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Act.3 BARREL


特にその手順や方法が違うってだけで、理念で語っちゃいけねえな。
格好つけたって、おまえは人殺しだ。
許されることのない犯罪者だ。





鳴兎子警察署
Saturday・14・Jan・200x 10:00am
鳴兎子警察署 捜査課

「時間は戻ります。1月14日土曜日。例の事件から一夜明け――」

山形「どうして死んじゃったんだよー!(笑)」

「――と、ショックも冷めやらぬところですが、報告です」

山形「はい」

「被疑者――というか殺人犯の名前は刃宏一郎ジンコウイチロウ、23歳。被害者は法脇千夏ノリワキチナツ、22歳。ふたりは恋人同士でした」

安原「は? ――知り合いの犯行ってことですか」

「そうですね。特につきあいに問題があったわけではなく、仲のよいカップルだったらしいです。ちなみに、事件を通報してきたのは、ジンコウイチロウ本人だそうです」

山形「は?」

安原「彼女を殺しちゃったんです、みたいな?」

「そういう殊勝な態度ではなかったそうです」

安原「はーん」

「まるで他人事のように。特に自分がやったとは言わなかったみたい。
 ……と、いったようなことを鳴兎子署にて報告受けるわけです。もちろん県警も来ますよー」

山形「うん」

「で、それからわずか1時間後。――鳴兎子署には、山形さんの同僚と言いますか、同じ捜査課に一条イチジョウという警部補がいます」

山形「はい(笑)」

「ひと言で言うと、能面オールバック」

神保「出た(笑)」

「沈着で冷徹な切れ者ではあります」

『妻守山の人喰いの森』にも登場しています)

「声を荒げるようなことは一度もないのだけれど、部下からは畏れられています。山形さんの対極にいるような人です。
 ――その人が山形さんをつかまえて、『捜査、中止になったようですよ』」

