NEXT PAGE

back


OpeningAct. 1Act. 2Act. 3
Act. 4Act. 5Act. 6Act. 7
Act. 8Act. 9Act. 10Ending



Act.7 失踪事件



「人間が一瞬で消えてなくなるんだ。そんな凄い機械を、僕たちは作った。
パソコンさえあれば、僕たちは何だってでき……」
言い終わらないうちに、マサハルは膝を折って倒れ込んだ。
激しく咳き込みながら、銀色のマシンを投げ出す。
「その凄い機械の代償が、きみたちの命だ」

― 渡辺浩弐 『BLACK OUT』



9月5日(火)――

「9月5日、火曜日」

山田「うわー、進んだー」

「また毎日定期的にファイルを送っているとですね、アヤセマサキ氏からのメールが――」

差出人:ayasemasaki

送信日時:****年9月5日 20:05

宛先:********.***.**.**

件名:cosmic method

---------------------------------------------------------------------

ご協力感謝致します。
皆様のご協力のおかげで、プログラムを更に改良することができました。
新バージョンです。お試しください。
尚、旧バージョンは破棄してください。

「どうしましょう」

山田「また同じように、残して入れ替え、見る」

「なんか、格段にもの凄く、凄いことになってるね(笑)」

山田「ふふーん」

「<正気度>ロール」

(コロコロ……)

山田北村「成功」

「成功か……くらくらしてくる。成功しても」

山田「うわー、なんだこりゃと思いながらも、電源消して」

北村「無駄だとは思うけど、またファンサイトに行って、掲示板は見てみる」

「最近書き込み少ないっす」

山田「もう、熱中してるんだ(笑)」

「更に時は流れ――一週間後」



9月12日(火)――

「9月12日、火曜日――」

差出人:ayasemasaki

送信日時:****年9月12日 22:56

宛先:********.***.**.**

件名:cosmic method

---------------------------------------------------------------------

ご協力感謝致します。
皆様のご協力のおかげで、プログラムを更に改良することができました。
新バージョンです。お試しください。
尚、旧バージョンは破棄してください。

「またバージョンがアップしました(笑)。お試しください」

北村「試すさ。そりゃあ、試すさ」

山田「メール来たときに、北村さんのところに電話入れます」

北村「はい、何でしょう」

山田「なんかこのソフト、やばくないっすかぁ?」

北村「うーん、でも、やばそうな感じではあるけれども、やっぱり、うーん、身体に変調をきたすくらい凄い芸術ってことじゃないの?」

山田「なんか、ひとりで見るの恐くなったんですけど」

北村「それはあるかも」

山田「どちらかで見ませんか」

北村「ああ、じゃあ、車せっかくあるんだから、来て」

山田「解りましたぁ」

「スターはどうするの?」

山田「もちろんこっちに寄ってく。アポなしで。今日仕事あるのかな?」

中村「今日の仕事は、(コロコロ……)ある! 仕事中です。今日はテレビ番組の収録です」

山田「おっ、凄い」

「タレントだと、こういう欠点があるね。忙しいという」

山田「ブー、ブー、ブー」

「留守です」

山田「あ、居留守使って。いいや、もう(笑)。んで、北村さんのところに到着」

「はい、到着」

山田「ピンポ〜ン」

北村「おう」

山田「じゃあ、早速」

北村「――見るか」

「はい、肩を組んで見てください(笑)。――じゃあ、見たふたり。えーとですね、図形が、何というか、具体性というか、存在感を持って迫ってくる。モニターの外と内の区別がつかなくなってくるような酩酊感に襲われる。3Dモデルとはいえ、あくまで二次元ですよね、モニター上ですから。なのに三次元に見える」

山田「こう、(画面の脇に)回り込んでみようかな〜」

「<正気度>ロール」

山田「わーい」

(コロコロ……)

山田「うん、よかった」

北村「おう、ぎりぎり」

「成功しても1ポイント減らしてください」

山田「うわうぅっ! これは拙いぞぉ。絶対拙いぃ〜」

北村「そうだね、これはちょっと芸術というよりは、やばいな」

「やばいっすね、これ。どうしますか?」

山田「目を離して、ちょっと横から――」

「<POW×6>ロール振ってください」

(コロコロ……)

