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Act.5 SAFETY


貴様の点数は心の点数だ。
自分に花を贈れ。
魂の洗濯をしてやるんだ。
モノに点数など存在しない。
雑音に惑わされるな。





ツジギリ・バッティングセンター
Monday・23・Jan・200x 05:00pm
ツジギリ・バッティングセンター

「では、Act.3ではケンにアポイントを取りましたが、翌1月23日の17時頃。山形さんはツジギリ・バッティングセンターに入ってきました」

山形「はい」

「日没という約束でしたが――」

山形「まあ、それより若干前に」

「では、バッティングなどをして時間を潰して、ぼちぼち日没になりましたが、特に情報屋のほうから接触してくる、ということはありません。ベンチのほうにも動きはありません」

山形「じゃあ、ベンチに座ってる」

「では、座る席ですが――言わずもがなでしょうか。ツカモリ警部が座っていたという場所ですね」

山形「はい」

「そこに座っておりますと、やがてフラフラ〜と、冴えない中間管理職風の中年男が――いかにもバッティングセンターで憂さ晴らししてそうな、うだつの上がらない男が――やってきます。ヨレヨレのスーツを着て、安そうなコートを羽織ってます」

山形「はい」

「山形さんは横長のベンチの端に座っているのですが、同じベンチの反対側の端に、その男は腰を下ろしました。目を合わせることもなく」

山形「はいはいはい、端と端ですね。了解です」

「周り――すぐ近くには、誰もいません。遠くでバット振ってる人は何人かいますが。
 男はしばらく黙って遠くを眺めていますが、おもむろに、ぎりぎり届く程度の声で、こう言います。――『ツカモリさん、死んだんだってね。残念だよ』。缶コーヒーを飲みながら、独り言でも呟くように」

山形「…………」

「『ツカモリさんから言われてるよ。俺の身に何かあったら、若いのが来るからよろしく頼む、ってな。――ツカモリさんによろしく頼まれちゃあ、厭とは言えねえからな。だから特別、大3枚でいいよ』(笑)」

山形「(笑)くるくるっと、札を丸めて」

「『下の缶に入れな』と言われる」

山形「下の缶に入れる」

「『まいど。――さて、何から話そうかな。じゃ、まずは、シラミネキリトの出生についてがいいかな』」

山形「ああ、それそれ。オッケーオッケー」

安原「んんん――? (暗号を解きつつも、こちらの会話が気になる様子)

「『シラミネキリトは――妻守山の“魔の森”で生まれた』」

山形「あ、あそこで生まれたんだ!」

「『知ってるか? 入ったら二度と出られない、人喰いの森なんて呼ばれている擂り鉢状の閉鎖空間だ』」

山形「ああ」

「『ま、あんたなら、厭というほど知ってるか』」

山形「色々聞いてるか?(笑)」

「『だが、生まれたと言っても、お袋の腹の中から出てきたわけじゃない。そこで、シラミネキリトは、ただの凡人から、現在言われる真の意味でのシラミネキリトになったってわけさ。
 だが残念ながら、具体的にそこで何があったのか、俺は知らない。ただ、MPP――Muzzle Puzzle Project――〈マズルパズル計画〉なる言葉が、やつの誕生に深く関わっているらしい』」

山形「えっ? MPP?」

「『そう、MPP、〈マズルパズル計画〉。――いつだったか、2年ぐらい前だったか? 春に、シラミネキリト事件が再発した。キリトを名乗る頭のいかれた野郎――ミヤマコウイチとかいったな』」

山形「ああ、俺がやった」

「『そう、あいつが人を殺して、魔の森で射殺された事件だ。あれはひょっとして、キリトと同化したミヤマコウイチが、古巣に帰っていったのかもしれないなあ』」

山形「ほーう」

「『それはさておき』――なんか、独り語りですな(笑)。何か言葉を挟みます?」

山形「いや、聞いてる」

「『それはさておき、最初のシラミネキリトの話だったな。――今日みたいな、寒い冬の夜だった。シラミネキリトはその名のとおり、霧とともにこの街に現れた。やつは鬼だった。いや、神だったのかもしれない。たったひとりで、いったい何人の命を奪ったのか、よく覚えちゃいない。俺も忘れたいのかもしれないな。
 ――結論だけ言おう。キリトは死んだ。やつは射殺された。当時まだ30代のツカモリさんによって。――だがどうやら、シラミネキリトは死んでいなかった、ということらしいな。ここ最近の事件を見ていると、それがよく判る。個体としてのキリトは確かに死んだが、概念としてのシラミネキリトは――この先も生き続けるぜ。
 いつだったか、ツカモリさんが言ってたよ。――いつか俺もキリトになるんじゃないか、そんな気がする――ってな』」

