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Act.9 残された少年



ベッドに寝かされたイチノの顔は、
土色に近いほど青褪めていたが、
嘘のように安らかだった。

― 竹本健治 『けむりは血の色』



「はい、療養所に行きました。じゃあ、病室行きますか?」

長沢「はい」

「えーと、病室に入る前に――、隣のサラリーマンの病室ありますよね、そこで何やら騒ぎがある」

長沢「ちょっと見てみます」

「見てみると、患者さん――相原さんが、何か、興奮して暴れてますね。それを必死で看護婦さんたちが押さえている」

芳樹「何か叫んでるの? <聞き耳>」

長沢「俺は見たんだぁーっ!」

芳樹「やっぱり?(笑)」

「そうだね。半狂乱になってます。『確かに見たんだ! そこの壁を擦り抜けて! 子供が空へ飛んでいったんだ!』」

長沢「ええ? ――じゃあ、大学生のほうに行ってみます」

「はい。そちらは――『何か、大変なことになってるみたいですけど……葉山くんも心配だわ』といった感じです」

長沢「夜中、怪しい物音を聞いたりなんてことは?」

「『いえ、ないですけど。――ただ、相原さんの叫び声が夜中にしましたけど』」

長沢「ああ……。――じゃあ、件(くだん)の、葉山一則の部屋に入ります」

「はい、入りました。誰もいません」

長沢「いません――。何か、残してあるもので目を引くようなものは?」

「そうですね、コンピューターの端末と、たくさんの蔵書くらいでしょう」

長沢「コンピューターを起動して、中身を見てみます」

「見ました」

長沢「何か、それらしいファイルを開いてみたりとかしてみますが」

「<コンピューター>ロールをお願いします」

長沢「はい。(コロコロ……)成功です。04」

「それじゃあねえ、例の『闇に用いる力学』をほぼ完全に翻訳してあるであろう内容ですね、(テキストの割には)でかいファイルがありました。まあ、書いてあることは一緒ですね」

長沢「解りやすく?」

「うん。解りやすく、理路整然とした文章」

長沢「他に何か、日記めいたものとかは?」

「そういうのはないですね」

長沢「ないですか。うーん……、本棚の裏とか調べてみたいんですが。隙間があったりとか」

「裏ですね? ――特にないですよ」

長沢「本を片っ端から引っ張り出してみて、本の裏に何かないかを調べてみますが」

「ないです」

長沢「ないですかぁ。――やっぱり、じゃあ、本とアレだけで何とかなるものなんだなぁ」

高坂「突然いなくなるんだったら、持ってくでしょう」

長沢「ああ、そうですねぇ」

高坂「本棚とパソコンとベッドだけ?」

「まあ、目につくのは、そんなもんですよ」

高坂「地図とかって、あったりします? 本棚に一緒に入れてあるとか」

「ないですね」

長沢「鳴兎子市の地図があったりとか。×がついてるとか。そういう都合のいいことはないですか」

「ないです」(さっきから否定マシーンと化している僕)

長沢「じゃあ……次は森川宅に行こうと思うんですが」

「じゃあ、行きます」

長沢「行って、呼び鈴を鳴らしてみます」

「出てくるのを待ちます?」

長沢「そうですね」

芳樹「武闘派ですから(笑)」

「バトルってください(笑)」

芳樹「強かったりして(笑)」

「呼び鈴を押しますと、インターフォンで、お母さんの声が。『どちら様でしょう?』」

長沢「ええと、息子さんの知り合いなんですが。息子さん、ご在宅でしょうか?」

「『ええ、おりますけど……どのようなお知り合いでしょう』」

長沢「彼の友達の入院している療養所で知り合ったんですが」

「『失礼ですが、どちら様でしょうか?』」

長沢「あ、じゃあ、名前を告げます」

「はい。じゃあ、そうだね、何か引っかかるものを感じつつも、『少々お待ちください』といった感じ。そうすると――、ヨシアがインターフォンに出るかと思いきや出もせずに、そのまま玄関のドアがガチャリと開いて、例の小学生・ヨシアが出てきた。
 ――手に、なぜか懐中電灯を持っている。つけてはいないけど。それでね、最初見たときとは全然印象が違う感じで、妙に胸を張って自信に満ちた態度で歩いてくる。君たちのほうをじっと見据えたまま」

