Opening Act. 1 Act. 2 Act. 3 Act. 4 Act. 5 Act. 6 Act. 7 Act. 8 Act. 9 Act. 10 Ending
Act.4 三人の少年
「オレの恋人を紹介するよ」
ヨタカはボクを療養所に連れてゆき、そんなふうに冗談めかしてイチノに会わせたのだ。
― 竹本健治 『けむりは血の色』
K「病室の入口にあるネームプレートは『葉山一則(はやま かずのり)』」
長沢「(メモしている)――はい」
K「君野さんが、『まだ中学生なのに心臓病で可哀想な子なんです。幼い頃からずっとここにいるんですよ。――ただ、毎日、ふたりの友達がお見舞いに来てくれてますから、それはいいんですけれどね』」
芳樹「ふたり――」
K「『ただ、ちょっと変わった子で……。あ、そうそう、停電のあったときに発作を起こしたって、さっき豊田さんが言ってましたけど、そのときナースコールが使えなくて、結局、友達のひとりが――夜中にこっそり遊びに来ていたらしくて――その人が呼びに来てくれたんです。
夜中に遊びに来るなんて、本当はいけないことなんですけどね、その子がいたおかげで助かったわけですから、まあ、怒るわけにもいかなくて――』」芳樹「うーん、こっちのほうが怪しくなってきた」
琴音「見る人見る人全部怪しんでる(笑)。単細胞なんだからぁ、もう(笑)」
長沢「はい、入ります」
K「入りました。真っ白な部屋。奥のベッドに、痩せ形で、結構――いい男というか、薄幸の美少年といった感じの」
長沢「ほぉ。細〜くて」
K「うん、そんな子が座っている。隣にはコンピューターの端末があって、あと、本棚の数が凄い。ずらぁ〜っと」
芳樹「個室とは金持ちだ」
K「それとですね、ふたり別に、男の子がいます。片方は、まあ、同い年ぐらいかな、ちょっと大人びてはいるけど、やや背が高くて、黒い服着ていて、目つきがちょっと鋭いかなといった感じ。
もうひとりは、多少、幼い感じがするね。可愛い子で、背が低い。ランドセル背負っている」長沢「あぁ、小学生だなぁと、思うわけですね」
K「ランドセルは、今流行りの横長のやつ」
長沢「まあ、今あんなランドセル、あまり見かけなくなりましたからねぇ。――と、それはいいとして――」
K「長沢さんが君野さんと一緒に入っていくと、一斉に、サッと視線を向けられる」
長沢「じゃあ、君野さんに紹介してもらって、そうだな――葉山一則に、姉がどうだったかっていうのを訊きます」
K「それじゃあねえ、葉山くん以外のふたりは、じーっと黙って見守っている。
葉山くんが『千尋さんのことですね』と。」芳樹「生意気そう(笑)」
K「利発そうな子ですね」
長沢「何かおかしなことはなかったか、とか」
K「『そうですね、特にありませんよ。僕は本当にあの人にお世話になっていましたから、この度は本当に残念なことで――』」
芳樹「"この度は"(笑)」
長沢「ん゛ー、生意気そうなガキンチョやねー、とか思いながら――事件のときは、心臓発作で大変だったんだってねー」
K「『ええ、あのときはたまたま彼がいてくれて――』と言って、黒い服を着ている子を手で指し示す。『――ヨタカがいてくれたから助かりました』」
<一同>「"ヨタカ"!? うわぁ」
長沢「うわあ、と思いながら――」
K「渾名(あだな)みたい。――そうだね、じゃあ、ついでに紹介してあげることにしましょう。
『彼が依田隆夫(よだ たかお)。通称ヨタカ。そっちの小さいのが森川芳也(もりかわ よしや)。通称ヨシア』」琴音「……早くその美少年に逢いたい♪(一同笑)」
長沢「じゃあ、どうも、と会釈をして」
K「会釈されてもヨタカは突っ立ったままで、ヨシアはヨタカの陰にサッと隠れるような形で」
長沢「あららら、嫌われてるなぁ。――じゃあ、ヨタカのほうに、停電になったときは何をしてたの?」
K「『イチノと話をしてた』――"イチノ"って呼ばれてるみたいですね、葉山くん。結構ぶすっとしていて、愛想のない返事です。表情もあまり変えませんねぇ。
