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Act.5 少年を追って



考えてみれば、その頃からですね。
樹影荘にいろいろ妙なことが起こりはじめたのは。

― 竹本健治 『狂い壁狂い窓』



「さて、どないしましょ」

芳樹「サラリーマンは?」

長沢「あ、そうか、サラリーマンを最後に」

「サラリーマンは、三十代の相原(あいはら)さん。入っていくと、この部屋は割と殺風景ですね。コンピューターはないです。テレビはあるけど。ちょうどテレビを観ていました。ちょっと小太りの、陽気な感じの人です。『何〜?』」

琴音「私、部屋に入らないで、療養所のロビーに座って、ジュースでも飲んでよう」

長沢「ひととおり、先ほどのふたりにしたような質問を。姉の様子はどうだったですか、とか、停電のとき何してましたか、とか、妙なことはなかったですか、とか」

「そうだねえ、やっぱり同じようなことしか返ってきませんね」

芳樹「私もトイレに。キャラクターもトイレに(席を外す)」

「特におかしな点は千尋さんには見られなかったし、停電になった頃は寝てたし、隣の子供の友達の看護婦さんを呼ぶ声でちょっと目が醒めたけど、またすぐに寝ちゃったと」

長沢「なるほど」

高坂「私もロビーに行って宜しいですか? じゃあ、ロビーに行きます」

長沢「何で入院なさってるんですか?」

「『俺は――コレ(酒を飲む仕草)』肝臓だね」

長沢「大変ですねえ。どちらにお勤めですか?」

琴音「根掘り葉掘り(笑)」

「じゃあ、鳴兎子市の電話会社の名前を言った」

長沢「そうですかぁ、それじゃあ、お手間取らせましたと言って、出ますね」

「ロビーで座っているおふたりですが――、ロビーの端っこをヨタカとヨシアが並んで歩いて、外に出ていくのを見た」

高坂「そして――追跡係(原チャリの芳樹)がいない!(笑)」

「追跡係はトイレです(笑)」

高坂「しょうがないですねぇ。
 ――じゃあ、ここでスルーさせてしまうと見失っちゃうから、とりあえず、代わりに私が外に行きま――」

「あ、戻ってきた」

芳樹「トイレから帰ってきた」

高坂「ひとまず先行しますけど、あとは宜しくお伝えください」


(琴音が芳樹に状況を説明しました)


芳樹「バイクを出す」

高坂「俺、車じゃなくて、徒歩で」

長沢「バイクだと音しますね」

芳樹「バイク置いとくの? 療養所に」

琴音「でもバイクがあれば、ひとりでも帰ってこられるかなぁと思うんで(笑)」

高坂「いざとなったときにいいかもしれない。あると」

「それでは、いいですか、おふたり?」

高坂「あ、ひとつだけ訊きたいんですけど、何か手荷物持ってます? ふたりとも」

「ヨタカは手ぶら、ヨシアはランドセルを」

芳樹「どっちを追う?」

高坂「すぐ(芳樹と)合流できていいですか?」

「いいですよ」

高坂「ふたりともバラバラに分かれちゃう?」

「いや、ふたり並んで歩いていきますね」

高坂「とりあえず分かれるまで、ご一緒に行きましょうか」

芳樹「ご一緒に。ヨタカのほうは盛り上がりそうだな(笑)」

琴音「私たちどうしようかねぇ、これから」

長沢「どうしましょう。――君野さんにお礼を言って、ロビーのほうに行きますね。すると琴音さんしかいないんだろうなあ。
 ――(琴音に)ふたりとも、どうしたんですか?」

琴音「今さっき――(状況説明)」

長沢「僕たちどうしましょう。――連絡はケイタイで受けられるから、ここで待ってましょうか」


(というわけで、ふたりの尾行が始まりました)


「さて、では問題のふたりですが、東のほう、町の奥のほうへ歩いて行きます。このあたりはまだ開発が進んでいないので、割とお家は疎(まば)らだったりします。
 ――療養所から出て200メートルも行くと分かれ道になりまして、そこでふたりは別れます。ヨシアは北のほうへ行って、ヨタカはそのまま東のほうへ」

芳樹「ヨタカいきまーす」

高坂「こちらもふた手に分かれて(ヨシア担当)」

琴音「頑張れ(笑)」

「ではヨタカ担当の方」

芳樹「はい(笑)。なんか、撒(ま)かれそうだな」

琴音「撒かれるだけだったらいいよ」

芳樹「消えた、とか(笑)」

「それじゃあねえ、<忍び歩き×2>で振ってください」

芳樹「20%。(コロコロ……)うわ、失敗」

「なるほど。(コロコロ……)ふむ、なるほど」

琴音「振ってるよ、何か(笑)」


(ヨタカの<聞き耳>を振っただけです。成功か失敗かは――秘密)


