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Act.8 バージョンアップ



学問というものは大自然や世の中を把握して、説明するためのものだ。
できるだけシンプルな理論で、できるだけ多くの現象を説明してしまえる理論が、
より優れた理論ということになる。
宇宙の仕組みをほんの1行の数式に入れ込むこと……
多くの学者たちがトライしているのはまさにこれである。

― 渡辺浩弐 『モニター上の冒険』



9月17日(日)――

「もう日付変わって17日です」

山田「ああ、変わっちゃった」

「て言うか、もう大学始まってない?」

山田「あれ?」

「ま、今日は日曜だから明日からか、大学は(笑)」

北村「でもなんとなくダラダラと行かない(笑)」

「さて、山田宅で何をする?」

山田「ディスプレイ点けましょうか」

中村「点けるんだったら出て行くぞ、俺は」

北村「点けてもいいけど――」

山田「出るんでしょ?」

北村「出ていたほうがいいと思うけど。山田は、部屋の中にいるつもりなのか?」

中村「パソコンと一緒に旅立ってくれ」

山田「うーん、いなくなった人たちってがどこにいるかっていうのを――」

中村「必ずしも死んでいるとは限らないから――。うーん、インターネットでこういう現象に似た事件を検索してみる」

「じゃ、<図書館>ロール。<コンピューター>でもいいけど」

中村「<図書館>で調べる」

山田「私も<図書館>で」

(コロコロ……)

中村「駄目だった」

山田「成功」

「えーっとですね、まだ17日だからなぁ、そんなに多くは報告されてないよ。もっと日にち経たないとね(ニヤリ)」

山田「じゃあ、とりあえず、この場は――やることないんで」

「どうする? プログラムは」

山田「そのまま続けます。ただ、ディスプレイはそのまんま」

「はい、解りました。――さて、それじゃあ、17日の夜、アヤセマサキ氏から北村君へメールが来ますね」

差出人:ayasemasaki

送信日時:****年9月17日 21:37

宛先:********.***.**.**

件名:cosmic method

---------------------------------------------------------------------

ご迷惑をお掛け致しました。
今度は安全です。お試しください。
尚、旧バージョンは破棄してください。

「"universe"ファイルが」

山田「今度は大丈夫だって(笑)。本人からのお墨付きだから」

北村「17日の夜中?」

「ですね、はい」

北村「帰ったら、入ってたと」

「入ってた」

北村「そしたら、月曜日に、中古で安いパソコンを一台買って来よう」

「学校は行かない? サボっちゃうんだ、結局(笑)」



9月18日(月)――

山田「授業チェーック!」

「あるよ(笑)」

山田「<幸運>以下だとあるんでしょ?」

「あるよ(笑)」

中村「(コロコロ……)あったぁ」

山田「最近忙しい。やっぱりクランク・インしてるんじゃない?」

「(北村に)さて、それでは、買ってきてどうする?」

北村「買ってきて、――いや、まだ早いな。その日はそれで終わりにする」



9月19日(火)――

「19日火曜日、何かしますか?」

北村「山田に声かけて、アヤセマサキから新しい――」

山田「"安全な"(笑)」

北村「――安全なやつが届いたっていうんで、もう一台パソコン買ってきて、それを試してみようとは思うんだけれども――」

山田「あ、行きますよ、先輩♪」

北村「カモン、カモン」

中村「(仕事チェック。コロコロ……)あ、ない!」

山田「じゃあ、例の人連れて行きますんで」

北村「あれ? 今日は仕事じゃないの?」

山田「たぶん大丈夫っすよ。待っててください。連れて行きますから」

中村「今日は半年ぶりのオフなんだ(笑)」

山田「ブーーー。連れてきます」

「はい、連れてった。――ちなみに、例の掲示板に、あったことそのまんま書きましたが、ムーアさんという人が、『ちょっとそれは信じられないですね』というレスを。まあ、この人は比較的冷静な書き方してますけど、『多発している事件をおもしろおかしく煽り立てていらっしゃるのではないのでしょうか』ぐらいの疑いは持たれちゃってます」

