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Act.10 宇宙的手法
宇宙がある一つの点から始まったとしたら、
最初の宇宙の始まりを特定し、その膨張(発育)の指示を決めた、
神のような存在を認めざるを得ない。― 渡辺浩弐 『モニター上の冒険』
K「彼女は君たちに銃口を向けています」
山田「とりあえず――手を挙げよう」
K「かなり窶(やつ)れた様子の豊田美穂さんですね」
山田「うわあ。――入院していたときの貴女は、こんなんじゃなかったのに――」
K「『やはり貴方たちね。――最近、私のことを嗅ぎ廻っていたのは』」
中村「確かにそうだが、君が心配だったからだ」
K「『心配? 適当なことを言わないでほしいわね』――ちなみに、モニターは一台だけ残して、全部、画面が消えています」
山田「一台というのは、メール用の?」
K「そうだね」
山田「メール用のところを見てみて、自分の出したやつが見えてるかどうか――」
K「遠い。今は入口で、パソコンは奥にあるから」
山田「ああ」
北村「山田も君のことを心配して何回かメールを送っているはずだが、せめて返信を送ってくれてもよかったんじゃないのかい?」
K「『あら、ごめんなさいね。豊田美穂のメールは見てないのよ』」
山田「えっ?」
K「『アヤセマサキのメールのほうに忙しくて』」
山田「……うぅん……」
K「彼女は意外そうな顔をしてるね。『あら、気づいてなかったの? てっきり私は、気づいているものだとばかり思っていたけど。しょうがないわね……』と、彼女は左手で髪を掻き上げて――。
『私がアヤセマサキ。――8月25日以降のね』」北村「――それはいったい、どういうことだ!?」
K「『私が兄の意志を受け継いだの。あれから兄の部屋のMOを調べたら、兄の作ったプログラム"Universe"が見つかって。でもMOに残っていたのは、まだ開発途中のバージョンだったのよ。兄の完成バージョンは恐らく、ハードディスクとともに消滅したんでしょうね。ハードディスクと、モニタと、――兄と一緒に』」
山田「…………」
K「『私はMOに残された手掛かりから、兄の意志を受け継いで、"Universe"を完成させることを誓った』――と言って、ゆっくり立ち上がる。
そして部屋のもう片隅に、布のかけられている何らかのオブジェがあるのですが、彼女はその藤色の薄いヴェールをすっと抜き取る。すると、ひと目でアヤセマサキの作品と解る、直径60センチくらいの球体状の、金属製の物体が台座の上に載っかっていた。
それは、形がないというわけではないけれども、あまりにも入り組んでいるために、目で形状を確認することが不可能なオブジェです。幾つもの半球体と輝く金属とが、長いプラスティックの棒で連結されていて、棒は全部同じ灰色をしているので、どれが近くにあってどれが遠くにあるのか全然判らない。半球体も金属体も棒体も一緒になって、ただ平板な塊のように見えます。その塊を見ていると、君たちは棒の隙間から何者かの輝く目がこちらを見ているような、異様な気配を感じる。しかしよく見つめてみると、棒の間にあるのはただの空間です」山田「うーん――」
K「<正気度>ロール」
(コロコロ……)
山田「うん、失敗したぁ!」
K「失敗したら1D3減らしてください」
山田「(コロコロ……)うーん、2も減ったぁ」
K「モニターの図形を見たことある人ー?」
山田&北村「はーい」
K「非常に似ている」
山田「似てる似てる」
K「モニター上の図形を無理矢理、三次元に表したらこうなるだろうという気がする。
じゃあ、豊田美穂が『これが兄の最期の作品。未完成だけど。――"ユニバース"よ』
まあ、そうだね、例の『ブラックホール』に、どことなく似ていなくもないです」中村「うんうん」
北村「似ているっているのもそうだし、不安な気分になってきたりとか――?」
K「うん。目を逸らしても、視界の端っこでその形が膨らんでいくような錯覚を受ける。ムクムクと大きく――。でも目を戻すと、もとの大きさ。そういうオブジェ」
北村「あれと同じだ――! と呟く」
K「『同じ? ――貴方たちに送った"Universe"は、もう、殆ど完成型と言ってもいいくらいよ。このオブジェとは比べものにならないほどに』」