山形「マジで?」

「『ええ、マジです』」

山形「あの名前(シラミネキリト)を聞くと、みんなビビるんですね、ここの連中は――みたいなことを、ポロッと言っとく」

「『それはどうか判りませんが――ともかく、すべて県警が引き継ぐそうです。我々は何もしなくてよいとのお達しですから、何もしないことにしましょう』」

山形「(笑)判らなければいいんですよね、判らなければ(笑)」

「『もちろん、個人的に嗅ぎ廻りたいのでしたら、通常の業務に影響が出ない範囲であれば、私には山形さんにどうこう言う権利はありませんから』」

神保「はっきり言うなあ(笑)」

「『私も、似たようなことをさせていただく予定ですので――』」

神保「あ、かっこいい。かっこいいなイチジョウさん」

「『ただ、ひと言ご忠告申し上げますと、山形さん、この事件には下手に首を突っこまないほうがいいでしょう。命に関わりますよ』」

安原「何か知ってるのかなぁ?」

山形「前回も生き残りまして(笑)」

「『そうですね。まさか生き残るとは』と、冗談なのか本気なのかよく判らない口調で言います」

神保「やつがキリトなんだ、きっと」

「『素人は手を出さないほうがいい。後悔しますよ』」

神保「プロ同士なんじゃあ(笑)」

安原「別のプロなんじゃないですか?」

「じゃあ、山形さん、〈アイデア〉振ってください」

山形「(コロコロ……)成功」

「なーんか、山形さんが知っているようなことを、この人も知識として持っているんじゃないだろうかということが、言葉の端々から――」

神保「なるほどな、そういうことか」

安原「クトゥルフ・ハンターなのかも」

神保「ひょっとしてね。“探索者”なのかも」

「『ともかく、我々は捜査の任を解かれたわけです』。すべて県警の――本店って言うんですか?(笑) ――そっちに移ったよ、ということを言われます」

安原「県警の捜査本部のほうに引き継がれてうんたらかんたらとか、そんな感じですか」

「で、捜査会議では署長さんから、『――なので、県警の方々の邪魔をしないように』と」

山形「(笑)」

「『くれぐれも、この事件には首を突っこまないようにお願いしますよ』と、山形さんのほうを向いて(一同笑)」

山形「え? なんですか? みたいな顔をしとく(笑)」

「『絶対に駄目ですよ。絶対に駄目ですからね。絶対にやっちゃ駄目ですよ』」

安原「ゴーサインってことか(一同笑)」

「絶対に押すなよ! と同じですね」

山形「解ってます!(笑)」

「ということですけども、さっそく県警の人たちがドヤドヤと入って来まして、ツカモリ警部のデスクとかロッカーとかの中身をすべて回収していってます」

山形「じゃあ、ツカモリ邸へご焼香してきます、と言って、黒いネクタイ締めて出ていきます」

「そうすると、ツカモリ宅もしばらく県警の捜査が入るそうですよ、と注意される」

山形「ああ、判った判った(生返事)」

神保「ツカモリさん、なんかあったら家を調べろって言ってたんだよね」

山形「うん。じゃあ、ツカモリ邸にさっさと行きます」

安原「でも、行っても入れてもらえない――?」

神保「焼香しに来た人間を追い返せないでしょう。弔問客も来るんだし」

「ただ、昨日の今日なのでちょっと難しいです。奥さんも何かと大変でしょうし。明日にならないと駄目ですね。
 とりあえず、明日まで待ってください。で、今日は何かしておきますか?」

山形「県警の様子を窺ってみますか。〈聞き耳〉!」

「どうぞ」

山形「あ、デフォルトしかない(25%)。(コロコロ……)失敗」

「県警の会議を盗み聞きしようとしましたが、何を言っているのか判らないですね」

山形「チッ!」

「『ぅぁぃぉぇぉぁぇぁぃぁあぁぃぉ……』」

神保「お経か!? 読経中なんだ、今」

「『……光るところを狙うのだ……』(一同笑)」

(『ワンダと巨像』より)

「まあ、たいしたことは聞けませんね。デスクやロッカーは綺麗にされて、まるでツカモリが容疑者であるかのような扱いにも見えます。自宅のほうでも、同様に捜索されているらしいですよ。しばらくは入れない雰囲気になっているらしいです」

山形「ほう。まあ、焼香に行くから」

「それぐらいなら大丈夫でしょう。では、翌日、焼香に行きますか?」

山形「うん、そうですね」


ツカモリ邸
Sunday・15・Jan・200x 11:00am
ツカモリ邸

「じゃ、行きました。県警の息のかかった警官が玄関に立ってます。山形さんの顔は割れてますね」

山形「焼香、焼香! 黒いネクタイ指差して(笑)」

神保「数珠ちらつかせれば、黙るしかないでしょ」

「それでは、通してくれますが、中で、県警の警部補が近づいてきて、『焼香だけだろうな?』」

山形「俺はそこまで有名なのか!(笑)」

安原「ひとりで嗅ぎ廻って、ひとりで解決してるから」

「なんてったって、“魔の森”で生き延びたり、前回の数学者の事件でも色々としでかしたり(笑)」

神保「うんうんうん。あったあった」

「では新キャラ登場ですが、ツカモリ警部の奥さん、柄森朱美ツカモリアケミ、55歳。ダイノスケさんの愛妻、現在未亡人。後家さんだ後家さんだー、と興奮してください(一同笑)」

神保「しましょう(笑)」

山形「黒いヴェールはしてないの?」

「してない。和服です。
 山形さんは、ツカモリ警部と家族ぐるみのつきあいをしていて、よくツカモリ邸にお呼ばれして食事をご馳走になったりという仲ではありますんで、もちろん山形さんはアケミさんのことはよく知っていますし、娘のランちゃんのことも知っています」

