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Act.9 MUZZLE
ただ驚くべきは、この時代にまだ無垢な心が残っていたこと。
彼の存在そのものが奇跡に思えます。
Monday・23・Jan・200x 10:00pm
楽園
K「では、山形さんですが、ドアの奥にイチジョウ警部補が入ろうとした途端、中からパン! パン! と銃声が聞こえてきました」
山形「撃ってるよ撃ってるよ(笑)」
K「それっきり、聞こえない」
山形「あ、一応、ライトを向けている」
K「はい、イチジョウさんと一緒に入りました。
――同時に学生さん。ドアを開けて中に入りました」神保「はい。もしかして、そこで撃ち合い? 俺持ってないや、銃(笑)」
K「(平面図を描きながら説明)図で言うところの手前の壁に2枚のドアがあり、奥の中央に1枚ドアがあります。中央のあたりに椅子が倒れていて、そこを向いて1台のカメラがあります」
神保「カメラ? あ、この部屋か!」
K「――と、そんな部屋に、刑事たちと学生たちが、おお、偶然同時に入ってきた(笑)」
〈一同〉「おおーっ!?(ふざけて銃を向け合う)」
K「お互い撃ち合ったらどうしよう(笑)。
――ここは、ある程度の広さと高さのある部屋になっていまして、天井には白色電球がひとつついています。壁、床、扉、天井、すべてに、無数の小さな手形がついています」神保「小さな手形? 厭な感じだ」
K「黒くすすけたような感じで、はっきりと綺麗につけられているわけではなく、指紋まで判るわけではありません。そして、壁の一角にはカメラとパソコンなどの機器が設置されています。さらに、床には大量の薬莢が散らばっています」
安原「薬莢!?」
K「はい。銃の知識がある方なら、7.62ミリ弾だと判ります」
山形「あー、はいはい」
K「さらに、死体がゴロゴロしています」
安原「はあ!?」
K「俯せになっていたり仰向けになっていたりしていますが、どれもボロ切れのようなものにくるまっていて、全身や顔は見えません。でも死体だな、というのは判ります」
安原「死んでる……」
K「山形さんは振らなくていいですが、学生のふたりは〈正気度〉ロールを」
山形「さっき殺したのと同じ?」
K「はい」
安原「(コロコロ……)57。あ、成功だ」
神保「(コロコロ……)成功した。よかった」
K「成功したら減らさなくていいです。死体は数体ありますが、すべて小さく、どうやら子供のようです」
神保「うーわー」
K「そして、奥の扉は開いていまして、その手前に、佇む者がひとり。――ミツバマモル君です。……ところで、山形さんはミツバのこと知ってましたっけ?」
(『妻守山の人喰いの森』で顔を合わせていたかどうか、誰も覚えていない……)
神保「山形さん、あのとき、学生と行動をともにしてなかったでしょう」
山形「て言うか、事件のあとで事情聴取はしているはず。生き残り全員から」
安原「じゃあ、面識はある」
山形「面識はあるけど、覚えているかどうかですよね」
K「もちろん覚えていますよ」
山形「あ、あの顔は! ――て言うか、銃を向けて、動くな! とは言う」
K「その前に、こちらで言うことがあります。ミツバは、恐らく返り血でしょう、血にまみれていて、右手にトカレフ、左手に茶色い無地の紙袋を抱えています。紙袋はスイカ大に膨らんでいまして、大量の血が滲んでいます。隙間からは長い黒髪がはみ出ています」
安原「うおぉ」
K「さらに彼の眼光は、正気の人間のものではなさそうに見えます。彼の足下には、ひとりの女性の死体が。服装と体型からして――ランちゃんではないかと」
神保「遅かったか」
K「首から上がありません。そばには、血まみれのノコギリが落ちています。――というわけで、さらに学生のふたり、〈正気度〉ロール」
安原「糞ーっ、遅かったんか。武器の用意なんかしている場合じゃ――(コロコロ……)げーっ! 失敗だ!」