芳樹「(((ひきつった笑い)))))」

長沢「遂に来るべき時が来ましたか(笑)」

芳樹「さようなら(笑)」

「突然、前を歩いていた黒い影が、ぴたっと立ち止まると、脇の狭い路地に、ひょっと入っていった」

芳樹「追っかけます。たぶん、気づかれてないと思ってるから(笑)」

「追いかけた。複雑に裏道が入り組んでいる場所ですね、そこは」

芳樹「うわ、撒かれたか」

「いや。まだ撒かれていない。ひょいっと、別な裏道に入るのが見えた」

芳樹「追っかけます」

琴音「頑張れ芳樹ぃ〜♪」

「追っかけてってください。また追いかけていくと、やはり後ろ姿がちょっと見えたけど、また違う路地に……」

芳樹「うわ、どこかに誘(おび)き寄せられてる――?(笑)
 ――ええい! 正義感だけで、突き進め!」

「突き進んでください。――その頃――ヨシア担当ですが……」

高坂「うわ、厭な引き(笑)」

「冬で陽も短いですから、もう暗いですね。人通りもろくにないような道を歩いています。まだ若干明るさは西の空に残っているけど、すぐ陽は沈んじゃうでしょうねえ。
 ――さて、ヨシアが歩いていると、その前方の通りから、同い年くらいの小学生風の男の子が四人、タタタタッと走って来て、道を塞いだね」

高坂「どっちの道を?」

「ヨシアが行こうとしたのを、とおせんぼした。何か言い争っている。たぶん、くだらない悪口を言ってるんでしょう」

芳樹「苛められっ子なのか」

「そのようです」

琴音「あんなに可愛いのに」

「ヨシアは俯いたまま、モジモジしてる」

芳樹「ここは好感度を取って、色々訊き出すチャンスだ!」

琴音「手なずけるんだぁ!」

高坂「ちなみに、声とかは聞こえてくるんですか?」

「距離的に離れているけど――<聞き耳>振ってみてください」

高坂「(コロコロ……)失敗です」

「じゃあ、よくは聞こえないけど、まあ、だいたい察しはつくね。くっだらないようなこと。小学生が言うような」

琴音「お前の母ちゃんデベソとか(笑)」

「最近の子供はもっと酷いこと言うでしょうけど……。
 ――そうするうちに、中のひとりがヨシアに手を掛けて、ランドセルを取ろうとしてみたり、足を引っかけてみたり、小突いてみたり、ああ、ああ、ああ……」