山形「はい」

「で、アケミさんが出迎えてくれます。しっかりした人なので、気丈にふるまって見せていますけれども」

山形「どうも、このたびは……」

「『主人のためにありがとうございます。主人はいつも山形さんのことを話してくれてましたよ。俺のあとを継ぐのはあいつしかいない、って』」

山形「そんなことを……」

神保「心強いような、心許ないような(笑)」

「ちなみに、ご遺体は司法解剖に廻されているので、まだ帰宅していません。なので、まあ、焼香だけということで」

神保「坊主とかはいたりしないんですか?」

「うん、まだですね。すでに祭壇の準備とかはできていますけど。
 じゃあ、もちろん焼香をおこなってよいですけれども……他に何かしますか?(笑)」

山形「奥さん、私に対してご主人が遺したものがあると思うんですが……」

「〈アイデア〉ロール!(アケミが) (コロコロ……)『心当たりがございません。すみません』」

山形「あの夜、一緒にいまして、渡したいものがある、みたいなことを言ってましたので……」

「『いえ、何も聞いていませんが……』」

山形「えっと、この鍵に見覚えは?」

「鍵はポッケに入れてたんですか?(笑)」

山形「うん、そう(笑)」

「『いえ、知りません』」

山形「判りました。ありがとうございます」

「鍵にはちょっと血がついてますが」

山形「拭いてあります。奥さんに血だらけの鍵見せちゃまずいでしょ(笑)。エヘヘ、あんたの旦那の血だよ、エヘヘ……なんて(一同笑)」

安原「恐い(笑)」

山形「……県警がもう部屋を調べてるんですよね?」

「そうですねー」

山形「なくなっちゃったな」

神保「でも、どうなんだろう。デカがデカの追求の目を逃れるためには、持っていけたり気がついたりしないようなものを遺しといてくれるのかな、という希望をぼんやりと考えたりするんだけど」

山形「探してないところもあったりするんでしょ?」

神保「県警の捜索ごときで容易に見つかりっこないようなものを遺しといてくれないかなあ」

山形「でも、調べ方は尋常じゃないよ、調べるときは。隠すとしたら、奥さんに預けてるとか、隠し扉があるかとか、そういう世界になるよ」

「家宅捜索とは言っても、何かツカモリさんの遺したものを探しているんだろうな、という感じで」

安原「漠然と何かを探してる感じなんですか?」

神保「何を遺してんだか判んないのかもしれない」

「あと、ツカモリさんの部屋を調べているみたいなんですけど、隅から隅まで、というわけではないみたいです」

山形「じゃあ、日記を探すみたいな感じなの?」

「そういう意味では、望みがある感じです」

山形「なるほどね」

(これはPCが知らない情報なのですが……ツカモリが遺しているかもしれない記録――ミスト事件の機密事項等がないかどうかを、県警は探しているわけです。ですので、彼らが調べる箇所は、ツカモリのパソコン、引き出し、その他メモ類等ということになります)

山形「さーて、〈目星〉でも(笑)」

「どこでやりますか? ツカモリさんの部屋には近づけない状態になってますね」

山形「トイレの中でも調べてみるか。タンクを開けたりして。奥さんにも見られたらまずいものかもしれないし」

安原「ビニール袋に書類が入っていたりとか」

山形「だって、家を調べろって言っておいて、奥さんに言ってないし」

「じゃあ、トイレ借りてタンク開けてみますか」

山形「開けてみます」

「特に何もないですねえ」

山形「天井か?(笑)」

「開くようにはなってないですね。で、ドアがドンドンと叩かれる(笑)」

山形「入ってまぁーす!」

「県警の警部補が、『いつまでウンコしてんだ!?』」

山形「静かにウンコさせろ、この野郎!」

「『なんだとコノヤロウ!』――小競り合いが起きました」

(ウンコで小競り合い)

「やっぱり、所轄の人が来て焼香終わったのにすぐ帰らないので、厭な顔されますね」

神保「こ、これは! とか叫んでみるのはどうですか?
 ――ありがとうございました! これが、ダイノスケ先輩が遺してくれた○○ですね! みたいなことを、聞こえよがしにわざわざ言ってから帰るとか(笑)」

「ブーイングが起きれば起きるほど元気が出る山形さん(一同笑)」

神保「一匹狼だ(笑)」

山形「さーて……部屋には行けなさそうだもんねえ……奥さんも知らない、トイレにもない……。
 ――県警が去ってからまた来るか。忍びこんで捕まったら目も当てられないので(笑)」

