

「キャンプ地からちょっと外れたところにですね、無口な木村くんがひとりぼーっと立っていまして、」

琴音「可哀想(笑)」

「なんか、しゃがんで足元の茂みを見てみたり、立ち上がって遠くの暗いところを見てみたり、してますね」

都筑「木村ー、行こうぜー、と声をかけてみる」

「『ん? あ、ああ』と、ちょっとびっくり。そして『いや、俺はいいよ』と言って、そのまま」

都筑「そうかー、何やってんの? て訊いてみます」

「『いや、別に』」

都筑「別にぃ? 怪しいなあ」

「と言って、さっさとテントのほうに戻っていきますよ」

琴音「早く来ないと置いていっちゃうよー」

都筑「はーい、行きまーす。――木村のやつがさぁ――と、今のことを言います。あいつ、地面を観察するような変な癖でも持っているの?」

琴音「虫でもいたんじゃないの?」

都筑「ああ、虫好きかぁ。ふーん。へーえ」

「虫好きだらけだな(笑)。それじゃあ菜っちゃんが、『何やってたんだろうねー』なんて言います。
 道は大変歩きづらいです。暗いうえにでこぼこしてますから」

都筑「ライトは持ってきてますよね」

琴音「もちろん持ってますよ」

都筑「いやいや、あなたはいつでもどこでも持っているでしょう。太陽が照っていても」

琴音「振り返ると、ちゃんとテント見えますよね? 常に後ろを振り返りながら歩く」

「さすがに元気いっぱいの菜摘ちゃんは歩くペースが早めですね。ひとりでひょいひょい行っちゃいます」

琴音「待ってー」

都筑「菜っちゃん、ひとりで先に行くと危険だぜー」

「『あ、ごめんごめんー』って言って戻ってくる。『あたし野生児だから』」

琴音「ホントね(笑)」

都筑「今だけ文明人でいて」

琴音「身鍔くん、ほら、遅れないで。身鍔くんはヨロヨロしてそう(笑)」

「『体力には自身がないわけではないのですがねえ』みたいなことを」

都筑「結局ないんじゃん(笑)」

琴音「木とか照らしてみても、別に普通ですか? 変わった木はない?」

「照らしてみると、なんか、木の枝の一本から、古びた細い紐がぶら下がっているのが見えた」

森谷「ぎょ」

琴音「ずーっと視線で辿っていく」

「別に、枝に縛ってあって、30センチぐらい伸びてぶらーっとなっているだけ」

琴音「なんだろうね?」

「結構古いものに見える」

都筑「古い? てことは、ずっとそのままにされていたと」

琴音「紐の下を見てみると」

「別に何もない」

琴音「引っぱってみる」

「ぎりぎり手が届くぐらいの高さでして、引っぱりますけど、別段何も」

琴音「これってもしかして、首吊りの――かなぁ?」

「首吊りにしては、ちょっと細すぎる」

琴音「細いのか」

「枝も細いし紐も細いですね」

琴音「変なの」

都筑「何かの警報装置じゃあるまいな」

琴音「もう引っぱっちゃったから(笑)、ガランガランってどこかで鳴ってるかも」

都筑「変だなぁ、と言いつつ撮っておきます。ちなみにこいつ、ポラロイドカメラと一眼レフの両方持ってます」


(場面転換)


「そのころTVクルーですが、合流できずに夜になってしまった。陽が沈んだ」

森谷「なんだと!」

南田「あんまりブラブラしてもしょうがないんで、ここで夜営をしましょう」

森谷「うん、そうしよう」

「レールを辿っていくと途中に転轍機があったのですが、そのちょっと北あたりの場所にテントを張ることにしました」

森谷「そのうち誰か来るだろ」

南田「そうですね」

森谷「明日には辿り着けるよ、と無計画に全部の缶詰を空けよう(一同笑)」

南田「携帯はつながんないですか?」

「つながらないです」

南田「どうやらもう事件は始まってるようだ(一同笑)」

森谷「くそ、これじゃミユキちゃんにメールを送れねえよ」

琴音「ミユキちゃんって誰やねん」

森谷「彼女らしいです」

都筑「ミユキちゃんのほうからメール来たりして。圏外なのに」

「恐いな。ひとこと“タスケテ”って(笑)」

南田「日記を書いておこう。『寒い。この森に来てからもう一週間も経っている。食料もつきた』(一同笑)」

山形「ブレアだ(笑)」

森谷「そんなふうに、ブレア・ウィッチの真似事とかして遊んでいます(笑)」

都筑「呑気だ」


(場面転換)