神保「間に合わなかったのかぁ。(コロコロ……)ああ、04で成功」
K「失敗したら1D3減らしてください」
安原「(コロコロ……)2点減りました」
山形「あ、山形も知ってるよ。家族ぐるみのつきあいだったし」
K「ああ、そうでした。振っておいてください」
山形「(コロコロ……)あ、失敗した。(コロコロ……)1」
K「じゃあ、さらに〈精神分析〉振らないまでも、彼の精神が平常じゃないことは判ります。銃をゆっくりと上げて――安原さんと神保さんの方向に向けます。『お前らか? お前らがやったのか? お前らが傷つけたのか!?』と言ってます。何を言っても聞いてない、耳に入らない状態のようです」
山形「その様子というか狂い方って、ジンコウイチロウに似ていません? だったら、即撃つんですが」
K「どちらかというと、ジンは自信に満ち溢れている感じ」
山形「ミツバは発狂しちゃってる感じ?」
K「発狂というか、恐がって吠えている犬みたいな。涙を流しながら、叫んでいます。――『ランが痛いと泣いている。苦しいと叫んでいる。許さない。俺は許さない。こいつらは俺が殺したけどこいつらじゃないみたいだけどそんなことはどうでも俺がランを護るそのことに変わりはない!』」
安原「ミツバ、落ちつけよ!」
神保「落ちつけようとしても、逆に怒りが湧くかも」
山形「て言うか、お前らなんだ!? 警察だ!」
安原「ええええーっ!?」
K「ミツバは、どっちに銃を向けていいのか判らず混乱しているみたいです。『お前らランを奪いに来たのかランを殺しに来たのかランを連れ戻しに来たのか!?』」
安原「落ちつけってばー!」
神保「お前こそ、ランちゃんをどうした!? って訊いてみます」
K「『俺がランを護るんだ。俺がランを俺のラン俺のラン俺のラン――』」
神保「どこにいるんだ、ランちゃんは? ――短いセンテンスで質問を続けます」
K「『ランは、ランは、俺が護るんだ俺のもとにいるんだ』と言って、どっちに向けていいのか判らないけれど、いずれにせよ手が震えて銃は撃てない感じです。〈精神分析〉振ってください」
山形「持ってねえ。01が出るか。(コロコロ……)03!」
(ほかのふたりも失敗)
K「じゃあ、詳しくは判らないけども、ためらっているな、ということは判りますね。――で、最後のふんぎりがつかないらしく、急にくるりと振り返って、背後で開いていたドアの奥に、サッと走っていった」
安原「追っかけます。――おおい、待てよ!」
K「バタン! とドアが閉じられて、ガチャリ! と鍵がかけられた」
安原「えーっ。ドンドンドン! 開けろぉっ!」
神保「その前に、ランちゃんの首なし死体と思われるものに接近しますけど」
山形「て言うか、どーちーらーにーしーよーおーかーな。安原の首根っこつかんで、――お前らなんだ!? 警察だ俺は!!」
神保「ふざけんな! お前らが本当の警察かどうか判んねえじゃねえか!」
山形「銃を向ける」
安原「首に突きつけられて、オエッってなってます」
山形「だって、こいつ銃持ってるんだもん」
安原「いや、見せてはいないです」
山形「あ、抜いてないんだ?」
K「そうすると、山形さんの背後から、軽く肩を叩く手が」
山形「ああ」
K「『彼らはどうやら事情を知っているようです』」
安原「なんだよ、これ。なんだかよく判んねえよーぉ」
神保「本当に警察なんだろうな、あんたら!? と言います」
K「では、山形さんが凄んでいる横で、イチジョウは穏やかに『警察ですよ』と、警察手帳を開いてみせる。――で、NPCのイチジョウが仕切るのも変ですが、『彼らからゆっくりと事情を伺いたいところではありますが、ただ、逃げていった彼の問題を先に解決する必要がありそうです』」
神保「じゃあ、警察手帳は見せてもらったんで、銃を向けられたのには、むかつきはするんだけど、やつを追わなきゃ、ってことで、行きますよね」