神保「本当に遺しといてくれたんだったら、急いで見つけなくとも大丈夫でしょう」

「では、ひとまず帰りました」

山形「はい」

「で、県警から許可が出るのは――ツカモリ宅から完全に県警の手が離れるまで日数がかかりまして、ひと通り捜索が終わったあともしばらく入れない日が続きまして、ようやく許可が下りたのは、1月21日」

安原「1週間か」

山形「じゃあ、それまでの間にしたいことがあります。鍵屋さんとかに聞きこみだね、地道に。こういう鍵を使ってるコインロッカーはあるかとか、自分の情報網もあるだろうから、そのへんで、これはどういう鍵なんだろうかっていうのを調べてみたい」

「〈聞きこみ〉ロールってのはないから、そうですね、〈幸運〉で振ってください」

山形「(コロコロ……)ああーっ! 失敗」

「まあ、どこにでもありそうな鍵だね、という結論」

安原「ドアとか開けるような」

「そうですね。大きさからして、普通の家庭や事務所のドアに使うような」

神保「これ、俺が言っちゃっていいのかな? 山形さん、そもそもダイノスケさんと行動をともにしていたとき、寄ったところがあったじゃないですか」

山形「バッティングセンターだ! 行こ(笑)」


ツジギリ・バッティングセンター
Tuesday・17・Jan・200x 04:00pm
ツジギリ・バッティングセンター

「バッティングセンターに行きました。カーン! カコーン!」

山形「事務所で、この鍵って扱ってるー? みたいな」

「事務所のおやじは、『うーん、こりゃあ、うちのロッカーのではないね』。センターの鍵束とかを見ても、『別になくなってるものもないし』」

山形「あー、そうか」

「バッティングセンターの鍵でないということは判りました」

山形「このバッティングセンターのオーナーが情報屋?(笑)」

「それは判りません」

安原「情報屋が誰だかって、判んないですよね」

神保「それに、バッティングセンターにバッティングしに来てる人かもしんないですからね」

安原「必ずしも従業員というわけでもないし」

山形「――そう言えばさ、ツカモリさんって、よくここに来たのかな? と、世間話をそのバッティングセンターの人と」

「『ああ、そうだね。亡くなったっていう刑事さんでしょ? よく来てましたよ』」

山形「誰と一緒にいた?」

「『うーん、そうだね、バッティングはあまりせずに、よくあそこのベンチに座ってたよ』と指差した。外のバッティング場の、ちょっと奥まっている場所にベンチがいくつか並んでるんですが、その一番隅っこのベンチに、よく座っていたそうなんですよ」

山形「一緒によく話していた人とか、いました?」

「『うーん、どうだろうねえ。いつもひとりだったと思うよ? すぐ隣に誰か座っていたとかいうのは、見たことないね』」

山形「はあん。じゃ、ありがと、と言って、そのベンチにちょっと座りに行く」

「言われた場所に座ってみました」

山形「ここで情報屋と会っていたのか――その情報屋は、何か情報握っていなかいのかな?」

神保「(ヒソヒソ)ここで手がかりが手がかりが。ベンチの下とかさ」

山形「いや、俺もそう思ったから座ってみたんだけどさ(笑)。あったりするかな?」

「ベンチの下ですか?」

山形「うん」

神保「メモがあるとか」

「下を覗くと、空き缶が1個置いてあります」

山形「それをちょっと振ってみる」

「ジュースのアルミ缶なのですが、わざわざ缶切りか何かで上蓋が全部くり抜かれている。中身は空っぽです」

山形「はーん。じゃあ、この中に情報屋が情報を入れて受け渡ししてたのか。なるほどねー。
 ――じゃあ、メモで、ツカモリさんの敵を討ちたい、情報をくれ、みたいなことを書いて、そこに入れて、出ていく」

