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Act.1 決戦前夜



"宇宙論"とか"進化論"とか、最近この難しい学問の現場でいま、
学者先生たちがもっとも頭を悩ませているテーマも、これと同じようなことだ。
"なぜ、われわれは存在しているのか"という疑問。
宇宙は、地球は、なぜこんなにも我々に都合よくできているのか。
そして、われわれは、なぜこんなにも奇跡的な進化を遂げて、いま、ここにいるのか。

― 渡辺浩弐 『1999年のゲーム・キッズ』



8月11日(金)――

キーパー(以下、K)「はい、それじゃあ、なんとなく始めまーす。時は前回"痾鬼去来"事件から3ヶ月ちょっと後。8月11日、金曜日ということにしておきましょうか。
 ――えーと、山田君と北村君」

北村「はい」

「こちら、共通の趣味をお持ちですね。偶然にも」

北村「あ、そうですね」

山田「いや、違うんだ! そうじゃないんだな(笑)」


(山田は正統派(?)モデラー、北村は美少女フィギュア専門である――というのが彼の主張のようです)


「ふたりとも、明後日を凄く楽しみにしています。待ちに待った8月13日の日曜日。……コミケじゃないですよ(笑)」

北村「うん、解る。なんとなく」

「この鳴兎子(なうね)にですね、鳴兎子市公会堂ってのが都心の中心部にあるんですが、ここでですね、スワップミートが――いやらしい会合じゃないですよ(笑)」

北村「肉の交換か(笑)」

山田「ミート違いだ(笑)」

「……模型交換会なるイベントがおこなわれます。まあ、交換とは言っても、実際に交換する以外にも展示とか販売とか。――そういったマニアが揃うイベントを、非常に楽しみにしています。
 それでですね、どちらかひとり、その主催サークルの会員というかお手伝いというか、役員になって頂きたいんですが。あるいは、おふたりともでもいいですよ。学生なんて暇だから、率先してやるんじゃないかな」

山田「んー、2年だからな、まだお手伝いの下っ端だろうけど、たぶんいるでしょう」

北村「会員にはなっていると思う」

山田「先輩ヅラして来ているクチだな、さては(笑)」

「ちなみに明日土曜日は一日使って会場の準備になりますので。そしてですね、何と言っても今回の目玉が――イベントに世界的に有名なモデラー"アヤセマサキ"という方が特別ゲストとしていらっしゃる予定です」

北村「あぁ、あの人ね」

「鳴兎子市在住の、最近ではジャンクアートばかり創っていますけど、ひと昔前までは車とか飛行機とか――」

北村「美少女とか」

「美少女は別に創ってないですね(笑)」

山田「だから先輩のは違うんですって(笑)」

「そういったモデルを創っていました。最近では鉄屑などから創るジャンクアートで、世界トップクラスと言われている。凄いアーティストですね。――ま、その人が来るんですが、それは置いといて、今日はまだ11日・金曜日です。
 ――では山田君」

山田「はい」

「あなたが暮らしているのは確か、"マンション・ローヤル"という、学生ばかりが住んでいる、」

山田「蜂の巣〜」

「蜂の巣状のマンションでしたね。その101号室です。
 えーと、それでは、あなたはですねぇ、金曜日何しているのかな? ……学生は夏休みですね」

山田「サークルに行って、展示のための準備とかやんなきゃいけないのかな」

「そうですね。モデル創っておいて。自分が展示するやつの最後の仕上げ」

山田「うん、最後の仕上げ。……ああ〜っ! 折るなぁーっ!(笑)」

「(北村に)もしかしたら、同じサークルなんでしょうか?」

山田「大学一緒で、だから先輩ヅラして来てるんだ。でもひとつだけ勘違いしている。(ウチでは)人形は創ってない!」

北村「いや、君が勘違いしているんだ」

山田「あっ! 周りみんな人形創ってるぞ!(笑) 違う、ここは大阪城とかそういうのを創るところなんだー!」

「さて、そんなこんなあって、陽が落ちるくらいかな、山田君が帰宅するとですね、102号室に誰かが引っ越してきているみたいですね。引っ越し屋さんが荷物をえっちらおっちら運んでいますよ」

山田「ああ、せっかく隣いないから、音ガンガン出して色んなの観てたのになぁ(笑)。これから低くしとかないとな。――誰来るんだろう?」

「何だろう、と見ていると――、見覚えのある顔が! プレイヤーは忘れているかもしれないけど。去年の年末、冬、あなたが"ある事件"のときに知り合った――」

山田「ああ、確か……」

「あのとき知り合いになった、療養所に入院していた女子大生、豊田美穂(とよだ みほ)さん。実は彼女が引っ越してきたんですねぇ。偶然ですね、こりゃまた。彼女は決して凄い美人というわけではないですけど、目が細くてスレンダーなので、魅力的です(笑)。
 じゃあ、彼女のほうから君に気づいて、『隣に越してきました豊田です。――あれ? もしかして……以前どこかでお会いしませんでしたっけ?』みたいなことを」