北村「あああ」

「ま、それはそれとして」

山田「新しいファイル――安全だと言われているファイルを(笑)」

北村「正直なところ、あんまり安全だとは思えない」

「あれ? なんでだろう?」

山田「いつものように三人、肩を組んで――」

「肩を組んでダブルクリック!(笑)」

北村「下手したら、悪い方向にパワーアップしている可能性が(笑)あるんじゃないかとさえ、思ってしまう。これまでのことを考えると」

山田「一発昇天、ということが。――でも、動かさざるをえないんでしょう」

中村「やるしかないんじゃないか、やっぱり。で、三人とも――一斉に旅立つしかないな(笑)。パソコンと一緒に。九州の旅に(一同笑)」

山田「たぶん九州に着くんだ」

中村「うん、たぶん九州だよ」

「なんで九州なんだろう?」

山田「何県かわからないけど、とりあえず九州」


(すみません、メンバー全員寝不足+疲労困憊なもので……)


中村「……三人で本当にいいのかなぁ」

北村「うーん、旅立つ必要はないんじゃないのか? とりあえず」

中村「でも、向こうで本当に何があるか判んないからね、そういう意味じゃあ、三人いないと危険だし」

北村「とりあえず添付ファイルを起動してみる。起動してみたときに、一瞬はどうやっても目に入ってしまうでしょう」

山田「ディスプレイを見ている人と消す人と、あと電源のところを持っている人かな」

北村「いや――、ないとは思うけど、起動した瞬間にパソコンと一緒にどっかに吹っ飛ばされるという可能性もあるから、俺が起動してみるから、ちょっと外に出て」

山田「おっ。じゃあ、とりあえず退避。隣の部屋に行って」

中村「扉を閉めて」

北村「起動してすぐに消して、戻っては来るけどね」

「じゃあ、起動してすぐ消す」

北村「うん」

「消せました」

北村「よかった」

「起動した一瞬、画面が真っ暗になって、次の瞬間、消せました」

山田「そうか、起動時の真っ暗のときがチャンスなんだ。――実は本当に安全だったりして(笑)」

「で、隣の部屋に来るんだね」

北村「うん」

「そうするとふたりが拍手で迎える、と(笑)」


(パチパチパチ……本当に拍手してる)


中村「おお、生還」

北村「まあまあまあ」

山田「電源消してきただけでしょ」

「奇跡の生還」

北村「あれを起動して電源を消さないでいたら、どのくらいでパソコンが消えるのかを知りたい気もするんだ」

山田「初期状態から」

北村「だから、」

山田「データを別のパソコンに移して、そっから?」

北村「うーん、途中でさ、そのプログラム止めることはできるんだよね?」

「できるけど、モニター点けなきゃ」

北村「ああ(笑)」

「モニター点けて操作しなきゃ」

北村「でも、中断しようとすれば、結構すぐに――まあ、一瞬は見るとしても、そのあとすぐに画面は消えるよね?」

「まあね、でも一瞬どころじゃないと思うよ、図形見なきゃいけない時間は。中断作業に30秒ぐらいかかるんじゃないかな」

山田「危険危険。微妙な線だなぁ」

北村「ちょっとチャレンジ――やり遂げよう」

中村「やろう。見よう。15分ぐらい見よう(一同笑)」

北村「なんでもう諦める方向になってんだよ(笑)。――ちょっと、中断作業しに行きます」

「行きました。モニター点けますか?」

北村「点けますよ」

「点けますよ。さっきからそんなに経っていないけど――凄いことにはなってないけども、図形が前にも増して、より芸術的になっている(笑)。より究極的というか、果てしない感じがする。<正気度>ロール」

北村「はい。(コロコロ……)よし、成功」

「じゃあ、いいです」

北村「中断作業を」

「中断しました」

北村「前より安全、って感じはしない?」

「しない!」

北村「(笑)言い切るかぁ」

「さて、どうしましょう」

山田「あ、北村さんのそのファイル、貰っちゃっていいのかな?」

北村「ファイル? ああ、"より安全"ファイル」

山田「うん、"より安全"ファイル(笑)。じゃあ、それ頂いて、ノートのほうに入れておいて、まだ起動しません。これなくなるとアレだから。あとは、ちょっと待ち。明日は買い物だ、また」