山田「(ひきつった笑い)」
K「『それでも、まだ未完成ではあったけどね。……でも、いよいよ完成したの。――見せてあげるわ。これが、』」
山田「うわああ! 点けるなぁっ!」
K「『これが、アヤセマサキの最新作"ユニバース"』」
北村「やめろおぉっ!」
K「銃向けてるよ」
北村「動け、ない、けど、止めろぉっ! とは言いたい」
K「では、真っ黒い端末が一台あって、そのモニターをポチッと。ヴォーン、とモニターが点く」
山田「見ない!」
北村「目を逸らす」
K「中村はどうする?」
中村「――まあ、見ないけど――」
北村「いや、俺は思わず見るな」
中村「うん、思わず見るというのも」
山田「それ言われると、思わず見るんだよなぁ(笑)」
(結局、三人とも見てしまいます)
K「モニターのスイッチが入れられると、四角く切り取られた画面の中いっぱいに、あまりにも複雑な《形》が生成されているのが見えた。多種多様な無数の図形が重なり合い、接合され、融合し、これまで目にしたことも想像したこともありえない、究極的であり絶対的な図形を描き出している。――まあ、例の図形ではあるんですが、これがここまで成長するとは、想像の埒外ですな。
その《形》ですが、まるでモニターが点されたことによって途端に生命力を得たかのように、今、じわり、じわり、と、どんどん膨らんでいく。――モニターからはみ出てきました」山田「え? あれ?」
K「恐らく、そのちっぽけなモニター上では《形》を保っていられなくなったのでしょう、次の瞬間、モニター全体が内側にグシャッとひしゃげて、その《形》の中に消えてしまいました。一瞬にして」
山田「あれっ!? なくなった」
K「そうすると、パソコン本体の上に、《形》が浮かんでいる。直径50センチくらい。芸術的なまでに複雑怪奇な輪郭を有している《形》がふわりと浮いて、それが膨張していく。そこにあるのにそこにないような、まるで幻を見ているかのような、しかし確実に実体がある、非ユークリッド幾何学的な、何と言い表していいものかよく判らない《形》です。
――すると豊田美穂が、『今までのバージョンは、モニタからはみ出てしまうと、そしてモニタが消えてしまうと、《形》を保っていられなくなって壊れてしまう未完成品だったけれども、この完成品は見てのとおり、モニタがなくなっても自分で形を保っていることができるの』
――更に膨らむと今度はパソコンに輪郭が触れ、するとパソコン本体が消えた」山田「あっ。うぅぅ、でかくなっていくー」
K「どんどん、どんどん、大きくなっていくよ。形がないというわけではないが、その形はあまりに複雑に入り組んでいるため、目で正確な形状を認識することは不可能です。どこが手前でどこが奥なのか、全く見当がつきません。見れば見るほど不安になり、心が掻き乱されます。
――さて、<正気度>ロール!」
(コロコロ……)
山田「んー、また失敗した。99って何だ!?」
北村「うわっ、失敗したーっ!」
中村「成功」
K「失敗した人、1D10減らして」
(コロコロ……)
山田「う〜〜〜ん、いっちゃいました(不定の狂気)」
北村「かぁ〜」
K「成功した人も1減らして。――じゃあ、正気度1ポイントでも減ったら、<アイデア>ロールしてください」
(コロコロ……)
山田「うん、解んない」
北村「うわぁ、ここに来て92で失敗!」
中村「成功」
K「<アイデア>ロールに成功した人、これがなぜ見ただけで気が狂う《形》なのか、一瞬にして察することができました。もう予想はついているでしょうが、紛れもなくこれは――《宇宙の形》です。我々人類の住む、宇宙の形です。宇宙を外から見た形です。つまり人間の脳の許容量では、とても分析しきれない、そういった《形》です。人間が決して見てはいけない。
――《形》は、尚も成長を続けています。君たちは、人間ごときの知能ではとても把握しきれない《宇宙の形》から、なかなか視線を逸らすことができないでいます」山田「発狂しちゃってるから」
K「恍惚とした表情で見ていてください」
北村「豊田美穂を知覚することはできる?」
K「発狂していないのでしたら(また、正気度を一度に5ポイント以上失っていないのであれば)、正確に物事を把握できていますけど、目を逸らしたくない! という気持ちもある」