(『闇に用いる力学』参照。長沢史彦たちの体験と重なりますが、「パラレル・ワールド」という便利な言葉を利用して解釈ください。しつこいようですが)


山田「まあ、とりあえず、世間体の挨拶かな」

「世間体(笑)」

山田「あ、これはこれは、と」

「『あ、そうですよね、間違いないですよね。お久しぶりですー』なんて言ってますが。あのときは別に彼女とは――」

山田「何にもなかった(笑)」

「そうですね、うん」

山田「あんまりいい映像が浮かんでこない(笑)。色々他のことの映像がバンバン浮かんできたから」

「そうだね。『初めてのひとり暮らしで不安だったんですけど、隣に山田さんがいらっしゃるんでしたら安心ですね』と」

山田「ああ、うーん、まあ、色々とあるかもしれないけど気をつけてね(笑)」

「『ご迷惑をお掛けするとは思いますけど、よろしくお願いします』なんて言って、『あとでまた改めてご挨拶にお伺いします』と。そのあとは夜にでもタオル持って来ますけどね。『お使いください』なんて。ま、それはそれとして――別にちょっかいかけたりはしないですよね?」

山田「うーん、あまりいい思い出がないらしい(笑)」

「じゃあ、引っ越しの荷物を見ていると、あのときもそうだったけど、パソコン関係――周辺機器とか――が結構充実していそうな気がする」

山田「相変わらず凄いのかぁ」

「ま、それはそれとして……さて、スター☆中村さん(笑)」

中村「はいはい」


(お待たせしました)


「あなたは13日の日曜日、営業が入ってますね」

中村「ほーう。久しぶりの」

「鳴兎子市公会堂でおこなわれる大イベント――」

北村「(((笑)))))」

「――模型交換会の司会です」

中村「ああ、司会かぁ」

「総合司会です。司会と言っても別に、形式張ったプログラムがあるわけではなくて、まあ、ある程度の流れはあるんですけどね、それを色々とアドリブで繋いだりしながら。例えば3時に何々があって4時に何々があって、といった場合、その3時と4時の間は結構暇になったりします」

中村「うん」

「あとはお得意のモノマネを途中に入れて頂ければ、って感じで、マネージャーさんから話が来てる。もちろん断る権利はないですね、事務所に所属している身としては」

中村「まあ、久しぶりの営業だし」

「というわけで、考えておいてくださいね、色々と(笑)。さて――」

山田「あ、出品のほうの手直し、やっていいかな?」

「やっていいよ」

山田「2作品」

「<芸術:クレイアート>技能でできるのは、自分で創作した芸術作品といった感じで、<職工:モデラー>でできるのは、何と言うか、他人の模倣と言ったらおかしいけど、既にあるプラモデルを上手く造ったって感じかな。あまりオリジナリティーを出さずにね」

山田「じゃあ、<クレイアート>は、なんか知らないけど、一回見たことあるような生き物っぽいやつ(笑)」

「<クレイアート>は、そうだね、粘土彫像だからフィギュア系か」

山田「題はなぜか《神》とか書いてある(笑)」

「背中にいっぱい棘が(笑)」

山田「そうそう」


(でも山田君は前回、これを見ていないんですよねぇ、実は。まあ、いいですけど……)


山田「なんか知らないけど、俺のインスピレーションがぁ!」

「ぐらあきとか書いてある(笑)。なんだろう?」

山田「(コロコロ……)ああ、惜しい、29だよ。うーん、神には近づけなかった」

「じゃあ、普通の作品ができた(笑)」

山田「題名に負けてしまったなぁ」

「可もなく不可もなく」

山田「もう一個は、やっぱり王道の大阪城創っておかないと(笑)。我が愛しの――」

「こういうので時間がどんどん潰れていく(笑)」


(敢えてカットはしませんけどね。もちろん伏線でも何でもないですけどね)