高坂「近寄る」

「近寄った」

高坂「後ろから――あれ? 森川くんじゃないか? と声を掛ける」

「そうすると、大人が来たわけだから――ええと、SIZなんぼですか?(笑)」

高坂「14です」

「まあまあか。APPは?」

高坂「9です」

「うーん、なるほど。――なるほど、じゃないか(笑)。
 じゃあ、大人が来たということで、四人の子供たちは逃げていきます。わーっと」

高坂「ランドセル持って行かれたとか、そういうことは?」

「それはないです」

芳樹「手なずけろ! 色々訊き出すチャンスだ!(笑)」

高坂「できるだけ頑張ってみます(笑)。――で、ヨシアくんは、黙ったまま?」

「そうだね」

高坂「あれ? どうしたの? って、話しかけるけど」

「無言で俯いてますね」

高坂「友達?」

「(大きく首を横に振る)」

琴音「喋んないなぁ」

芳樹「ジュースでも飲もうか?(笑)」

長沢「誘拐だ、誘拐だ(笑)」

高坂「とりあえず寒いから――家、近いの?」

「(頷く)」

芳樹「肉まんでも奢(おご)ろうか、冬だから(笑)」

高坂「物で?(笑) ――ここで話してるのも寒いから、家まで行こうか」

「『ひとりで帰る』とボソッと言って、そのままタッタッタッタッと小走りに行こうとする」

高坂「いきなり引き留めてもなぁ、逆に嫌われそうだしなぁ。
 ……とりあえず、追いかけて腕を掴むけど。待ってよ、と。――無視して行っちゃう?」

「うん。無視して行くね。逃げるように」

高坂「あらぁ。それって、つかず離れずで追いかけてるって、可能ですか?」

「可能ですね」

高坂「ひとまず、それで追いますけど」

「――さてその頃、芳樹さんは――」

芳樹「気がつくと草原で歩いていたりして(笑)」

「それじゃあ、根気よく追いかけてゆくと、やがて――先ほど路地裏に消える前、最初に歩いていた本道があるんですけど――、その本道に戻ってきた」

芳樹「それで、姿は? 撒かれた?」

「いや、撒かれない。またそのまま、もとのとおり東の方向へ歩いてゆく」

芳樹「ええ? 何を――?」

長沢「からかわれたか、――気づいてるんだよ、という意志表示。気づかれてると気づいてもおかしくないですね」

芳樹「そうだな……露骨に後を追いかけてやろう(笑)」

「はい解った。露骨に追いかけてゆくと、やがて、結構歩いたかなぁ、というところで、もの凄いボロアパートに辿り着いた。二階建てで、一階二階、各三部屋」

芳樹「そこのポストに、"依田"って書いてあるのは何号室?」

「ちなみに彼ですが、そのままアパートに入っていって、ぎしぎしと階段を上がって二階に行って、201号室。上がってすぐの部屋へ。
 ――入るときですが、そうだね、<目星>振ってみてください」

芳樹「(コロコロ……)成功です」

「暗いからよく見えなかったんだけど、入る前に、ドアの前で背伸びをして、ドアの上の庇(ひさし)に手を伸ばした。何やらゴソゴソやって、そのあとでドアの鍵をカチリと開けて入った」

芳樹「そこに鍵を置いてるわけだ」

長沢「そう考えられますね」

芳樹「じゃあ今度、忍び込める可能性がある(笑)」

「ちなみにこのアパートの名前、樹影荘(こかげそう)といいます」


(ちょっとしたお遊びですね。深い意味はありません)


「――というわけで、次はヨシアのほう。
 追いかけていくと、恐らく彼の家だろうね、二階建て一戸建て。まあ、中流家庭のお家って感じですね。家のすぐ裏手が、療養所と同じで森になっています。
 ――で、入ってった」

高坂「場所だけ覚えて……療養所に車置きっぱなしだな……一回、療養所に戻ります」

「はい。じゃあ、療養所に戻っているうちに、芳樹さんは――?」

芳樹「窓のところで<聞き耳>」

長沢「二階ですよ」

芳樹「扉のところ。親か何かいれば声がするよね。――あ、でも、いないって言ってたから、ひとり?」

琴音「ひとりで喋ってたら(笑)」

芳樹「ひとり暮らしはないでしょう。だって、中学生でしょう? お爺ちゃんかお婆ちゃんか――生活してる雰囲気ありそうかな? テレビをつけてるとか。
 ――でりゃっ!(コロコロ……)聞こえねえ!」

「うん、まあ、大きな物音はしてない。それは確か」

長沢「静かやね」

琴音「電気のメーターが回ってるかどうか」

「回ってますね」

芳樹「一応、ここだということを確認して、Pメールを姉貴へ。ヨタカ樹影荘。帰る。以上」

「じゃあ、療養所に合流していいですよ、全員」


(黄昏の追跡劇を終え、四人は療養所のロビーに集合しました)


高坂「報告だけするけど」

芳樹「怪しいやつは"惹き"であって、犯人は実はヨシアだったり(笑)」

琴音「なんか、でも、ヨシアくんのほうが怪しそうじゃない?」

長沢「……て、いうような会話をロビーでするんですか?(笑)……やっぱあのふたりが……いやいや、あの子のほうが……」

芳樹「(長沢に)サラリーマンはどうだったの?」

長沢「普通のサラリーマンっぽいです。肝臓病で入院して」

芳樹「なるほど。じゃあ、やっぱりこの中学生に絞られるわけだ」

長沢「怪しいなと思って差し支えなさそうです」

高坂「君野さん調べるのって、どうします?」

琴音「そういえば、そんな話も(一同笑)。でも、あれは忘れよう」

芳樹「ああ、そうだね、言った本人も忘れてた(笑)」

高坂「……ひとまず、病院から出て、別のところに移動しましょうか?」

「もう夜ですよ」

長沢「夜ですね。じゃあ、とりあえず、家に帰るよ」

高坂「明日の朝、警察に一回寄って――」

琴音「あ、そうだ。解剖の結果」


(こうして探索初日、長い一日が終わりを告げました。不審な墜落死、火傷、停電、謎の数式、熱力学、イチノ、ヨタカ、ヨシア、謎の本、そしてマックスウェルの悪魔――謎は次第に解明されつつあるのか、それともより混迷の度合いを増すばかりなのか――。四人の胸臆を不安という名の闇が支配したまま、やがて何ごともなかったかのように夜は明けていきます……)


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