山形「じゃあ、落ちついて、納得してそうだから、銃は下ろす。――なんか、お前ら、知ってそうだな? ――やつらとは関係ないんだな、お前ら!? って言い方」
神保「やつらっていうのは? キョトン」
安原「全然、訳が解らない」
神保「俺たちはただたんに、ツカモリとミツバを連れ戻しに来ただけだ」
安原「ここにいるって聞いたから来たんだよー」
山形「イチジョウのほうを向いて、追うか? と言って、扉を蹴り飛ばして開ける。――木?」
K「鉄です」
山形「うわ、鉄か! ガキン!」
K「ちなみに、こちらの学生ふたりがツカモリとミツバの名を出したことからも、ツカモリランのことは知っているな、ということは刑事にも判るわけで――イチジョウが尋ねます。『貴方たちは、彼らの友達ですか?』」
安原「そうです。同級生です」
K「『なるほど。今は長々と話し合っている暇はなさそうです』――ドアを指して、『では、山形さんどうぞ。鍵開けはお手の物でしょう?』」
山形「(笑)え? 〈鍵開け〉持ってないよぉ。――あ、持ってたよ。忘れてたよ。ごめん(笑)」
安原「悪い警官なんですね」
山形「悪い警官だったんだ。(コロコロ……)ごめん。00です」
K「では、ちょっと山形さんには無理でした、この鍵は」
神保「なんか、使える技能ないかな?」
山形「さっき使った鍵で開かない?」
K「開かない」
山形「開かないか」
安原「畜生、開かねえよー」
神保「〈ギター演奏〉45%とかあるんですが(一同笑)。俺、なんでこんなのに割り振ったんだろ(笑)」
K「〈鍵開け〉って、デフォルトいくつでしたっけ? 01%か。ではイチジョウさんが。(コロコロ……)駄目でした。『これはちょっと開かないようですね』」
神保「どんな鍵なんですか? ドアノブについてるような?」
K「そうですね。普通の鍵ですよ」
神保「ナイフでどうにかなるような代物ではないか。逆に、ナイフでドアノブを取っちゃうってことはできそうですかね?」
K「そうですねえ、もし、そういった行為に成功したいのであれば、やはり〈鍵開け〉を振ってもらう必要がありますね」
神保「じゃあ、01%をとりあえず振って、それからどうするか、ってことですか」
K「01が出れば、針金か何かを借りて、開いたことになります」
神保「やるだけやってみましょう」
安原「(コロコロ……)僕は失敗でした」
神保「(コロコロ……)03。駄目だな」
山形「惜しい」
K「それでは――力ずくで破るしかないですね」
神保「これはやっぱり山形さんかな」
安原「STR勝負ですか? あるいは、鍵穴を銃で撃ち壊すとか。でも金属だったら跳弾しちゃいますよ」
神保「そっか、ドアも全部鉄なんだ」
K「まあ、そんなにもの凄く頑丈そうというわけではないですが」
神保「あ、それから、コンピュータのほうでドアを制御したりしてないかな? ――無理か。これ、ライヴ中継してるだけっぽいもんな。それに、時間ないから調べてもいられないし」
安原「そうですね。とりあえずここを開けて先へ進みたい気はします」
神保「部屋の中に、壊したりできる道具なんか見あたらないんですよね」
K「そうですね。ノコギリがあるぐらいなので。血がベットリの」
神保「いらないいらない(笑)」
安原「じゃあ、蹴り壊すしかないですね」
神保「お巡りさんに任せよう、ここは」
山形「STRは15です」
K「ドアのSTRが18なので――」
安原「協力することはできませんか?」
K「計ふたりまで大丈夫です」
神保「STR13です」
安原「僕は11なので、神保君がやったほうが」
神保「イチジョウさんは?」
K「やりません(笑)」
山形「力仕事はしないんでしょ?」
神保「じゃあ、しょうがない。なんか知らんけど山形とふたりで、旧ザクのようなポーズを取って――」
K「合計STR28でドアに突進。では、90%以下をどちらか代表で振ってください。失敗したら、ふたりとも肩を痛めます(笑)」
神保「(山形を見て)ちょっと、もう、これ以上痛んだらやばいよ(笑)」