「はい、出ました。では、あとはどうしますか? 21日まで進めていいですか?」

山形「いっちゃっていいです」


鳴兎子警察署
Saturday・21・Jan・200x 08:30am
鳴兎子警察署 捜査課

「では21日になりました。イチジョウ警部補の部下と言うか、よく一緒に動いている刑事で、小紫コムラサキという、大変気が小さく腰の低いのがいます」

山形「(笑)」

「そいつが署内でこっそり近づいてきて、『山形さん、山形さん、あのう、ツカモリさんのお宅、もうフリーですよ、大丈夫ですよ、オッケーですよ。もう、じゃんじゃん行っちゃってください』と」

山形「その情報は、イチジョウが俺にくれたのかな?」

「『え? えっと、それは――』と惚けますが、たぶんイチジョウさんでしょう(笑)」

山形「なるほどね。行けってことかい!(笑) 了解。じゃ、イチジョウにありがとって言っといてくれ」

「『え? え? え? なんのことですか?』」

山形「見え見えなんだよ!(笑)」

「では、また行きますか? ツカモリ宅へ」

山形「はい」


ツカモリ邸
Sameday 09:00am
ツカモリ邸

「さっそく朝早くに行きまして、ツカモリ宅に入ろうとしたところ、玄関ドアが開いて、中から娘さんが顔を出しました」

山形「あ、いるんだ?」

「ええ、21日朝の時点では」

山形「お、ランちゃんおひさしぶりー」

「すると、ちょっと反応はしたけれど、特に目を合わせることもなく、軽く会釈をして、さっと横をすり抜けていきました。
 ――大学へ行くのかな? という感じですが、特に荷物は持っていないです」

山形「じゃあ、もう1回声をかけてみる。――大丈夫? 気を落とさないでー、みたいな」

「すると、ちょっと立ち止まって、目を合わさずに軽く頭を下げて、去っていきます。
 それじゃあ、おうちに入りますか?」

山形「はい」

「そうしましたら、葬式等はひと通り終わったということにしておきましょう」

山形「じゃあ、線香を上げて、奥さんと世間話をして――あのときはあんなことがあって助けられました、みたいなことを――、それから、切り出します。
 ――死ぬ前に、やっぱり、自分に託したいものがあるって言ってたのが、どうも気になってしょうがない。だから、部屋を見せてもらいたい、ということを」

「『もちろんいいですよ』と言ってくれますが、県警の人たちに色々持っていかれちゃったみたいです。『私は機械のことはよく判らないのですが……』」

山形「機械? ノートパソコンか何か?」

「ツカモリダイノスケという男、歳の割には電気機械関係に強く、人並みにパソコンやケータイなどを使いこなしてました」

神保「顔文字も縦横無尽に使いこなして(笑)」

「顔文字は使わない。……で、部屋に入りますと、彼のデスクの上に以前は置いてあったパソコンがなくなっています」

山形「持ってっちゃったのね」

「本体のみないですね。モニタとかプリンタとかスキャナといったデバイスは残されています。ですが、DVD-RとかMOとかは残されていません。
 ――さらに、この部屋一番の特徴ですけど、以前にも山形さんがここに通されてツカモリさんから自慢されたのですが、彼の趣味がたくさん並べてあります。帆船とかプロペラ機とかクラシックカーとかの模型がずらずらーっと。飛行機の模型なんかは、天井から糸でぶら下げてあったりします」

神保「この人の本名、森博嗣っていうんじゃないか?」

山形「さーて、その中を調べるかなー! ――また鍵が出てきたりして(笑)」

「ちなみに、乗り物に比べると数は少なめですが、日本の城や西洋の城といった建物もあります」

山形「じゃあ、まず、吊り下がっているものから――」

「探してください」

山形「〈目星〉(コロコロ……)成功! 来たぁ!」

「あらゆるものを手当たり次第しらみつぶしに調べましたので、非常に時間がかかりました。なんでこんなに模型が多いんだー!」

神保「博嗣め」

「本棚の上にもぎっしりと模型が並べてあって、奥のほうなんかは見えないのですが、その中に埃を被っている模型が1個ありまして、その模型、どこかで見たことがあるような――」