山田「(コロコロ……)ああ〜っ! 87なんて(泣)」

「ちょっと失敗」

山田「通天閣になってしまいました(笑)」

「大阪城なのになぜか通天閣風になってしまった」

山田「何でだろう? まあ、いいや。これはこれで作品だぁ」

「前衛芸術だ(笑)」

山田「たぶん解る人には解るんだろう(笑)」

「さて――では他の方々、11日・12日に何か特別なことをやりますか?」

中村「こっちは新ネタの開発を(一同笑)。<芸術:声帯模写>を。――とりゃ!(コロコロ……)24、成功です」

「なんか思いついた」

山田「今度はいけるぞ、というやつができた(笑)」

北村「その交換会ってさ、まあ、色々――」

「コスプレもあるよ」

北村「ああ(笑)、そーゆーのもアリな、そういう方向のフィギュアとかの出品もアリなの?」

「そういうのも。とにかくフィギュア(モデル)全般。低俗なものから高尚なものまで(笑)。メインゲストがもの凄く高尚な人なのは、もしかしたら浮くかもしんないけど(笑)」

北村「――じゃあ、低俗なものを、ちょっと。美少女フィギュアとか」

「あ、そうだ、皆さん、モデラー関係の技能の2倍値か、あるいは<知識>の半分、好きなほう振ってください」

(コロコロ……)

山田「あぁ〜、失敗した」

北村「成功、やったぁ」

中村「はい、駄目」

「成功した人は、アヤセマサキ氏のことをよく知っています。――が、それ以前にアヤセマサキ氏のファンという人はいますかね?」

山田「どういう作品かにもよるな」

「ああ、そっか」

山田「少なくとも、人形創っているやつだったらプイだ(笑)」

北村「!」

「人形は創ってないですね。えーと、ジャンクアート界のカリスマと呼ばれていますね、現在。鉄とかプラスティックとか廃材を使って」

山田「ジャンクアート……」

「ちなみに"アヤセマサキ"はカタカナでいいです。って言うか、カタカナが正確です」

北村「ほーう」

「これがアーティストネームと。最近創っているコンセプトは、"自然界のモデル"――自然界を形として現したというのを創っていますね。更に詳しいコンセプトとしては、"目を使わずに見た自然"らしいね。目で見たまんまではなくて、その奥深くにある、決して目では捉えることができない本当の姿というか、ああ、まさに芸術だ(笑)。そういうものを創っていますね。最近の代表作としては『ガイア』とか『アビス』とか『ムーン』とか。最新作は『ブラックホール』。
 ――結構熱狂的なファンもいるし、あと、そういうのに興味ない人でも、作品をひと目見てすぐに惚れたという人も結構いるみたい。確かに難しく考えると難しくなるけど、パッと見だけで素晴らしい作品ですね」

山田「あんまり――興味ないかもしんない」

「一応、こういうの創る以前には――そうだね、2年くらい前までは、割と一般的なモデラーとして活躍していました」

山田「じゃあ、それなりに知ってるかな」

「そのときの作品は今はかなりの高額で。――まあ、今の作品もだけどね」

山田「あ、じゃあ昔の作品が好きということで」

「なんであんなジャンクアートなんて! と」

山田「そうそう(笑)」

「日本はもとより世界中で評価が高くて、よく海外にも行ってるらしく、家を留守にしていることが多いらしい。現在、鳴兎子在住らしい」

北村「目指す道は違うけど、たぶん結構尊敬してると思う」

「年齢不明。詳しい人は、男性であることくらいは知っているかな。とにかく、作品以外で人と触れあうことをしたくないらしい。ファンとの交流とか、そういうのはやらない。だから今回のゲスト出演というのは本当に凄いことだよ」

山田「そのメインキャスターとして――うわ、責任重大だぞ(笑)」

中村「うーん」

「彼(中村)が最近出演した映画が結構当たって、それで俳優としてちょっと有名になった」

中村「芸人としては、似てないモノマネでやってるからね」

「13日の営業は、ずっと前からスケジュール決まってたから、もしかしたら有名になる前に決まっていたのかもしれない。
 ――さて、11日・金曜日の夜ですが、あるいは12日・土曜日一日中、何か特別なことをする方はいらっしゃいますか?」

北村「サークルの準備とかはもう終わってる?」

「真っ最中だね。12日は、ふたりとも(山田&北村)駆り出される。
 ――中村さん、何かする?」

中村「じゃあ、カツラでも作ってようかな(笑)」

「じゃあ、<職工:カツラ>を振ってください」

中村「営業用のカツラを自分で作る。(コロコロ……)駄目」

「そりゃ、5%じゃあ」

山田「何かできた(笑)」

「ボサボサしたものができた(笑)。こわーい! ってゆーのが(笑)」

山田「《神》だぁ!」

「危ない危ない。えーっと、それじゃあ――(山田に)豊田さんからの引っ越し蕎麦なんかも貰って、」

山田「はーい」


(こうして夜は更けていきました。大丈夫かいな、色んな意味で……)

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