山形「行け、90以下」
神保「(コロコロ……)24」
K「どーん、どーん、と何度かぶつかって、やがてドーンとドアをぶち破りました」
山形「よくやった少年!(笑)」
神保「いや、それほどでも」
安原「待てよー、って追いかけます」
K「では、ドアの向こうは短い通路があって、アーチ状の入口があります。で、その先はこうなっていまして――(平面図を描く)」
神保「出たよ。丸いよ。なんか知らないけど、丸いよ(笑)」
安原「え? え?」
山形「あーあ、アリーナに来たよ(笑)」
K「ドーム状になっています」
安原「ラストバトルだから鳩がいます?」
山形「(笑)」
K「左右に、長く巨大な緞帳が下りていまして、奥が見えないようになっています。でも恐らく丸いんだろうな、と思われます」
安原「えっ? 緞帳?」
K「非常に大きい円形ドーム状の空間で、直径約30メートルぐらい。天井には複数の白色電球がついていまして、みんなが通ってきた入口も、対角線上の出口(?)も、アーチ状でドアはありません。
周りはすべてレンガ造りで、そこここに乾いた血膿がこびりついています。特に中央の床には、隙間なくべっとりと。乾いてはいますが。そしてその中央に、ミツバ君がこちらを向いてへたり込んでいますが、紙袋を大事そうにしっかりと抱きかかえています。トカレフもまだ持っています」神保「どっちにしようかな。叫ぶのをためらうか、怒って叫ぶか」
山形「なんかこの展開、あの脹れた人と会ったときと同じような気がする(笑)」
安原「ミツバー、待てーっ!」
神保「トカレフを持っているのは、目に入るのかな?」
K「そうですね」
神保「じゃあ、たぶん、叫ぶのをためらいますね」
K「それでは、どやどやと入っていきますと、彼は観念したようにアルカイックな笑みを浮かべます。『俺はランを護るとそう決めたんだ。命に替えても……』そう言って、またみんなに銃口を向けます。迷いがなく、しっかりと」
山形「銃を置けっ!」
安原「やめろーっ!」
K「撃つかな? と見せかけて、やっぱり撃てない。『ごめんな、ラン。俺にはできないや』と言って、銃口を自分が持っている紙袋に突きつけました」
安原「は? 訳が解らないんで、とりあえず、やめろーっ! なんかよく判んないけど、やめろーっ!」
K「引き金を引きます。パーン! と袋の反対側から血が飛び出てきます。……そしてさらに続けて、自分のこめかみに銃口を当てました」
山形「まるで狂気が伝染するようだ……」
安原「止めに走ります。やめろーっ!」
K「それでは、ミツバとDEX対決をしましょう」
安原「こっちは11です(笑)」
K「こっちは10」
安原「よーっしゃ、こっちのほうがちょっと早いぞ。くそーっ、止めてやる、止めてやるぞ。55%。(コロコロ……)77っ!」
K「間に合わなかった」
安原「はーい」
K「引き金を引くタイミングが一歩早かった」
安原「チッ」
山形「脳味噌が吹き飛びました?」
K「……弾切れでした」
安原「わあっ! と、そのへんに押し倒します」
神保「じゃあ、それに追いつけ追い越せで、神保も走っていきます」
K「ミツバはもう、無抵抗です」
神保「そのまま上に覆い被さって、3人で重なりそう(笑)。何をやってるんだ俺たちは(笑)」
安原「なんかよく判んないけど、やめろーっ!」
山形「周りを警戒します」
神保「紙袋の中身は、やっぱりランちゃんの頭ですか?」
K「見ますか?」
神保「どうしようかな……もう、見なくとも判ってるからなあ……見ないっす」
K「さて、イチジョウはゆっくりと歩いて中央までやってきます」
山形「じゃあ、そのあとについていくような感じかな。――あいつらは、もう気が狂っちゃってるから――」
神保「俺たちもかよ!(一同笑) こら、お巡り!」
山形「この事件の主犯ではないな、という感じで」
神保「あって堪るか!(笑)」
K「では、ミツバ君のことはどうしますか? もう、何も見えてないみたい」