「それじゃあ、皆さん帰宅されると、山田さんのところにアヤセマサキ氏からメールが来て、」

山田「おっ」

差出人:ayasemasaki

送信日時:****年9月19日 19:42

宛先:********.***.**.**

件名:cosmic method

---------------------------------------------------------------------

最新バージョンです。お試しください。
尚、旧バージョンは破棄してください。

山田「えっ!? こっちが最新バージョンなんだ」

「まあ、書いてますよ」

山田「いつものように入れ替え作業かな」

「じゃあ、次の日」



9月20日(水)――

「次の日です」

山田「ノートパソコンもう一台買い足しに行きます」

「そんな金あんのか、お前ら。学生だけど」

山田「どうなんでしょう?(笑)」

「どうなんでしょう、ってねぇ」

中村「あ、実は、いっぱい金あんの? 俺たち」

北村「なんじゃそりゃ(笑)」

「安い中古の買うのとはわけが違うぞ。ちょっと買えないね、学生の身分じゃ」

北村「こいつは親の臑っ囓りだけど、金があるから」

「でもこのシナリオ中では、もう買えないと思ってね」

北村「まあ、そこまでは、うん」

中村「――俺、ドリキャス買ってみようかな(笑)」

「ネットはできるぜ、って」

山田「じゃ、何もせずに過ごす」

「じゃあ、夕方。例の掲示板を見てみたら、結構騒ぎになってますね」




投稿日 9月20日(水)2時5分 投稿者 さみだれ

>ムーアさん
盲さんがいなくなったというのは本当なのでしょうか。それって、もしかして最近ニュースでやってるアレですか? パソコンと一緒に行方不明になっているという……。



投稿日 9月20日(水)9時31分 投稿者 ムーア

>さみだれ様
盲様だけではないようです。権之助様もセンフ様もexit様も甲零様も、皆様音信不通です。全く連絡が取れません。
おっしゃる通り、最近の連続失踪事件と密接に関わっているようです。自分のパソコンとモニターと一緒に、煙のように消えてしまうという、例の事件です。
8月13日にご自宅で行方不明になったアヤセマサキ様と、全く同じ状況です。
また、いなくなった方々は、こちらのサイトの常連だけというわけではないようです。現在はまだよく解っていない状態ですが……。
わたしも、自分のツテを辿って独自に色々と調べてみようと思います。

もしこの掲示板をご覧になっている方で、何か情報をお持ちの方は、どんな些細なことでも構いません、わたしにメールでお知らせください。お願いします。



投稿日 9月20日(水)17時28分 投稿者 さみだれ

凄く恐いです。不安です。
早く戻ってきてください。

>ムーアさん
あなたまでいなくなったりしませんよね?



「まあ、今さらという情報な気もするけどね――」

山田「ムーアさん、疑いの目で見てたのが、真剣に取り組み始めたね、ようやく」

中村「どうも引っかかることがあるんだが――。アヤセマサキが行方不明になった状況というのは、公表されたんですか?」

「ああ、それは、うん、そうだね。さすがマニアサイトだけあって」

北村「じゃあ、俺はムーアさんに、以前書き込んだ者ですが、ということで、メールを送っておくよ。より詳しい情報を。こちらもちょっと、独自に調査しておりますので、そちらでも何か情報がありましたら教えてください、と」

「今夜は何かしてますか?」

山田「ネット見たり、メール見たりして、情報を。特にないだろうけど」



9月21日(木)――

「21日は何かしてますか?」

中村「(コロコロ……)仕事ない」

山田「何か、惹かれるなぁ、パソコンが。電源点けたいけど、恐いなぁ」

北村「"最新バージョン"って、ウチには届いてないんですよね? "安心バージョン"が届いたあとには」

「それ以降はないですね」

山田「だから"最新バージョン"がβ版だったんでしょう、たぶん。そっちに届いたやつの」


(そして夕方――)

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