長沢「うわぁ。――で、葉山一則くんがいなくなったけど、何か知ってる? と訊きます」

「それじゃあ、門の柵越しに、『行方不明? 知らないねえ』」

長沢「しゃべ、喋るんですか!?」

「喋る。全然印象が違う」

長沢「うーん、やっぱり……」

芳樹「なるほどね」

琴音「――私たちが勢揃いして門の前なの?」

長沢「ですね」

琴音「本とアレは、車の中」

「――瞳が黒々としている。それじゃあ、史彦&芳樹は、<アイデア>ロール」

(コロコロ……)

長沢芳樹「閃いた」

「ヨシアの瞳を見ていると、あのとき――黒い結晶体を覗き込んだときと同じような酩酊感に襲われる。まるで、瞳の奥から何者かが覗いているような――」

長沢芳樹「うわーあ」

「やけに瞳の色が濃いような気がする」

長沢「目を逸らして――、口調を変えて、お前ら何やってたんだ! みたいなことを訊きます」

「『何――って、例えば?』」

長沢「あの本を読んだよ。中身も持ってる」

「『それで?』」

長沢「お前ら何してたんだ」

「『何も、大したことはしていないよ。あるがまま、なすがままのことをしただけさ』」

芳樹「うわあ、厭だ(笑)」

長沢「――何で、姉ちゃんだったんだ!?」

「『ああ――、運がなかったんだろうね』」

芳樹「てめえっ!! ――ブチッ」

長沢「バトルですか」

芳樹「バトル。殴り」

「門があるんですけど」

芳樹「跳び越えます。<ジャンプ>!」

「<ジャンプ>ロールどうぞ」

芳樹「(コロコロ……)成功!」

「ひょいと跳び越えて、ヨシアの前にスタッと立った」

芳樹「てめえっ! ――首持ち上げる」

琴音「芳樹っ! ――ちょっと、一応叫んでおこう」

長沢「やめろよ――とは言わないな。じっと見ていますね、その様子を」

「先に行動していいですよ。何します?」

芳樹「持ち上げる」

「<グラップル>」

芳樹「(コロコロ……)12。出た」

「それじゃあ、<回避>させてもらう。(コロコロ……)躱(かわ)した。ひょい」

芳樹「おっ、速っ! 子供のスピードじゃねえな」

「それじゃあね、躱して、家に向かって『ママーッ! この人たちがーっ!』(笑)」

芳樹「畜生! ガキめ!」

「ボクに暴力を振るうよー(笑)って教えてあげる」

芳樹「どうしよっかな。――たぶんキレてるからな、"運がなかった"って言われた瞬間に。振り向いたところを後ろから<蹴り>」

「蹴るんですか? どうぞ」

芳樹「(コロコロ……)あ、これ失敗」

「空振りました。それじゃあねえ、お母さん出てきます。警察に通報されちゃいますよ」

長沢「じゃあ――」

琴音「とりあえず逃げるしか(笑)」

長沢「逃げるしかないですね。逃げます」

「はい。逃げてください」

芳樹「たぶん、後ろから羽交い締めにされてるだろうね」

長沢「ほらっ、逃げるぞ!」

琴音「――何で? 何で? 何で自分で懐中電灯持っていたの?」

長沢「それが謎ですね。自分で懐中電灯を持っている――使わなきゃいけない理由がある――?」

「時刻はもう、午後ですか。――夕方近くですね。
 ――えー、長沢さんのケイタイがまた鳴りました」

長沢「はい」

「君野さんです。――『葉山くんが見つかりました!』」

長沢「どこですか!?」

「『――森の中で――発見されました。――遺体となって……』」

長沢「ええっ!? 死んでるぅ? ――解りました」

芳樹「ヨシアくんが犯人です」

長沢「どんな感じでした?」

「『見つけたのは、森の奥に、ぎりぎり車で入れるところまで入っていった若いカップルなんですけど――』車の中でいちゃついていたら、木の上からずるるるっと何かが滑り落ちてきて、ボンネットの上にドンって載ったみたい」