神保「たぶん、叩くと思うんですけど。パンパンパンッ! ダメージボーナス+1D4(笑)」
K「なんかもう、死体みたいに無反応ですね」
神保「いっそこのまま殺そうかと思うくらい、激情が湧きますが、たぶん、言葉をかけても反応がないんですよね? ――でも、何やってんだお前は! てなことを言いながら、ポコポコやります」
K「相変わらず大事そうに紙袋は抱えていますけど、もう、周りのことは見えてない状態ですね。ランとふたりきりの世界に行ってしまったのかもしれない。――いや、ランだけが先に行って、自分が取り残されてしまって無念そうです。やがて、フラフラヨロヨロと立ち上がります」
山形「立ち上がる?」
K「みんなのことは無視して、入口へ向かって行こうとします」
神保「そしたら、両手で襟首つかんで、何やってんだお前はーっ! っていうふうに言いますね」
K「揺さぶると、ガクガクガクと力なく首が揺れるだけです」
安原「そんなもん放せ! ベシッ! とやります」
K「紙袋がコロコロコロ……と入口のほうへ」
神保「あ、行っちゃった(笑)」
K「それを追いかけて、ミツバも入口へ向かいますが、途中でバタリと転んでしまいます」
安原「阿呆! なんのために俺たちはここに来たか解ってんのか、この野郎! ――もう、何言ってんだか判らなくなって、ポカポカ殴る」
K「そうしますと、床に俯せになりながらも紙袋を抱えて、メソメソと泣いてます」
神保「えーと、どうしよう……」
K「と、やっていますと、奥のアーチの向こうから、コツ、コツ、コツ……と足音が近づいてきます」
山形「銃口を向けます」
K「やがて、暗い通路の中から、明かりの下へ、何者かが姿を現しました。純白無地のカッターシャツはフライフロントでボタンが隠れていまして、パンツもシューズも真っ白です。肌の色も白く、髪の毛も白い。瞳も白みがかっています」
安原「はあ?」
K「アルビノって、こんな感じかな、というような。瞳は赤くないですが。――十代半ばの美しい人物ですが、性別はちょっとよく判りませんね。男女どちらとも取れる顔で、声も同様に。――『こんばんは。ようこそ』――この声は、学生ふたりは聞いたことがあります」
神保「ああー」
安原「お前、あのときの! メール送ってきたやつだな!?」
神保「そうだ。マサヤヒカルだ」
安原「マサヤなのかヒカルなのかハッキリしろ!」
K「『私ですか? 私はシラミネキリトです』」
安原「はあ? シラミネキリトって誰だっけ? ああ、あの結社がどうとかいう、あれだ」
神保「シラミネキリトって思い出しますかね、学生は」
安原「web見てるから」
神保「あ、そっか、判らんわけないか」
K「『驚かれましたか? 嘘に決まっています。――私はマサヤヒカル。当結社の管理者にして、シラミネキリトの代理人を務めさせていただいております』と、軽く会釈をします。『私の言葉がシラミネキリトの意志と解釈していただいて結構です。言うなれば、悪意の代理者といったところでしょうか』」
山形「じゃあ、こんにちは。さようなら――って感じで行きたいんですけど」
神保「もう、撃つんだ」
K「喋らせませんか?」
山形「いや、どうしようかな……まあ、聞いておきましょうか」
K「『――さて突然ですが、最も利便性の高い人殺しの道具は、なんだかご存じですか?』」
〈一同〉「…………」
K「『当結社では入会された方全員に、差別なく平等に、トカレフを支給しております。それとドラッグも。いずれも違法ですね。定められた法に背くこと、これが第一歩となります。――拳銃は最大の力です。最高の道具です。あらゆる人間を、瞬時に、本来あるべき姿へと還元せしめる触媒です。すなわち、悪意の権化です』」
〈一同〉「…………」