山田北村「成功」

「成功したら目を逸らすことができました」

山田北村「うわー。やばいな」

「目は逸らしたけど、どうしますか?」

北村「今回は目を逸らすのに、格段に精神力が要ったって感じなんだよね」

「見続けていたくてしょうがない」

北村「うーん、やばいなぁ」

山田「ちょっと、ディスプレイの真横に来て、先輩、私の動きやばそうだったら電源消してくださいねー、と言って、ふっと見る」

「見た。別に何も見えない」

山田「ああ、よかった。あれ? でも立体に見えたよなぁ」

北村「何となく意図は解る」

山田「画面から出てるわけじゃないみたいですけど――」

北村「これ、向こうにメールを送ることってできるの?」

「一応、アドレスは割れてますよ」

北村「何か送ってみようか。――じゃあ、あれだ。毎回バージョンアップごとに凄いことになっていますけれど、今回は特に凄いですね、ということを書いて送っておこう」

「送った」

山田「じゃあ、ウチに戻って、実行はするけど見ないで、すぐに消しといて、メールをちょっと打つんだけれども――こっちは実は妹さんとお知り合いになっておりますと書いて」

「本名は書く?」

山田「本名書く。で、えーと、――妹さんも最近、お兄様のところから荷物を運び出したらしいんですけれども、ということを書いて。最近全然会えないんですが、というふうな感じで書いて出します」

「はい、出しました」

山田「あとはもう、いつものようにバージョンアップを待ちます」

「うん。それでは――」



9月16日(土)――

「9月16日・土曜日。掲示板を見たら、こんなことになっていた――」




投稿日 9月12日(火)21時49分 投稿者 ムーア

最近、書き込み少ないですね。皆様、いったいどうしちゃったんでしょうか……。
わたしは自分のパソコンが古くてメモリにも容量にも余裕がなく、"協力"しようにもできないと判断し、コズミックメソッドにメルアドを記入しなかったのですが……。
皆様、そちらに夢中なのかしらん?



投稿日 9月14日(木)14時25分 投稿者 盲@管理人

宇宙



投稿日 9月15日(金)19時30分 投稿者 ムーア

>盲様
お久しぶりです。
……どういうことでしょう?



投稿日 9月16日(土)12時11分 投稿者 さみだれ

さっき盲さんにメール送ったのですが、届きませんでした。
何かあったのでしょうか。

>ムーアさん
僕もメルアド書いてません。
協力しようにも、ドリキャスなもので(笑)。



山田「うーん。"宇宙"とは書けるのか。でも"宇宙"って――恐いぞぉ」

「それとですねぇ、毎日細かくニュース・新聞をチェックしている人っていますか?」

中村「あぁ、新聞取ってないよ(笑)」

北村「新聞はひととおり目を通すな」

山田「テレビのニュースは見てる」

「皆さん、<幸運>半分で振ってください」

(コロコロ……)

山田「07」

北村「08」

「じゃあ、成功した人は<アイデア>ロール。これは普通でいいです」

(コロコロ……)

山田「うん、判んねえや(笑)」

北村「成功」

「じゃあ、山田は目にしたけど聞き流した。北村は、これはもしやって思った。――北村君、14、15、16と、この三日間でですね、全国で似たような行方不明事件が発生していることに目をつけた。小さなニュースなんだけど、自宅からいなくなっちゃったっていう届け出が、ちょこちょこと、似たような状況で、全国で発生していますね。何でも、その人たちの共通項は、みんな自分の部屋でパソコンを――インターネットをしているという人たちらしくて、なぜか行方不明になっているときに、一緒にパソコンやモニターも持って行っちゃってるらしい。
 中には、ついさっき部屋にいたのに、ちょっと家族が1分くらい目を離した間にいなくなってたとかいう例もあるらしい。――靴はあるのに」