琴音「可哀想に(笑)」

「死因は心臓発作。ちなみに――火傷とか打撲とか、そういうのはないですね」

長沢「心臓発作ですね」

「『それで、私、さっき遺体を見たんですけど、なぜか、もの凄く穏やかな表情だったんです。まるで――何かに満足して死んでいったみたいに――』」

長沢「うわあ――そうするとなぁ――うーん――」

芳樹「何かが出てきたんだ。そして……」

長沢「――もしそうだとしたら、勝ち目はあるんでしょうか? そんな、世の中の法則を上手いこと操れるようなやつに――」

「それとね、君野さんからの更なるメッセージが」

長沢「はい」

「『今朝、森川くんが療養所に来て、そのときに色々と葉山くんがいなくなったこととかお話ししたんだけど……、何か、森川くん、長沢さんのケイタイ番号訊いてきたから教えてあげましたけど――』」

長沢「な、何ぃっ!?」

「『病室でお話ししていて仲よしになったそうで――』」

長沢「うーわー。――解りましたぁ」

「『教えておきましたけど、別にいいですよねえ?』」

長沢「はいはい、か、かま、構いませんよ。気をつけてくださいね」

「『――何をです?』」

長沢「暗いところには気をつけたほうがいいですよ。ひとり歩きは危ないですから、と言って切ります。
 ――うーん、となると、やっぱり――」

芳樹「初の傷害事件。ナイフを買う(笑)」

長沢「それだったら、家に帰って包丁持ち出したほうが楽ちんじゃないでしょうか」

芳樹「包丁より長いものを」

長沢「でも、直接的打撃で勝てる相手だったら、何とでもなるけど……」

芳樹「いや、キャラクターとしては知らないもん。ガキんちょ叩き斬ってやるぐらいに思ってるから」

長沢「うーん、でも、断片的な情報だけでも、そんなのが相手で武器なんかで何とかなるとは――」

芳樹「そりゃあ効かないよ。キャラクターとしては動くけど、プレイヤーとしては戦えねえよ(笑)」

長沢「INT18の知能でもって――無駄だと思うよ、みたいなことを。そんなん効くようだったらアレだし、壁を擦り抜けたって話だってあるんだからさ」

芳樹「じゃかましい! って言ってる(笑)。キレてるもん。"運がなかった"って言われた瞬間から」

長沢「うわあ。――さて、どうしましょう、これは――」

高坂「強烈な光が出せるような場所って、ないですかねえ」

琴音「車のヘッドライトとか」

長沢「車のヘッドライト、懐中電灯……」

「――と言ってるうちに夜になる」

長沢「夜になっちゃった。じゃ、とりあえず家に帰って、懐中電灯を取りに行きます」

「はい。取っていいですよ」

長沢「懐中電灯を持って。――人数分渡しますか、だったら。みんな持っておいて、って言って」

芳樹「懐中電灯と包丁。恐えー(笑)」

琴音「犯罪者の家族とかにしないでちょうだいよ(笑)」

「津山三十人殺し……(笑)」

芳樹「(ルールブックの武器データを見ながら)あ、"肉切りナイフ"になるんだ♪」

琴音「だからぁ!」

長沢「殺伐としてるなぁ(笑)。
 ――よし、じゃあ、それを持った状態で、どうしよう――やっぱり、療養所に戻ります」

「はい、行った」

長沢「で、葉山のパソコンを調べて、その文章の中で、どうにかする方法がないか探そうと思うんですが。――凝り固まった闇粒子をどうにかする方法だったり、そのあと出て来ちゃったものをどうにかする方法」

琴音「あ、そうそう、その先のことのほうが知りたいよね」

「まあ、やはり、これしかないね」

長沢「拡散させる。――光を当てれば」

「闇に対抗するには光しかないようです。それ以外の方法はないですね」

長沢「数式についての解説みたいなのはないですか?」

「あるけど、理解不能な」

長沢「理解不能ですか。やっぱり。となると――光ねぇ」

琴音「煙草吸う? マッチとかライターとか持ってる?」

芳樹「たぶん吸うよ。不良だもん。ジッポー持ってるよね」

高坂「焚き火でもします? 明るいことは明るいけど」

長沢「でもそれが役に立つかもしれんとも思うんですよね。――逆に塊のほうから侵入できねえかな、と危ないことを考えたり。塊のほうから侵入して、うまいこと道を開いてみたいなことができればと思うけど――でも危ないんだろうなぁ。
 ――とりあえず、森川芳也を捕まえる、か? 何とかして何とかしないといけませんよねぇ」