――さてと、<心理学>ロール」琴音&芳樹「頑張れ〜(笑)」
長沢「<心理学>ないんですよ――(コロコロ……)あ、07、惜しい。駄目ですね」
K「じゃあ、判んないなあ」
長沢「うーん、じゃあ、あのときの状況とか判れば、教えてもらえるかなぁ、ということを
K「誰に訊くのかな?」
長沢「ヨタカのほうに」
K「『さあ、俺はここで話していたら、突然明かりが消えて、しばらく経ってからイチノが発作を起こした。ナースコールを押したが効かなかったので看護婦を呼びに行った――それだけだよ』」
長沢「その話を聞きながらですね、ウロウロ歩き回って、本棚にどんな本があるかを、目を通して見てみます」
K「いろぉーんなのが(笑)」
長沢「色んな本があるんですね」
K「本当に色んなジャンル。ただ、そうだね、物語作品はそんなにないです。専門書とか」
芳樹「物理学」
K「物理もあるよ。生物、化学、地質、数学、――まあ色々(笑)。オカルト関係なんかもありますが。
――そうだね、<目星×2>で振っていいや」長沢「はい。そのぶっきらぼうな少年の話はそっちのけで。(コロコロ……)うぅぅ、失敗しました」
K「ま、色々あるなぁ、といった感じですねぇ」
長沢「じゃあ、今まさに気づいたように――あ、パソコンやるんだ? みたいな話を」
K「それじゃイチノが『ええ。ネットだけが、僕が外に出られる唯一の方法ですから。これを使って、世界中から色々と本を取り寄せているんです』」
長沢「ふうん、勉強家なんだねぇ」
K「『ええ、そうです。せめて知識で補わないと……』まあ、実際に本棚を見ると、日本語のものだけじゃなく、洋書もかなりある」
長沢「そういえば、こいつ(長沢)は数式を持っていないんですよね(笑)」
芳樹「俺のポケットの中」
長沢「あ、そうだ、向かいの豊田さんに何か物理のことで質問してたって聞いたけど、どんなの? 僕もちょっと興味があるんだ、物理には」
K「『ちょっと気になる式が――取り寄せた本の中にあったんですよ。僕はそんなに物理には詳しくないので、向かいの方が物理学専攻だということで、訊いてみたんですよ』」
芳樹「どの本?」
長沢「へえ、どんな本だい?」
K「『ええと、どれっだったかなあ――』と、そうだね、また<心理学>」
長沢「<心理学>ですか。(コロコロ……)無理ですね」
K「『ちょっと忘れちゃいましたね、整理してないものですから』」
長沢「ふうん――」
K「他の三人、ガヤガヤ入ってきていいですか?」
長沢「いいですね」
K「じゃあ、入ってきた。三人とも病室に来ていいですよ」
芳樹「ドラムスティックを回しながら」
長沢「三人の紹介をしますね。――こっちは友達で、そのお姉さんで、親類の――」
高坂「オマケです(笑)」
長沢「――記者さんです」
K「それじゃあ、こちらも自己紹介を――と言っても、イチノしか喋んないけど」
長沢「他のふたりは、ぶっきらぼうだったり、おどおどしてたりするわけですね」
琴音「ご兄弟――なのかしら」
K「それを訊くと、イチノが『いえ、違いますよ。ヨタカが同級生で、ヨシアは――特別そういった繋がりはありませんけど、友達です』」
琴音「へえ。どこで知り合ったの?」
K「『ヨタカとは幼い頃から――同じ小学校だったんです。ヨシアは、一年くらい前にヨタカが見つけてきたんです』」
琴音「"見つけてきた"――なんか、夜中までいたりとかして、どこに住んでるんですかね」
K「『ふたりとも近くに――町内に住んでいますよ』」
琴音「そんなに夜中にウロウロしてたりとかして、お母さんやお父さんに怒られたりしないの?」
K「イチノが『ヨタカに親はいないし、ヨシアはこっそり来てるからね。でもヨシアは帰りが遅くなることはあっても、夜中には来ないよ』」
芳樹「ヨタカが……(怪しんでいる)」
長沢「"ヨタカ"ですからねぇ……(怪しんでいる)」
琴音「なんか、私たちの名前に似てるわね、"鷹見"だから」
芳樹「なんか、ヨタカが引っかかる」
琴音「そりゃ、みんな引っかかってると思うけど(笑)」
