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Act.6 彼女の行方は



自分はキャラクターの思考ルーチンに、フラクタルの高速生成システムを組み込みました。
自然界の生き物の持っている揺らぎ、あるいは一種の気紛れのようなものです。

― 渡辺浩弐 『アンドロメディア』



8月29日(火)――

「それじゃあ次の日。次の日になる前に送ったのかな? ファイルは」

山田北村「うん、送ります」

中村「あ、仕事チェック。(コロコロ……)あ、駄目だ(笑)」

「大丈夫か?」

山田「あ、送る前にパチッと電源入れて、何か模様、やっぱりそこそこに変化してる?」

「うん。かなり大きくなっている」

山田「こんなのが必要なのかぁ、と思いつつ――データを送る」

北村「俺も送る前にさぁ、やっぱりちょっと見てみる」

「モニターを点けると、凄いことになってる。模様が」

北村「おー」

「おおっ、これはっ――<正気度>ロールもんだぜっ!(笑)」

北村「(コロコロ……)やっべぇ――」

「正気度を1D3減らしてください」

北村「やばいやばい」

山田「♪はっきょう、はっきょう♪」

「発狂はしないよ、1D3じゃあ」

北村「(コロコロ……)1」

中村山田「なんだよー(残念)」

山田「ずーっと見続けて、一気に発狂まで(笑)」

北村「いやいやいやいや、これはこれは……。また頑張って目を引き離して、送ります。――ちなみにファンサイトに行ってさ、書き込みとかってないの?」

「ああ、ちょこちょこっとありますね。変な図形が出た、とか。凄い図形が出た、とか。まちまち」

北村「特になんかこう、興奮したようなものは」

「そういうのはないですね。凄く短い、一行だけでちょっと書いてあるような感じ。あんまり書いてる暇なさそうな」

北村「解った。じゃあ、送る」

山田「ちょっと今日は別行動してみようかな。とりあえず家を出て、隣。ピンポン」

「うーん、そうですねえ、返事はない」

山田「ないか。まあ、とりあえず家を出ます。で、アヤセさんのマンションのほうに向かいます。で、管理人さんのところへ行って」

「えー、『あ、こないだの』」

山田「あのあと、妹さんいらっしゃいませんでしたか?」

「『ああ、来てるよ、一回。お友達と一緒に。友達の車で一緒に来て、幾つか荷物運んでいたよ』」

山田「荷物? ――その荷物ってのは、もしかして、うーん、表現しづらいなぁ――」

「なんだろ。『いや、私は中身までは見てないですけど』」

山田「ああ、そっか。……アヤセさん自身はまだ?」

「来てない。帰ってないですね」

山田「あー、すいません。どうも失礼いたしました。――と、帰り間際に、ちょっとふたりのところに寄ろうかな。まず北村のところに」

「着いた」

山田「美穂さんから最近全然連絡来ないんだけれどもさぁ、と」

北村「なんだよ、ノロケ話なら他でやってくれよ」

山田「いや先輩、そういうわけじゃないんですが――。その美穂さんがですね、荷物を運んだっていうことを――」

北村「ほう。それって、アヤセマサキの作品のことか?」

山田「うぅーん、他に運ぶようなものはなかったと思うのですが」

北村「で、何日前?」

山田「あ」

「そうだねぇ、8月の16、17ぐらいかな」

山田「ということは――?」

北村「その日以降、山田は――」

山田「美穂さんに連絡取ってるけど、返答がなし。しかも隣の部屋ノックしても返事がないっていう……。あれ、最後にすれ違ったのは――?」

「いつだっけ?(笑)」

中村「15日だね」

山田「あのときすれ違ってお兄さんなんたらかんたら言ったときは、何にも解りませんって言ってて――でも荷物を運び出している――?」

北村「アヤセマサキの作品をもし運び出していたとしたら――その前に――16か17に、お兄さんからメールが届いたかなんかしたっていうのは――」

山田「ああ、あるのかもしれない。これは話訊いてみないことには判りませんね。
 ――とりあえず、ウチに来てみませんか?」

北村「ああ、じゃあ、行く」

山田「じゃあ、ちょっと連れて、で、今度はスターの家に、いつものように寄って。あれ? 今日は仕事どうだったんだっけ?」

中村「今日はちょっとねぇ、忙しいんだけど、まあ、行こう(一同笑)。仕事のようなものがあるんだけど、まあ、今日はついていってやるよ」

山田「うん、連れていきます(笑)。で、部屋に入る前に、ちょっと外から見て、102号室にはカーテン?」