北村「その事件でさ、ここ鳴兎子市で起こった事件っていうのは――?」

「そうだねぇ、1件」

北村「それはどこで起こったかは判らないかな。詳しい住所は」

「そういうのは判らない。そのへんは伏せられてるね」

北村「じゃ、そのことを一応、山田に連絡しよう」

山田「ああ、そういう事件もありましたけど、それがどうしたんですか? そういうやつらがいるから、パソコンやってると色々疑われるんですよねぇ」

北村「いや、それもそうだけど、パソコンが一緒になくなっていたという状況は、ほら、アヤセマサキの部屋と似たような感じじゃないかなぁ」

山田「そう言われてみると、もしかして……。ちょっと今から、そちら向かいまーす。で、北村さんのところへ」

「行った」

山田「ピンポ〜ン」

北村「居留守(笑)」

山田「ピンポンピンポンピンポン」

中村「あ、今日の仕事(コロコロ……)あった」

「タレントは大変だねぇ」

中村「今日からクランク・イン(一同笑)」

山田「長ぇよ。やべぇ(笑)。――じゃあ、北村さんだけウチに連れてきます。で、ちょっと、隣の部屋もう一回ノックして」

「返事はないですよ」

山田「管理人さんの場所は知っている?」

「家の場所は知っていますよ」

山田「管理人さんのところ行きます」

「ふたりで?」

山田「北村は部屋にいてて」

北村「うん」

「じゃあ、行った」

山田「行って、管理人さーん、すいませーん」

「『はい、なんでしょう』」

山田「えーと、隣に先月引っ越してきた豊田美穂さんですけれども、最近全然見かけないんですけれども――」

「んー、『まあ、夏休みだから帰省してるんじゃないんですか?』(笑)」

山田「ああーっ、そういう話かぁっ!(笑) しまったーっ! ――これは失礼いたしました(笑)。戻っていきます」

「戻っていった」

山田「夏休みだそうですよー」

北村「そういや俺たちも夏休みだったよなぁー(笑)」

山田「どうりで授業全然ないと思ってたよー(笑)」

「さて、スター☆中村ですが、夜は合流できていいですよ」

中村「わーい」

山田「あ、健全な仕事だけなんだ」

「もしくは夜だけとか朝だけとか、その日によってそれは自由に決めていいです。今日は夜だけ合流、とか」

山田「でもクランク・インしちゃったんだよね(笑)」

「そうだ映画は長いなー(笑)」

中村「今日の夜は連絡して、そっちに行けるよーっというような話をしといて、迎えに来てもらおう」

山田「んじゃ、迎えに行きました。で、自分のところ戻ってきて――さて、どうしたものか。あれ以来、バージョンアップは最近はない?」

「まあ、12日が最後で、今16日だからね」

山田「まだかぁ」

「で、最後のバージョンアップ版は、起動させてる状態で、モニターは切りっぱなし?」

山田北村「切りっぱなし」

「OK」

山田「見てみますか?」

北村「いや、なるべく見ないけど、今日からモニター点けておく。でも、その部屋には基本的に入らないようにしておく」

「はい、解りました」

山田「北村さんのところはそういう状態?」

北村「うん。ふた部屋あるから」

「じゃ、モニター点けたときに――(笑)」

山田北村「((((笑))))))」

「モニター点けたときに"見ちゃった"チェックをしてください。何がいいかなぁ――じゃあ、困ったときの<幸運>ロール♪」


(安直なキーパーだ)