北村「あぁ。――銃は相変わらずこっち向けてる?」
K「豊田美穂も恍惚とした表情ですね。銃は持ってはいるけど構えてはいない。興奮した口調で、『うすごす、ぷらむふ、だおろす、あすぐい!』と叫ぶ。独特の発音で、人間には発音できないような、そんな音ですね」
北村「そんな音を発している」
K「うん。『だおろす、だおろす! 来たれ、おお汝視界のヴェールを払いのけ、彼方の実在を見せるものよ!』
すると、まるでその声に反応するかのように、ぐんぐんぐんぐん《形》が大きくなる。まるで意志を有しているかのように」北村「やばい!」
K「明らかにこの"宇宙モデル"には意識が、知性が備わっています。しかも人智を遙かに超越した絶対的な知性、宇宙の知性ですね。そんな果てなき知性を有したこの存在は、間違いなく――《神》と呼べる存在でしょう」
北村「やばい」
K「モニターの中から《神》が生まれてしまいました。――えーっと、それでですね、まるで強大な質量を有したブラックホールであるかのように、その《形》も強大な質量を有しているらしく、もの凄い重力を持っています。部屋にあるものがグングン引き寄せられ、壁がボコッボコッと内側に曲がります。――みんなも引き寄せられているようだ」
山田「うーん、恍惚(笑)」
北村「発狂して恍惚?」
K「恍惚としてますね。もう、拝んでる。俺は宇宙を見てるんだーっ! っていう感じで。そうだね、人類が初めて地球を見たときの数万倍の感動を味わっている。だから発狂している」
北村「やばい。逃げる」
K「見続けている人、更に1ポイント自動的に正気度を減らしてください」
北村「何とかして視線を逸らそうとする」
中村「違うことを想像して」
K「でしたら、<POW×3>%!」
(コロコロ……)
北村&中村「ああ、駄目だぁ!」
山田「ふたりとも、おいしいなぁ」
K「自動的に正気度を1減らしてください。――ちなみに、1時間以内に正気度の20%以上を失うと、自動的に発狂(不定の狂気)しますんで。
――それでは、豊田美穂の手から拳銃が離れ、《神》ダオロスに引き寄せられ、消えました。――ダオロスの輪郭に触れた瞬間、机も消えた。本棚も消えた」北村「後ずさり――する。逃げられない?」
K「そうだねぇ、逃げてもいいよ。でも、重力に抵抗してください」
山田「(笑)」
K「思いっきり引き寄せられていますので、そうだね、STRとSIZの平均値×5%でロールして。吸い込まれるというのではなく、あくまで重力で引き寄せられる感覚です」
中村「(コロコロ……)危ねぇ、02」
山田「脱出!」
K「そうだね、重力ゾーンから脱出できて、一気に外まで出ても構いません」
中村「いいのか、俺ひとりで?(笑)」
北村「(コロコロ……)ハァ、成功!」
K「ダッシュ!」
山田「ああ、行っちまった、ふたりとも」
K「ふたりとも行きましたね。じゃあ、逃げ際に、視界の隅に見えましたが、まだ山田も豊田も巻き込まれてはいません」
北村「うーん……、なんとか、せめて山田は――助けたいな」
K「中から豊田美穂さんの声が――『兄さん、遂に完成したわ! これが宇宙よ! 宇宙の形を具現した《神》ダオロスが、私たちに宇宙の真の姿を見せてくれたのよ!』――興奮した口調で、明らかに狂ってますね」
北村「あの女はもう駄目だ……(笑)」
K「<精神分析>2倍で振ってみて」
北村「(コロコロ……)駄目でした」
K「駄目ですか。じゃあ、そう見なしてしまうなぁ。まあ、狂ってはいるんだけど、どの程度の狂いかは判んない」
北村「――位置関係はどうなってるの?」
K「山田は入口近く、美穂は奥の隅だね。《形》はもう一方の隅を中心にして広がっている。ふたりとも引き寄せられているね。引き寄せられるは膨張するはで(笑)」
北村「うわーぅ!」
K「さあ、どうする!? ――運がよければ美穂も間に合うかもしれないけど、どうする?」
北村「ん〜〜」
中村「助けよう!」
K「あ、戻ってくる?」
中村「戻って助ける」
K「おっ! じゃあ、ぼーっと立ってる北村に『どけっ!』って言って、飛び込んでく?」
中村「うん。とりあえず――美穂ちゃんを先に助ける」