「今は、どこに集まってるの? 長沢邸?」

長沢「長沢邸でしょう」

「はい、解りました」

芳樹「やつが来るか?」

長沢「どうでしょう」

琴音「電話かかって来るんじゃないかな」

長沢「何か決めとかないと拙(まず)いですよね」

「さて――例によってまた停電になりました」

長沢「うわ。なりましたか。じゃあ、ライトをつけます」

「懐中電灯を?」

長沢「はい。で、本と結晶を確保しておきます」

「それじゃあ、史彦くんの――お母さんが、『今ラジオで言ってたんだけど――』と言ってきます。なんでも、昨日の停電は大雪のためだったんだけど、今日は、森の入口あたりの送電線が何本も切断されているのを見た人がいる、ということだそうです」

長沢「森ぃ!? ああ、そうか!」

芳樹「電力量がゼロになってしまう」

長沢「どう考えてもこれじゃあ、街の中で発電しているわけはないですよね。郊外から来ている――うわあ、拙(まず)った」

「そうですね、このあたりの(森川邸の裏手の森)送電線らしいよ」

長沢「……ということは、動いたほうがいいですかね」

琴音「うん、だって、もう朝になっても――天気予報って、ちなみにどうなんだろう? まだまだ雪なのかな」

「明け方まで降り続くらしい」

長沢「出たほうがいいですね」

芳樹「どこへ向かうの?」

長沢「光の多いところ――?」

琴音「コンビニ(笑)」

長沢「いや、コンビニも真っ暗」

琴音「自家発電持っていそうなところといったら、療養所ぐらいしか――」

長沢「そうか、療養所か! 療養所に行きましょう」

「はい。行く途中に電話が掛かります」

長沢「はい。出ます」

「出ました。妙なノイズ混じりで――『もしもし、もしもし、もしもし……、』繰り返してる子供の声」

長沢「森川芳也だね?」

「そうすると黙って、しばらく雑音だけが続いて――『今から探しに行くから』」

長沢「うわあ。――お前、何なんだ!?」

「『今に解るよ』――切った」

長沢「うわあ。急ぎましょう」

「療養所に着いた」

長沢「療養所に明かりは点いてますか?」

「非常用バッテリーでしょうから、明かりは点いてないと思ったほうがいいでしょうね。必要最低限の医療器具だけで」

長沢「ああ、そうか。駄目ですよ。それを持ってくわけにはいかないし――駅とかがあっても、その電源は――」

芳樹「切れてる」

琴音「車に乗って走っている限り、ライトは点いてるよね? 車の中はあんまり明るくないけど、前は」

長沢「探しに来るんですよね。――とりあえず、開けたところをウロウロしますか?」

高坂「開けたところ? 湖畔とかですか? ――暗いですね」

長沢「そうか、夜の湖って暗いんだ。――どこ行っても暗い。逃げらんないですね」

芳樹「どんより」

長沢「適当にライトを当てると、どんなもんなんでしょう? 何かありますか? 戯れに空を照らしてみるんですけど」

「特にないですよ」

長沢「じゃあ、朝になるまで逃げ切って、相手をどうにか見つけるか――相手を捕まえて、明けるまで何とかするか――。朝になれば絶対少しは明るくなるはずだから――」

「――と、療養所で悩んでいると――療養所のどこかな」

長沢「外だと思いますね」

芳樹「駐車場のところ。点いてるとしたら、非常口のこういう――(駆け込む人のシルエット)――マークだけ(笑)。グリーンの」

「車の中にいるのかな」

長沢「中ですね」

高坂「エンジンつけて、暖房つけて。ヘッドライトも一応、点けっぱなしにはしておきますけど。あと車内灯も」

「はい、それじゃあ、どうしようかと悩んでいると――」

長沢「はい」

「遠くのほうに、ポッと明かりが見える。弱々しい明かりが」

芳樹「来た」

高坂「どっちの方角ですか?」

「車の横のほう、療養所の入口から」

芳樹「降りる。車から」

長沢「降ります」

「小さな人影。ヨシアが、自分の顔を懐中電灯で照らしながら――」

芳樹「あ、恐え」

高坂「うわあ」

「――近づいてきた。無表情ですね。生っ白い顔をしている――」

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