長沢「そうだ、今、(芳樹が)いるから、持ってきてもらった数式を見せます。――これなんだけど。これに似てるって聞いたんだけど」
K「『そうですね、これに似てますね。……どの本だったかな――』と、視線を彷徨わせますね」
芳樹「<心理学>」
K「皆さん、振っていいですよ」
(コロコロ……)
琴音「判った! 02!」
芳樹「おお! 凄い(こっちは失敗)」
K「そう呟いているイチノの顔を見ると、無意識のうちに、視線をある一定のところに彷徨わせていますね。ある本棚の一角に」
芳樹「その本は?」
琴音「見てみましょう」
K「本棚の一角、主にオカルト関係の本が並んでいるところに――」
芳樹「オカルト(笑)」
琴音「私もオカルト関係ちょっとは好きなんだよな」
K「――一冊だけ、凄く浮いている本がある。とても目立つと言うか――サイズはA3くらいかな。それで、かなり分厚い。10センチ以上ある。しかも、背表紙を見ると、鉄でできている」
芳樹「うわー、厭な本を見つけた(笑)」
K「タイトルは特に書いてない」
琴音「じゃあ、なんとなーく、葉山くんって本が好きなのねぇ、と言いながら本棚のほうに行って、私も本が好きなのよ(笑)と、ちょっと、その本に手を――掛けちゃおうかな」
K「手を掛けて、ちょっと出してみる?」
琴音「はい」
K「そうするとだね、何かなーと見てると、突然、肩を強くポンと叩かれる。振り向くと、ヨタカが睨(にら)んでますね」
琴音「……何? 何?」
K「しかしイチノが『いいよ、ヨタカ』とボソリと言うと、何やらアイ・コンタクトを交わしたらしく、そのまま引き下がる。本を取れます」
琴音「な、何なのよ依田くん、びっくりするじゃない。と言いながら全部出しちゃいましょう(笑)」
K「すんげー重い」
芳樹「鍵が掛かっている本だったりして」
K「おっ! そのとおり!」
芳樹「うわ! やべぇ本だ!(笑)」
K「表紙も裏表紙も背表紙も鉄で装丁されていて、鍵が掛かっている」
琴音「重〜い。この本な〜に〜? ――何か書いてありますか? 読めそうな言葉」
K「ないですね、特に。文字も絵も何も書いてないです」
琴音「つんつるてん」
K「じゃあ、それを出してみるとだねえ、イチノが『ああ、それはよく判らない本なんですよ。注文した覚えがないのに、届けられた他の本の中に混じっていて――注文した本は、いつも纏めてドサッと届けられるものですから』」
芳樹「借りていい?」
K「『それはもしかしたら、凄く貴重なものかもしれないので、ちょっとお貸しすることはできませんけど』」
琴音「中の紙って、どういうふうに見えるんですか?」
K「多少古びてはいますけど、割としっかりした紙ですね」
芳樹「鍵掛かってんの? 開けて! と気軽に言う。そんな貴重なの? 見てみたいな」
K「『いや、開けられたらいいんですけどね』」
芳樹「よし、開けます! <錠前>!」
K「『やめてください。壊れるかもしれません』」
芳樹「大丈夫、大丈夫、<錠前>あるから(笑)」
長沢「俺うまいんだよぉ(笑)」
K「それじゃあねぇ、ヨタカが無言で詰め寄ります」
琴音「あら(笑)」
K「向こうのほうがガキなのに、妙に威圧感がる」
芳樹「<マーシャルアーツ>あります」
長沢「じゃあ、やめろよ、と止めて」
高坂「鍵は持ってないんだ?」
K「『ええ。鍵は入ってませんでした』」
芳樹「ピンを出して(笑)」
長沢「そこまでやらなくていいじゃん、みたいなことを」
琴音「ボソッと、かずにいちゃんに――、でもさ、さっき数式を見せたときに、葉山くんがねえ、ちらっと見てたし。私が手を掛けたときも、あの子、ちょっと変だったと思わない? 絶対あるんだよ、何か」
長沢「じゃあ、そういう話をしている間に、葉山くんに、この数式はさあ、みたいな感じで、豊田さんに訊いた話をもう一度確認してみる」
K「『――そうらしいですね』と」
長沢「マックスウェルの悪魔って、本当に、あったら凄いなぁってだけなのかなぁ。いたらいいよねぇ。凄いんだろうなぁ、きっと」
K「『いたらいいでしょうけれど、宇宙の法則が根底からねじ曲げられてしまいますからね。世の中は大変ですよ』」