山形「ほーう」

「黙ってますか?」

山形「はい」

「『では最後に、お前が一番知りたがっていることだ。これが今日の本題だな。Muzzle Puzzleとは何か、知りたいか?』」

山形「ああ」

「『こいつは特別価格だ』」

山形「特別価格なんだ(笑)」

「『大2枚、追加してもらおうか』」

山形「煙草を吸います(笑)。で、消すと同時に入れてあげる」

「『まいど。――Muzzle Puzzleとは何か? ……知らねえ』」

山形「ふっ」

「『ま、確かに知らねえが、かなりやばい集団ってことは確かだ』」

山形「集団」

「『言うなれば、秘密結社ってところか』」

安原「んんうう?」

山形「それがMPPなの?」

「『いや、MPPとはMuzzle Puzzle Project。シラミネキリトが生み出された経緯と関係があるらしい。今のMuzzle Puzzleと直接関係があるかどうかは知らないが、その〈マズルパズル計画〉から名前を取って、Muzzle Puzzleという集団ができたんだろう』」

山形「まるでホムンクルスを作るような話だな」

「『Muzzle Puzzle……やつらの拠点は、“月と手袋”だ。そう呼ばれている。どこか知ってるかい?』」

山形「いや、見当もつかんな」

「それでは、〈知識〉の5分の1か、〈ナビゲーション〉の半分を」

山形「〈知識〉5分の1で。(コロコロ……)ひょー! 00だ」

「まったく聞いたことがない」

山形「判らんなあ、俺には。――って、もう1本煙草を出して火をつける」

「『そこの地図、譲ってやろうか?』」

山形「(笑)」

「『大1枚でいいよ。餞別だ』」

山形「餞別に? 餞別なのか?(笑)」

「もしアレだったら、値切ってもいいですよ?(笑)」

山形「〈値切り〉あったっけ?」

「おお、初めて出るか、〈値切り〉ロール!(笑)」

山形「あっ、35%もある!」

神保「おおっ!」

「人生初の〈値切り〉ロール(笑)」

山形「(コロコロ……)成功したーっ!!」

安原「山形さん、私生活でたくさん使ってるんだ(笑)」

山形「踊っちゃった、思わず(笑)。〈値切り〉に成功チェックですね?」

「チェックですよ、旦那」

(半ば無理矢理ですが、初めて〈値切り〉ロールするところ見たかもしれない。僕の記憶違いかもしれませんが)

山形「これから長いつきあいなんだ。そんなに財布をいじめないでくれよ(笑)」

「『そうだな、悪かった、悪かった。こいつは本当に餞別だ。ただでやるよ。――じゃ、またな』――と言って立ち上がります。そして、立ち上がりぎわに、ベンチの板と板の隙間に紙切れを1枚さっと差しこんで、ベンチの後ろに廻って山形さんの背後から下の缶の中身を回収して、立ち去っていきました。1度も振り返ることなく」

山形「じゃ、それを取る」 月と手袋

「見慣れた鳴兎子の地図なのですが、何ページにも分かれた詳細なタウンマップありますよね? あれの1ページが破って差しこんでありました。鳴虎門めいこもんの地図で、ある建物に印がつけてあって、“月と手袋”って書いてある(右図参照→)

山形「は?」

「さっきも言ってたけれど、Muzzle Puzzleの拠点は“月と手袋”と呼ばれているらしい」

山形「行ってみますか! じゃ、こうやって銃の中身を確認して(グロックのスライドを引いたりする)

「ちなみに、弾は全部補給してある?」

山形「補給してあります、はい」

「予備マガジンって、持ってます?」

山形「持ってます。ひとつだけ」

安原「うわ」

「じゃあ、行きますね?」

山形「はい」

「乗りこんで行きます(笑)」

山形「ホルスターにマガジン入れる場所あるから。――あ、もう1本持っていってもいいですか?」

「うーん……」

山形「それはやめといたほうがいい?」

「予備マガジンは0か1にしてください」

山形「じゃ、1で」

「はい、では鳴虎門へ。“月と手袋”と呼ばれる場所へ向かいましたー」

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