神保「まさか本人の? 藤岡弘、フィギュアみたいな感じの」

安原「ツカモリ宅の模型があるはずです」

「そう、ツカモリ宅の模型」

安原「だからこそ、“家を調べろ”と」

神保「なーるほど」

(最初から「家の模型を探す」などと言ってもらえたら、短時間で発見可能でした。また、〈目星〉に失敗してもOKの予定でした)

山形「それを開けると、どこかの部屋の箇所に“ここ”って書いてあったりして(一同笑)」

「屋根をパカッと開けられるようになっていまして、中には無色透明のケースに入った、MOディスクが1枚」

山形「ゲットだぜ!」

「♪でれれれでれれれ〜。トライフォースを手に入れた(一同笑)」

安原「リンクだリンク。左利きリンク(笑)」

「さあ、どうしましょう」

山形「じゃあ、それを持ち帰ります」

「持ち帰りましたー」

神保「残念ながら何もありませんでした、って奥さんには嘘ついて(笑)」

山形「模型はもとに戻して、奥さんに、そういえば娘さんの様子が、と話しかけます」

「『そうなんですよ』と頷くアケミさん。それはそれは落ちこんでいるとのことです。父親と仲がよかったということは山形さんも知っていますが、『ランは先月誕生日で、主人からプレゼントに大きなぬいぐるみをもらって、とても喜んでいた矢先のことで……。いまだに、幼い娘と若い父親のような関係でした』――ということもあって、かなりのショックだったようです。『大学、休んでもいいよと言ったんですけど、行くって言って――』」

山形「荷物は持ってなかったようですが」

「『え? そうでしたっけ?』」

山形「だから、近くに――コンビニかどこかへ行ったのかと思ったんですが……。
 ――じゃあ、そろそろおいとまします。また、ちょくちょくお線香上げに来ますので」

「『いつでもいらしてくださいね。どうもありがとうございました』」

山形「車に戻って……えーと、山形ってパソコン使えたっけ?(笑)」

神保「使えるでしょう」

「〈コンピューター〉01%ですが、人並みに最低限は使えます」

安原「ファイル開いて見るぐらいは」

「そのくらいはできますね」

山形「じゃあ、それで。駄目だったら、警官誰か引っ張ってきて(笑)。代わりに狂ってもらう(笑)」

「どこのパソコン使います? 家にありますかね?」

山形「メールぐらいはしてると思いますよ」

「ネットとかメールとかをちょこっとやる程度でしょうか。接続方法などは全部プロバイダに聞いて。あるいは無料出張設定頼んで」

神保「俺といい勝負だな」

(実際のところ、〈コンピューター〉技能は、通常のパソコン操作や市販のソフト利用の場合には使いません。初期値の01%あれば、人並みに使いこなせるはずです。ただ、山形は前作でパソコン苦手風キャラでしたので)


山形宅
Sameday 08:00pm
山形宅

「それじゃあ、MOをドライブに入れて――ドライブ持ってます?(笑)」

神保「警察署の備品からパクってきたのがあるでしょう」

山形「それだ!(笑)」

「じゃ、入れますと、たくさんのファイルが入っていました。有用な情報を見つけるため、ファイルの解析や閲覧にどれだけ時間がかかったかの目安として、〈図書館〉ロールをしてみてください」

山形「(コロコロ……)成功」

「はい。では、あまり時間がかからずに閲覧できました。いくつかの情報があるので、順に述べます。これにはハンドアウトがありません(笑)」


ツカモリダイノスケのMO 内容

●〈ミスト事件〉に関する新聞記事や雑誌記事。スキャナで取りこんだ画像ファイル。目新しい情報はないが、報道された情報のほとんどが収められているのではないかと思えるほど充実したデータベース。

●ツカモリの手による〈ミスト事件〉リポート。Word文書。シラミネキリトを射殺したのは自分であり、この事実は家族にも部下にも伏せてあり、一部の上司と同僚のみが知っている。だが最近は半ば公然の秘密と化している。
 事件による殉職警官は9人。ツカモリが危うく10人目になるところだった。一般の犠牲者は、死者14人。重軽傷者25人。