北村「(コロコロ……)うん、成功」

「じゃあ、点けてダッシュで見ずに逃げた(笑)」

山田「もちろん隣の部屋から見るんでしょ?(笑)」

「ただ、逃げるとき、視界の隅っこで凄いものが見えたような気がした」

北村「恐わ〜」

山田「ドアは閉めるの?」

北村「閉めるさ、そりゃあ。開けといたら、あまり意味がない(笑)」

「えーと、今、北村の家ですね。その隣の部屋で、みんな話している、と。三人で」

山田「うん」

北村「あと、スター☆中村に、凄い図形があるんだよ、って(笑)」

中村「今までの話は全部聞いてるから、そりゃ警戒する。見ない」

北村「いや、一度見といたほうがいいんじゃないかな(笑)」

中村「そんな凄いものを見るわけがない」

北村「芸の肥やしになるかもよ」

山田「おいしいかもよ?(一同笑)」

「観客もカメラもないのに(笑)」

中村「何ぃ〜!?」

北村「でも反応する(笑)」

「"おいしい"という言葉に弱いんだ(笑)」

中村「そんなの見るわけないじゃん、と言いながらも――部屋のほうに近づいていく(一同笑)」

「じゃあ、部屋のドアを開けるんだね?」

山田「だろうね。開けないと」

「で、開けようとするとね、隣の部屋で、メキッ、メキメキッ、ばひゅーん! という音がした」

山田「ばひゅーん!?」

「それっきり静かになった」

山田「? ちょっとこれは、開けないとしょうがないんじゃないかな」

中村「開ける」

「開けた。――えーと、電気は消してたんだね?」

山田「真っ暗?」

「まあ、真っ暗ですけど。――あれ? パソコンここになかたっけ?」

北村「えっ!?」

山田「明かり点けてみましょう」

「蛍光灯ですけど、割れています」

山田「ありゃ」

北村「じゃあ、懐中電灯で部屋をよく見てみる」

「パソコン本体、モニター、ともに消えてます。なくなってます」

山田「やっちゃったぁ」

北村「机の上に置いてあると思うんだけど、机は別に――」

「机自体はそうですね。別段なんとも」

中村「電源のケーブルはどうでしょう?」

「途中で――すっぱり切れていますね」

北村「壁は――?」

「<アイデア>ロール」

(コロコロ……)

<一同>「成功」

「部屋全体の壁、天井、床がですね、内側にやや曲がっているような気がする。――あと、物の位置が多少ずれているような気もする。部屋に置いてあるもの全ての位置が。多少、内側に移動しているような――」

北村「気味悪いな」

「そうですね、これはもの凄く気味が悪いので、<正気度>ロール振ってください」

中村「僕はでも、空間がねじ曲がっているという判断をした(一同笑)。言い聞かせた」

「<正気度>ロール。尚更(一同笑)」

(コロコロ……)

山田「やっちゃいました」

中村「駄目」

「失敗した人、1D3減らしてください」

(コロコロ……)

山田「1点減らします」

中村「2点だ」

「さて、パソコン一台損したね」

北村「パソコンはまあ、買い換えりゃあいいことだ」

山田「部屋が湾曲している(笑)。敷金礼金ゼロですよ」

北村「大家に何て言おう」

山田「建て付け悪いっすねぇ、ここ(笑)」

中村「……そのディスプレイを点けてから、何分後ぐらいかな?」

「そうですね、点けてから15分くらいかな」

山田「……うーん、恐いなぁ」

中村「うーん、うーん……」

山田「ちょっと、面白い使い方を思いついてしまったんだけど、やっていいのかな」

「なんだろう。全然思いつかないや」

北村「んんぅ?」

山田「今はまだできない。入れ直さなきゃいけないから、ノートパソコンのほうに」

「――さて、どうしますか、今晩は?」

山田「とりあえず、ウチのほうはまだ動きっぱなしだけども――」

北村「掲示板のほうに行って、新しく書き込みはないかな?」

「あれからは特にないですよ」

北村「じゃあ、掲示板に書き込んどこう。今あったことを全て」

「はい。書いておいてください」

中村「一応つけ足して、警告みたいなことをしておこう。危険だということを訴えかけておこう」

山田「本人にも書いておいたほうがいいのかな」

北村「あ、そうだね。本人にも出しておこう、メールを。起こった出来事を。――芸術とはいえ、人を危険に曝していいものでしょうか、と」

山田「とりあえず美穂さんにも出しておこうか。関係ないかもしれませんが、と」

「では、いいですか?」

中村「いやぁ、まだやれることあるでしょう。――ひとり犠牲になればさぁ、済むことじゃないかな(笑)」

北村「済むの!?」

中村「事件解決(笑)。ま、俺はやらないけど」

山田「ウチの点いてるパソコンのほうに行きますか? 見ませんか?」

北村「見る気はないけど(笑)」

山田「うーん、ディスプレイ点けて、ばひゅーん! ってのは――かなり危険だけど」

北村「まあ、行くんだったら行くよ」

山田「とりあえずウチに。――スターは?」

中村「ま、行こう」

「はい、行った」

NEXT PAGE

back


OpeningAct. 1Act. 2Act. 3
Act. 4Act. 5Act. 6Act. 7
Act. 8Act. 9Act. 10Ending