「はい、カーテン」

山田「何か漏れてたり、いそうな雰囲気は」

「うーん、別に」

山田「ないかぁ。……この建物の管理人さんは?」

「別宅」

山田「ああ、そうか。――とりあえずもう一回部屋をノックしてみようかな」

「返事はない。鍵もかかっている」

北村「(美穂の)パソコンを、何とかハッキングできない?」

山田「あぁ、じゃあ三人で自分の部屋に入って、ハッキング」

「何をですか?」

山田「美穂さんのマシン」

「じゃ、<コンピューター>ロールを」

山田「はい。(コロコロ……)うん、失敗しました(笑)」

「無理です」

中村「そんな簡単にできるわけないじゃん(笑)」

山田「さて困った」


(時は過ぎゆく……)


「ではこの日の夜ですね、アヤセマサキからメールが来る」

山田「おっ」

差出人:ayasemasaki

送信日時:****年8月29日 23:41

宛先:********.***.**.**

件名:cosmic method

---------------------------------------------------------------------

ご協力感謝致します。
皆様のご協力のおかげで、プログラムを改良することができました。
新バージョンです。お試しください。
尚、旧バージョンは破棄してください。

「また"universe"ファイルが添付さてれいる」

山田「ああ、なんで新ファイルなんか送るかなあ。とりあえず、古いのはそれなりに圧縮して、別の拡張子に変えておいて、どっか別のところに保存しておいて、で、新しく入れ直す」

北村「俺もまあ、もとのやつは一応、棄てないで取っておいて、新しく入れ直して、それまでやってたやつは全部纏めてメールに添付しておこう」

「はい」

北村「じゃあ、また起動しましょう」

「はい、してください。――見てる?」

北村山田「見てる」

「(笑)図形を見ているとだねぇ、なんか、もの凄い不安になってくるね。神経を逆撫でされるかのような、人間のちっぽけな頭脳では理解しきれないような、非ユークリッド幾何学的な、捕らえようのない形ですね。どういう形なのかよく解らないのが気持ち悪い。というわけで、ふたりとも<正気度>ロール」

山田「うわーい」

(コロコロ……)

山田北村「成功」

「じゃあ、いいです。なんか、眩暈(めまい)がした程度です」

山田「こういうことだったのかなぁ、と思いながら、ディスプレイの電源は落とします」

北村「またファンサイトで掲示板をちょろちょろ見るけど、まあ、相変わらず?」

「特にない。書き込みは。そんなに頻繁に訪れるようなところでもないしね」

北村「じゃあ、また俺は書き込みしておこう。また凄いのが送られてきましたね、っていうことを。頭とか痛くなんないんですか? みたいなことも」



8月30日(水)――

「さて、次の日になりましたよ。仕事チェックしますか(笑)」

中村「(コロコロ……)あった!」

「忙しい」

中村「忙しい、忙しい」

山田「何?」

中村「今日はねぇ、(コロコロ……)」

「何のダイスだよ、それは(一同笑)」

中村「あぁ、今日はちょっと地方の営業だからなぁ」

山田「ここも地方って言やぁ地方なんだろうけど(笑)。更に地方」

中村「今日は夜まであるんだなぁ」

「さて、何かするかい? おふたりは」

北村「美穂っちの部屋に行きたいのぅ」

山田「中に入りたい」

北村「パソコン見たいのぅ。――帰ってないんだよね? やっぱり」

「そうなんじゃないかなぁ」

山田「いつものようにメールチェック」

「来てないですね」

山田「自宅ノックチェック」

「返事はないですね」

山田「鍵かかっているかどうかチェック(笑)」

「もちろんかかっています」

山田「あんまりしつこいとストーカーと間違われるんだよねぇ」

「もう間違われてる。『こいつストーカーです』って突き出されるよ(笑)」

山田「やばっ。三人でローテーション組もうぜ」

「ストーカー三人組(笑)。"あきれた三人組"ってスポーツ紙に出るよ(笑)」

北村「御用、とか(笑)書かれる」

中村「三人は交替交替でストーカー行為をおこない……(笑)」

「いいから、それは」

山田「うーん、とりあえず私はもう、やることはないです」

「そうこうしているうちに時は過ぎ――」

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