「はい、刑事さん」

山形「(愛車の)ジープで行けるところまで行きます」

「でもまあ、途中までですね」

山形「足の悪い私には辛いかもしれない(笑)」

「でも行くしかない」

都筑「だから岩手を連れてきた」

山形「あ、そうか。おんぶしろ!(笑)」

琴音「ええーっ」

山形「冗談冗談」

「森の中をうろつきます。アトランダムにうろつきます(笑)」

山形「あの星に向かって(笑)」

「じゃあ、そういうことで」

山形「ちゃんと磁石見ながら」

「ずーっと真っ直ぐ行くと、川に出ました。ちなみに今は、陽が沈む直前ぐらい」

山形「川?」

「そばに古〜い橋が架かっているのが見える。川の幅自体はそんなに大きくはないですが。せいぜい5メートルくらい」

山形「鳴兎子湖に注ぎ込んでいる川じゃないですよね?」

「そうですね。ここで橋を渡って向こうへ行くか、橋を渡らず川の手前をうろつくか、どちらにします?」

山形「うーむ。岩手君、このへんの出身だっけ?」

「『いーえ』」

山形「どこ出身なんだっけ?」

森谷「岩手県(笑)」

「『僕は長野です』」

山形「右と左どっちが好き?(笑)」

「『右であります』」

山形「じゃ、左に行こう(笑)」

「橋渡るよ」

山形「橋渡る。ひねくれてるなぁ、俺って(笑)」

「とかやってるうちに、夜になりましょう」


(場面転換)


「で、学生に戻ります。夜も更けてきました。うろついているのはテントの周りでしょうね。じゃあ、沼の周りあたりの地面がぬかるんでいることに気づくぐらいかな」

都筑「やっぱり、虫飛んできます? 懐中電灯に」

「飛んできます。蛾がいっぱい」

都筑「山だから、アケビコノハみたいなでけーのが(笑)。翼長22センチぐらいのやつが」

琴音「じゃあ、ウロウロしたら満足して、テントに戻ろう。明日は何をする予定なんですかねぇ?」

「さて皆さん、ひとところのテントに集まってですね、明日からの予定と――」

都筑「これは、教授から下っ端まで、全員ひとつのテントにですか?」

「とりあえず、そうですね。でかいテントがひとつあって、他にも小さなテントをふたつ立てています。
 で、ひとまず集まってぎゅうぎゅう詰めになりまして」

都筑「押しくら饅頭だ」

「助教授が明日の予定をちらほら言うんですが、ここで重要なのは、なぜこの森が魔の森と呼ばれ、地元住民も近づかないのか――」

都筑「うんうん、それを聞かなくちゃ」

「それを言わないと駄目でしたね」

琴音「ここに連れてきてから言うなんて、なんか掟破りだよね(一同笑)」

「『来る前に言ったら、来なくなるかもしれないじゃないか』」

都筑「おいおいおいおい(一同笑)」

琴音「そんなところなんですか、ここって?」

都筑「騙し絵なのは顔だけじゃないな」

「『これは僕独自の調査であって、まだ裏は取れてないんだが、まあ間違いのない仮説だと思っているのだよ』と言う」

都筑「でも単位はくれるんですよね?(笑)」

「先生は資料を見ながら――鞄の中にスクラップブックがあってみたりしますけど――『そもそも、時は大正まで遡るのだよ』」

都筑「ほう」

「『大正十四年、晩春。鳴兎子で、ある事件が起きたのだよ。――その前に、当時、鳴兎子の街がどうなっていたかを話さなきゃいけないのだが』」

森谷「おお、大正浪漫が花咲くわけですね」

都筑「流浪人がいたとか」

「『当時の鳴兎子ってのは、まだ全然発達していなくて、田舎と言うのもおこがましい、ド田舎もド田舎。もちろん村はあったけれども、本当に粗末なもので、山の中にひっそりと、ほとんど隠れ里と化していたかのような、非常に閉鎖された空間だったのだよ。物理的にも精神的にも。
 ――その夜、鳴兎子で火事が起こったのだよ。大変大規模な火事でね』」

都筑「(ボソリ)鳴兎子大火」

「と、そこまで話したときに――みなさん<聞き耳>してください」

(コロコロ……)

琴音都筑「失敗」

「失敗しましたか。それじゃあ、熱く語る浅賀助教授でしたが、突然、奇声を発し――というのは嘘で(一同笑)――ドスッという鈍い音がしました」

琴音「外で?」

「いや、なんか近くみたいだね」

山形「あ、血が噴き出すかもしれない。いきなりSANチェック?」

「で、浅賀助教授が『あれっ? なんだろ、これ』――自分のおなかを見てるね」

琴音「えっ!?」

山形「あ、やばい(笑)」

「何か飛び出している。おなかから」

琴音「後ろから来たってこと?」

「うん、テントの布地を通って何かが」

琴音「きゃーっ!」

山形「唐突に殺人事件が」

琴音「懐中電灯を持って、とりあえずテントから裸足で走りだす」

山形「それってSANチェックじゃないの?」

「うん、助教授は自分の身に起こったことを理解したらしく、あわあわあわと言葉にもならない。みんな、何が起こったのか解らず呆然といった感じ。やがて助教授はぐったりしちゃいました。血がドクドク流れてる。皆さん<正気度>ロール」

琴音「まだ外に走って逃げてないってことですか?」

「逃げる前に(笑)」

南田「<正気度>振る前に逃げる(笑)」

(コロコロ……)