長沢「そうだねえ」
K「ちょっと<クトゥルフ神話>ロール振ってもらえるかな」
長沢「はい。(コロコロ……)ああ、駄目ですね。5%しかないから」
K「それじゃ、判らないなぁ」
芳樹「鍵を開けちゃおう」
長沢「やめろよ」
K「(しつこいなあ(笑))――準備に時間が要るから」
高坂「この本って、じゃあ、中見たことないの?」
K「『ないです』ぴっちり閉じています。隙間ないですから」
高坂「でも――見てみたい気する?」
K「『そうですね。まあ、そのうちにでも』」
高坂「そのうち。――でも鍵掛かってるよね。そのうちって、微妙な言い方だ(笑)」
K「何とかして開ける方法を見つけたいと」
高坂「鍵があればいいんだけどねぇ」
芳樹「今なら、もれなく開けるよ(笑)」
高坂「でも、無理矢理開けると壊れるのが厭だからっていうことだよね」
芳樹「鍵屋さんを呼ぶ(笑)」
琴音「――でもこれだけ重いのが間違って配達されちゃったで済むのかなぁ(笑)」
高坂「ちなみに、これって、一緒に来た荷物がいっぱいあったんだよね」
K「『はい』」
高坂「それを頼んだときに、どこ見てたの? ネットのどこか見てたんでしょ?」
K「『ええ。ネットで手当たり次第に』」
高坂「じゃあ、なんとなく、いつか頼んじゃったやつが送られてきたっていう――」
K「『そういう可能性はあります。ただ僕の記憶では頼んだ覚えがありません』」
琴音「ちょっと話は変わるけど、何で夜中に依田くんが来てたわけ?」
K「『ああ、遊びにですけど』」
琴音「いつもそんなことしてんの?」
K「『ええ。ちょくちょく夜中に来ますよ』」
琴音「昼間じゃ、何か、できないようなことでもあるわけ? 昼間に来ればいいじゃない」
K「『昼にも来ますし、夜にも来ますよ』」
琴音「葉山くんの家族ってゆうのは、来ないの?」
K「『ああ、父も母も外国にいるんです』」
琴音「……息子ひとりを入院させて……?」
K「『多忙なんですよ』」
長沢「親戚とかはいないのかな」
K「『そうですね、ここまで来てくれるような方はいませんね』」
琴音「外国かぁ――じゃ、寂しいんだね、葉山くんもね」
K「『いえ。ふたりがいますから』」
長沢「あ、そうだ。ふたりに親しげに、姉さんのこと何か知ってるかな?」
K「それじゃヨタカはね、何も言わない。ヨシアは隠れる(笑)」
長沢「嫌われてるなぁ」
琴音「本持ってて疲れたので、返しとく(笑)。
――その他に、ざっと本棚眺めてもいいですか」K「いいですよ」
琴音「オカルト関係読んでるんだぁ」
K「オカルトもあります。オカルト系と言っても、かなり真面目なやつですね」
琴音「矢追純一とかはなくて(笑)」
K「そうですね。学問としてオカルトを扱っているようなものです」
長沢「クロウリーの『法の書』があったりなんてことはないんですね」
K「『金枝篇』はあるね」
琴音「学校には行ってないんだよねぇ。入院してんだもんねぇ」
K「ですね。でもたぶん、そのへんの大学生よりも頭よさそうだね」
琴音「うーん、むかつくよなぁ(笑)。で、綺麗なんだよ」
長沢「EDU7には、ちょっと辛いところ……(笑)」
琴音「……停電の夜にいたのは、依田くんだけだって、さっき言ってたんだよね」
K「ええそうですよ」
琴音「森川くんは、何時ごろ来たの?」
K「『お昼にちょっと来て、それだけですね』」
長沢「うーん、そうですねぇ、じゃあ、これ以上邪魔していてもアレだね。もう暗くなってきたし、と言って、部屋を出ます。
――で、そのときに、森川くんは帰らなくていいの? と」K「『彼らも、すぐ帰りますよ』」
長沢「じゃあ、気をつけてねと言って、出ます」
琴音「すぐなんだったら、一緒に帰ればいいのに。――一緒に帰ろうよ」
高坂「あ、送って行こうか? 車で来てるから」
K「それじゃあ、ふたりは遠慮する。――イチノが代表して『いえ結構です』」
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