K「『――さらに話題は変わりますが、皆さん、蠱毒ってご存じですか? 悪趣味な呪いです。――そう、これこそがMuzzle Puzzleの目的。〈マズルパズル計画〉によって、最初のシラミネキリトが生み出されました。彼はその瞠目すべき悪意によって、鳴兎子を震撼させました。世に言う〈ミスト事件〉です。しかし彼はあえなく射殺されました。ツカモリダイノスケという刑事によって。
――ですが、シラミネキリトは死にません。形のない情報を殺すことは不可能でしょう? シラミネキリトは受け継がれる悪意です。それは時代を越え、次の世代へと継承され続けるのです。そう、人間がいる限り。言うなれば今回の事件は、過去の残滓であり残像にすぎません。20年前、すでに始まっていたのですよ。もはや誰にも止めることはできません。永遠に続く循環。終わりのない悪意の連鎖。誰もがシラミネキリトに憧れる。リミッターを解除した、自由な人間の姿です。彼に道理を思考する脳髄は必要ない。真理を区別する瞳も、善悪を嗅ぎわける鼻も。
――ご紹介しましょう。当結社の主な構成員たちです。本来であれば、まだ表に出す時ではありませんが――』」山形「うわ、その緞帳が落ちるのか?」
神保「緞帳か」
K「左右の緞帳の下が、モゾモゾモゾモゾ蠢きます」
安原「うわーっ」
K「幕の下から、たくさんの手が出てきます。子供のような、小さな手が。何十人いるのやら」
安原「じゃあ、ここで拳銃を抜いて、わーっ! となります」
神保「そしたら、それを見てびっくりして、さっきミツバが落としていったトカレフを――あ、弾切れなのか。そっか、じゃあ、持ってもしょうがねえな」
K「では――ゾワッっと出てきました(笑)。全員が、ボロをまとった裸の子供のようですが、バッと顔を上げた途端に、見えてしまいました。体毛のいっさいない子供たちで、眼球もありません。眼窩が真っ黒な空洞になっています」
安原「目がない――」
K「そして、カッと口を開けると、中に鋭い小さな牙がたくさん並んでいます」
安原「うわあ」
K「さらに両手を見せますと、両手の平にも同様の口が!」
安原「うわっ! こいつかっ!?」
神保「あーっ、なるほど、だからか――」
K「では、学生のふたり、〈正気度〉ロールを」
(山形はすでに限界まで減っています。イチジョウは――謎です)
安原「(コロコロ……)30、成功」
神保「(コロコロ……)あー、大丈夫だった」
K「成功したら減らさなくていいです」
安原「うわあ、なんだこれ!」
神保「そうか、悪意と来れば――あれか」
K「『彼らは、シラミネキリトの出来損ないです。悪意だ。悪意の大きさが、勝負の分かれ目なのですよ』と言う。『――異常とは悪か。犯罪とは悪か。殺人とは悪か。反社会とは悪か。――悪を定義するのは人ではありません。それは《神》の役目です。《神》が降り来たる資格、形代としての体質気質、それを我々が勝手に“悪”と呼称しているにすぎないのですよ』」
安原「ほう」
K「『彼らは器ではなかった。彼らに《神》は降りなかった。悪とは憎悪、憎悪とは愛憎、愛憎とは愛。彼らには、それが足りないのです』――とマサヤが言った途端、タイミングよく皆さんの後ろで、ミツバマモルが苦しそうにうめき出しました」
安原「はあ? 振り返りますが――」
神保「もしかして――」
K「『ミツバマモル、彼は優秀な素材です。彼のツカモリランに対する愛は、瞠目すべきものです。彼の情動が、我々に対する悪意となった。あとは、《神》を受け入れるデバイスさえあればよいのですが――彼にはすでにドライバがインストールされているようです。聖典を読む、という行為。それこそが《神》を受け入れる準備となるわけですよ』」
安原「はあ?」
神保「聖典は、ほんの氷山の一角だったはずだ。――口答えはしませんけど、頭の奥で、本当にこいつの言うとおりかな、と思ってます」
安原「何を言ってるんだ、こいつは? ってな顔をしています」
K「プレイヤー向けの情報としては――例のものは1ページでも読めばいいのですよ」
安原「なるほどね」
神保「ああ、そうかそうか」