K「それじゃあ、自動的に正気度を1減らして。……全員発狂するんじゃないか、このままだと?」
中村「まだ大丈夫」
K「それでは<DEX×5>を2回だね。まず、無事に辿り着けるかどうかを」
中村「(コロコロ……)大丈夫、成功です」
K「じゃあ、辿り着いて彼女に触れて、彼女無抵抗なので、掴んで戻すためには――STR幾つ?」
中村「STR12」
K「12か。じゃあ(美穂のSIZ11で抵抗して)、55%」
中村「(コロコロ……)ああ、駄目だ!」
山田「うわあ!」
K「モタモタしてる間に、正気度1減らして。もう一回チャレンジできるよ?」
中村「はい。もう一回やります」
北村「ちなみに俺も、山田を助けに行きたいんだけど」
K「じゃあ、正気度1減らして、山田は近くにいるので、DEXロールはいりません」
中村「(コロコロ……)よしっ! 成功」
K「はい、掴んで引き寄せることができるが、帰りの<DEX×5>振って。失敗したら巻き込まれると思って」
中村「巻き込まれると思って――」
K「て言うか、巻き込まれます。失敗したら(笑)」
中村「死ぬということでしょうか? ――まあ、判んないか」
山田「うん、死ぬかどうかは」
K「ここの部屋から消えます」
中村「消えるということだけね。(コロコロ……)0と――9! 危ねぇ!」
<一同>「おおっ!!」
K「なんとか戻った」
中村「脱出した! あとは知らん!」
K「(北村に)こっちはねぇ、STRと山田のSIZで抵抗ロールだから……(北村のSTR:6、山田のSIZ:11)、25%以下」
北村「(コロコロ……)おっしっ! やったぁっ!」
K「じゃあ、引っ張って外に出た」
北村「ダッシュで逃げます」
山田「ズルズルズル……(笑)」
中村「でも――これでは、解決する手だてはないよね」
北村「やばいよな」
中村「《宇宙》はどうしたらいいんだ!?」
K「それでは、"狂人の直感"なるものがルールにあるので、山田、<アイデア>ロール」
山田「(コロコロ……)うーん、失敗」
K「失敗? オッケー。狂っている状態で<アイデア>ロールに失敗すると、突然何かを叫ぶことがある」
山田「ああ、そうか」
K「そうだねぇ……、『メールだ! メールを見なきゃ!』とか言ってる」
山田「(笑)そうそう、メールって言ってただろう? 前から(笑)」
K「『メールを見なきゃ!』と言って、美穂の部屋に戻ろうとする」
北村「何ぃっ!?」
K「でもそんなに力は強くないから、押さえつけることはできる。でも言葉どおりにメール見ようにも、彼女の部屋にパソコンはもう全部ないよ」
中村「じゃあ、隣の部屋に(101)メールを見に行ってみようか」
北村「危ない、危ない(笑)」
K「そうだねぇ、ヒントとしては、過去のメールに何かあるってことで」
中村「ああ、そうか。観測者がいなくなれば、なくなる――ってことか……!」
差出人:ayasemasaki
送信日時:****年8月10日 23:18
宛先:miho-ty@nau-net.ne.jp
件名:cosmic method
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宇宙が、何らかの意志によって知的生物を生み出したのではない。
宇宙を知覚できる生物がいるからこそ、宇宙が存在する。
つまり、観測者不在の宇宙など、存在しえないのだ。
宇宙を消滅させるためには、観測行為を完全に停止すればよい。
観測と定義を放棄したとき、それは同時に宇宙の終焉を意味する。
このことを我々は決して失念すべきではない。
K「ちなみに部屋の外に出たけど、中から、パキパキッとか、あと何かカサカサカサ……という感じの音を立てながら膨張してるね。それに、ばんばん色んなものが吸い込まれるような音や、壁がひしゃげたりする音が聞こえてくるね。
恐らくこのまま放っておくと、もっと大きくなって、全てを吸い込んで、みんなの目に曝されることになるね。」中村「とりあえず、誰の目からも見えないような状態にすればいいのかな」
北村「俺たちも観測しない――?」
中村「俺たちが見なかったら、あとは大丈夫じゃないのか?」
北村「音の聞こえないところまで逃げよう」
中村「うん。とりあえず離れよう、思いっきり」