●シラミネキリトが遺したとされている散文詩。Word文書。

●ツカモリの覚書。テキストファイル。
 ……「Muzzle Puzzleに接触が必要」「重々注意すること」

●情報屋“ケン”の連絡先。
 ……携帯電話番号。ツカモリの携帯から番号通知で発信しなければならない。ケンに迷惑をかけないため、ツカモリは自分の携帯に番号登録をしていないし、通話後はすぐに記録を消去するようにしている。



「……といったことが書いてあります。ちなみにツカモリさんの遺品はある程度戻ってきていまして、その中に携帯電話もあるかと思います。通話履歴などは消されているかもしれませんが」

山形「じゃあ、ケンの電話番号は抑えたので、そこからかけようか」

神保「ケータイは、亡くなったということになると、契約止められちゃうのかな?」

安原「解約の手続きをしない限りは大丈夫でしょう」

山形「じゃあ、また明日、奥さんのところに行くか」

「では、明日にしましょう」


ツカモリ邸
Sunday・22・Jan・200x 10:00am
ツカモリ邸

「では翌日。ツカモリ邸に来ました」

山形「じゃあ、何かお土産みたいなものを買って――」

神保「バウムクーヘンでしょう。鳴兎子駅の駅ビル地下の」

(結構美味いと評判らしい)

山形「ランちゃんが好きなようなものを」

「アケミさんが、暗い表情で、開口一番、『ランが戻ってきてないんです――』」

山形「ええっ? どういうことですか? やっぱり昨日、様子がおかしかったからなあ――」

「『やっぱり、捜索願いとか出したほうがいいんでしょうか? 最近、そういうことが多いって聞きますけど……』」

神保「そうか、行方不明者が多発してるんだもんな」

山形「そう、多発してるみたいですが、生活安全課じゃないので(笑)。生活安全課のほうに話を通したほうがいいと思いますが……なんか、この街は事件が多いんで(笑)」

神保「不思議なほど事件が多い(笑)」

「『物騒な世の中になりましたねえ』」

山形「えーと、ご主人の友達と連絡を取りたいんですが、連絡先がご主人のケータイに入っているらしいので、ちょっと貸していただけないでしょうか?」

「では、ツカモリ警部の携帯電話を手に入れた」

山形「ありがとうございます! じゃあ、自分も暇があったらランちゃん捜しますので(笑)。あと、生活安全課の連中はいいやつですから(笑)、遠慮なく相談してください」

「『ありがとうございます』。……さ、携帯電話を手に入れた山形さん、どうしますか?」

山形「ワン切り!(笑)」

「ワン切り?」

山形「着信履歴がないと、連絡してもらえないんじゃないの?」

安原「番号通知でかければ、出てはくれるんじゃ?」

山形「――あ、その前に、バッティングセンターへ行って、缶の中のメモがなくなっているかどうかを確認しておく」


ツジギリ・バッティングセンター
Sameday 01:00pm
ツジギリ・バッティングセンター

「ベンチ下、空き缶の中を見ましたが、メモは残っています」

安原「やっぱり」

山形「無視されてるんだ」

「電話かけますか?」

山形「かけます」

「では、10回ぐらいコール音がしまして、ようやく出ました。ボイスチェンジャーで変えられた声が聞こえます」

神保「女の子ヴァージョンの声ですか? 男の子ヴァージョンの声ですか?」

「うーん、女の子ヴァージョンでしょうか。甲高い音声ですね。――第一声が、『ツカモリさんの亡霊かい?』」

山形「ああ、電話取ってくれてありがとう。あのとき紹介するって言ってた、山形だ」

「『ああ、聞いてるよ。それじゃ、とりあえず、いつもの場所で会おうか。だが――今日は駄目だ。警察じゃないんでね、土日には働かないよ。明日23日、日没直後でどうだ?』」

山形「それでいい。会ってくれるのなら」

「『じゃあな』――切られました」

山形「じゃあ、明日だね」

「日没直後だから、だいたい17時ぐらい」

山形「そのへんまで、ずっと打ってよう。カキーン!」

安原「(笑)足悪いけど、大丈夫なんですかね?」

山形「足悪くても打てるよ。踏ん張れないけど」

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