K「ミツバは叫び声を上げ、やがてすぐに絶叫は最高潮へと達しました。絶叫から咆吼へと変わります。まるで獣のような吼え声です」
安原「おおーう」
K「マサヤヒカルが、『さあ、そろそろよい頃合いのようだ! ハッピーバースデイ! デビルマン! じゃなかった、ミツバマモル!』(一同爆笑)」
安原「ああああああああ〜(棒読み)」
(真面目なシーンでごめんなさい)
K「『ハッピーバースデイ! ミツバマモル! いや、シラミネキリト! ――さあ今度は、貴方たちの悪意を見せてほしい』――と言いまして、ミツバは絶叫『ああああああああーっ!』」
安原「あはああ〜ほわあああ〜」
神保「それ、水木しげるじゃねーか! 永井豪じゃなくて!(笑)」
安原「いやいやいや、本当に(笑)」
K「ミツバが絶叫しながら巨大化していきます」
安原「げええええーっ!」
山形「巨大化!?」
K「びりびりびりっと衣服がすべて破れます。ヨロヨロとよたつきながら、滅茶苦茶に両腕を振り回すと、大きくなりつつある両腕が左右の緞帳に当たり、2枚とも同時にバサリと落ちます。緞帳の向こうには、たくさんの什器が並んでいまして、そこに、無数のトカレフが並んでいます」
安原「はあ!? 頭のおかしい光景だ! 凄いな!(笑)」
K「そしてミツバですが、身体がどんどん大きくなりまして、肉に首が埋もれるように消えていきました」
神保「あーっ、来たよ!」
山形「来たよ! 来たよ! 来たよ!」
K「でかいイチモツが股間でユラユラと揺れつつ、両手の平にでかい裂け目ができ、それらが、人間離れした大きさの口になりました。中には、とても鋭い牙がびっしりと生えています。全身が白熱しています。断じて、この世のものではありません」
安原「この世のものじゃなーい!」
神保「粛々とSANチェックしようか(笑)」
K「リミッターを解除した人間の姿。悪意の権化であります。――というわけで、全員〈正気度〉ロール!」
安原「うーわ、何この化け物。(コロコロ……)とりあえず成功ですが」
神保「(コロコロ……)あ、02で成功した」
山形「(コロコロ……)えーと、発狂しました!(笑)」
神保「コラーッ!」
安原「あー、これでおしまいかーっ!」
(まだ正気度減少ロールしてませんってば)
山形「失敗したら1D100だっけ、これって?」
K「そんなにないです(笑)」
神保「えーと……あっ、思わずルールブックを捲ろうとしていた(笑)」
(ご遠慮ください。いや、別に悪くはないですけどね)
K「成功しても1減らしてください。失敗したら1D20減らしてください」
安原「うげえ」
山形「20面体、ひさしぶりに振るな。山形さん、さよならか。(コロコロ……)13! さようならあ。山形、終わったー!」
安原「ええーっ」
K「不定の狂気。では山形さん、〈アイデア〉ロールをしてください」
山形「(コロコロ……)成功しちゃった(笑)」
安原「これからは、気違いクトゥルフ・ハンターになるしかない(笑)」
K「本能的に、こいつの正体が判ります。とは言っても、マサヤヒカルの演説のとおりなのですが。こいつは、人間に降りた《神》です。言うなれば、我々の概念で言うところの“悪”に降りてくる存在。マサヤヒカルの言うとおり、ずっと受け継がれる存在なのでしょう」
山形「はい……」
K「ここで発狂した人は、特別ルールとして、極限の殺意に取り憑かれます。拳銃でこの《神》を攻撃するさい、命中率が2倍になります」
山形「おおぉーっ」
K「貫通確率も倍になります」
神保「……発煙筒の本数って、キーパーにきちんと報告しておくべきじゃないですかね。ポケットに詰まるだけ詰めてきたんですけど。だから、どれくらいだろう――12本は最低でもあると思うんですけど」
K「じゃあ、1ダースで」
神保「判りました」
K「では――ラストバトルでございます」
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