K「はい、思いっきり離れてください。ふたりを抱えながらになるけど、いいかい? ――それじゃあねぇ、抱えながらだから、またさっきのロールだね。引っ張ってきたときの(STRとSIZの抵抗ロール)。だから55%(中村&美穂)と、25%(北村&山田)か」
山田「うぅ〜。頑張って〜(笑)」
中村「俺は55でいいのかぁ。(コロコロ……)――あれっ?(失敗) 目の錯覚かなぁ」
山田「あれっ? って何だ?(笑)」
北村「(コロコロ……)よっしゃぁっ!!」
山田「おおお!」
K「それはもう、火事場の馬鹿力で抱えて、さっさと行った。――もう音も聞こえない」
北村「うん」
K「では遅れている人、つまづいて転んじゃいました」
中村「あっ、やべっ」
K「美穂さんの身体が上にドサッと乗っかって、あ痛たた。
――それじゃあ、どうしようかなぁ〜。んじゃあ、すぐ後ろで、102号室のドアがなくなった!」中村「何っ!?」
K「ドア自体が重力で吸い寄せられて、パッと消えた。そしてメキッと壁にヒビが入る音がして――《形》が見えてしまう。また1減らして、正気度を。
幸い周りに人はいないが――」山田「あなたたちが――」
K「また逃げるためには55%」
中村「はい、逃げます。逃げるしかないね」
K「一難去ってまた一難ですね。もう、すぐそこまで迫ってるんで、危ないですよ」
中村「またここで消えるかもしれないなぁ(笑)。
――55%じゃん、だって、ねえ? 出るよ。(コロコロ……)5と――6ぅ!?」<一同>「うわぁっ!」
山田「おいしすぎるぅっ!」
K「惜しいなぁ!」
中村「何か、1ポイント使ったら、どうにかならないの?」
山田「命運、命運(笑)」
(これはメガテンでもサイバーパンクでもない!)
K「1違いだから、これで殺すのは忍びないですねぇ――」
山田「もう一回――」
K「もう一回の前に、正気度1減らして」
中村「はぁい。……まだ大丈夫だけど、あと1で発狂」
K「おおー」(見事なゲームバランス!)
山田「どっちにしろ、これがラストだ」
中村「……(手の中で何度もダイスをシェイクしている)……」
山田「――下ろしたら――逃げは自動成功?」
K「ああ、そうだね。彼女を下ろしていけば、走って逃げられます」
中村「それは――見捨てたら?」
K「見捨てたら」
中村「ええ〜っ……(懊悩)」
K「これが最後のロールですから。これに失敗したら、ふたりで消える。もしくはロールをせずにひとりで逃げる。ロールに成功してふたりで逃げる」
中村「そりゃあ、ねえ、そりゃあ、助けなきゃさ」
山田「おお、さすが、スター☆!」
北村「スター☆だもんねぇ」
山田「ぎりぎりまで追い詰められて、ここで逃げられるっていうのが、"スター☆"なんだね、やっぱり」
中村「そりゃあ、助けるよ。助けるよ。(コロコロ……)――ほら、80(笑)」
<一同>「おわ〜っ!」
山田「消えたぁっ!」
K「彼の努力も虚しく、ふたりの姿はダオロスの中に呑み込まれてしまいました。
――さて、ふたりが消えたことにより観測者がゼロとなったので、その瞬間、ダオロスの姿が消えてしまいましたが。――正確には、"ダオロス・モデル"あるいは"人工ダオロス"ですが。
そして辺りは何ごともなかったように静まり返りました。102号室は丸々消えてしまいましたが――球状の空間になって。たぶん、101、103、202にもかなりの被害が出ていることでしょうけれど」山田「隣の人、大丈夫かな」
K「さて、それでは、山田君は――宇宙を見たあまりの感動に、もう、失禁はしてるわな」
山田「目を見開いたまま気絶状態かな」
K「そうだね。――そんな山田君を放っておいて、ほとぼりが冷めた頃に北村君が戻ってみると――。
102号室が完全に消えているんですが、何の拍子かは知りませんけど、102号室の前に、デフォルメされた青いフォルクスワーゲンのミニカーが、ポツンと転がっていました。
床がダオロスによって傾けられていたせいでしょうか、通路に傾斜ができていて、そこをコロコロとゆっくり転がってきて、君の靴にコツンと当たって止まりました」北村「それを拾い上げて…………」
(黙したまま見つめ、溜息を、ひとつ…………)
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