琴音「成功」

都筑「あ、失敗(苦笑)」

「失敗ですか。減少は――1ポイントでいいや」

南田「あんまりショックじゃなかったらしい(笑)」

山形「次々に死んでくから?(笑)」

都筑「騙し絵かもしれない(一同爆笑)」

「では、琴音さんが外に出ました」

琴音「走りだしちゃいます。きゃー!」

「暗い中へ」

琴音「うん、懐中電灯持ってね」

「駆けていった。やったー、はぐれたぞー。6面体一個振ってもらえます?」

琴音「(コロコロ……)2」

「はい、判りました(こっちの方角に走った、と)。それじゃあ琴音さん、<目星>の半分振ってください」

琴音「(コロコロ……)成功だぁ!」

「逃げるとき、視界の隅に、真っ暗な森の中に何かのシルエットを見たような気がした」

琴音「見なかったことにして――」

「テントのそばに何かを見たような気がした」

琴音「見たような気がしたけど何も見ません(笑)。黒かった? 影は」

「黒かった」

琴音「うーん、ちょっとやめておこう」

「そんな巨大じゃないですよ(笑)」

森谷「そんな巨大じゃない(笑)」

山形「やだなあ(笑)」

琴音「でも、あんまり走っていくと、どんどんみんなから離れちゃうよね。じゃあ、立ち止まる。芹澤さーん、とか、身鍔くーん、とか、都筑くーん、とか、言いながら恐る恐る帰っていこう」

「見失ったかもしれないねえ。――その前に、テントの中ですが」

都筑「写真撮っておこうかな」

「菜摘ちゃんが悲鳴をあげた。『っきゃーっ!』と。そして身鍔くんが、あわわあわわとなっている。秋原くんもあわわあわわとなっていて、木村くんは黙ってぼーっと(笑)。
 なんだなんだ! って言い合ってると――なんか、焦げ臭い」

都筑「焦げ臭い」

琴音「♪燃ーえろよ燃えろーよー」

都筑「その前に、刺さったのはなんだったんですかね」

「木の棒。だけど先が尖っている」

琴音「杭だ」

「細長い」

南田「これで教授がヴァンパイアでないことが判りましたね」

都筑「めでたしめでたし」

「めでたくはない。焦げ臭いのですが、どうやらテントに火がついているようですね」

都筑「うーわ」

「『にっ逃げろー』と身鍔くんが言って、みんなが逃げだします」

都筑「先に出させて、次に逃げていきます」

琴音「(笑)先に襲われるんなら、お前やられてくれ」

「わーわーって、蜘蛛の子を散らすようにテントから逃げだした」

南田「なんでこう、バラバラになるんだ」

「NPCたちはバラバラになろうとします(笑)。神の導きなるものによって(笑)」

都筑「待てみんな、離れるな、固まれ! と言ってみますが」

「きーてない」

都筑「ないか。犯人を捜しますね、とりあえず。カメラを持ったままミーティングに参加してたから、フィラッシュ炊きまくり」

「はい、それじゃあねえ、<目星>振ってください」

都筑「(コロコロ……)あー、2足りなかった。失敗」

「それじゃあ判んないですねえ」

都筑「畜生。誰だー! と叫びますけど」

「反応はないですね。テントはよく燃えます」

琴音「戻っていけますか?」

「<ナビゲート>振ってみてください」

琴音「持ってるわけないじゃんよー(笑)。(コロコロ……)全然。こっちだよ、きっと」

「じゃあ、こっちのほうへ行った(笑)。こっちのほうへ行ったら――崖に突き当たった」

琴音「あれ?」

「壁だ壁だ」

森谷「なるほど、森の中の外縁に出てしまったということですか」

琴音「誰かー! と叫びながら、もと来たと思しき方向に向かって歩いていきましょう」

山形「どこか一箇所だけ坂になってて出られるようになってるのかな」

琴音「入ったところだけが凹んでいるんでしょ?」

南田「壁づたいに行けば出られませんか?」

琴音「私ひとりは出られるけど――」

「さて、都筑さんはそのあとどうしましょう」

都筑「やっぱり、火を消すことに努めます。先生も燃えちゃうんで。串焼きになっちゃうんで」

山形「串焼きになっちゃう(笑)」

都筑「焼き騙し絵。――飯を作った関係上、鍋やらバケツやらがあるんで。沼がそばだから。あと飲料水もあれば」

「では、そうやって消化作業をしようとすると、またドスッという、刺さるような音がしますけど」

都筑「ええーっ! おいおいおい」

「自分の足元に何か刺さったよ」

都筑「足元ぉ?」

「うん、危なく自分に刺さるところだった。まるで矢のように削られた木の棒が」

都筑「そしたら当然、走って逃げますね。どっちへ逃げよう」

琴音「みんなバラバラに(笑)」

森谷「ブレア・ウィッチごっこしている間に、大スペクタクルが繰り広げられている(笑)」

琴音「そのうち来るから大丈夫」

森谷「うわ」

都筑「星明かりというか月明かりというか、出てるんですよね」

「月は出てないです」

都筑「とりあえず、遠ざかっていけるだろうなと思った方向に、あまり確信もないまま走っていきますね」

「はい、では1D6振ってみてください」

都筑「(コロコロ……)1です」

「はい」

都筑「おかしい。キーパーがなんか笑っているぞ」

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