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Act.8 真っ暗な夜明け
ヨタカの眼から不意に涙があふれ出した。それは頬をすうっと伝って、顎の下に流れ落ちた。
そのままヨタカは膝をつき、身を屈め、声もなく泣き始めた。
― 竹本健治 『けむりは血の色』
長沢「君野さん、どうしたんですか?」
K「『大変! 葉山くんが――行方不明になってしまって――!』」
長沢「ええっ!?」
芳樹「動いてるな」
K「『何か――こないだ話してましたけど、知ってることとかないですか?』」
長沢「いや、全然判らないんで――どうなんでしょう。とりあえず、じゃあ、こっちで、彼の友達の家を訪ねてみます」
K「『お願いします』」
長沢「電話を切って――とりあえず、家に行きますね。家で、復旧したパソコンの中で翻訳データを探してみます」
芳樹「翻訳したデータを翻訳する(笑)」
K「そうなりそうだね(笑)。えーと、翻訳データは生きているかなぁ」
長沢「見ていてブツン、ですから――もしかすると――」
K「一応、自動バックアップ機能もあるでしょうけれど――<幸運>ロール」
長沢「幸運低いんだよなぁ。(コロコロ……)おっ、幸運です。03。とっても幸運です」
K「とっても幸運ですね。じゃあ、生き残ってた」
長沢「よかったぁ。じゃあ、それをプリントアウトして見せましょうか」
K「見せました。凄い長いですよぉ。いいですか?」
長沢「はい」
K「では、かいつまんで、こんなことが書いてありますよ、ということを――」
●著者が独自に提唱している“闇粒子”なるものについて
闇を構成する最小単位。これは非常に特殊な例外的存在であり、あまりに希薄でありながら、あまりにありふれたものであるため、現在まで発見されずにいた。正確には粒子よりも更に微小な単位であるが、ここでは便宜的かつ暫定的に「闇粒子」と称する。
●闇の濃淡について
「濃い闇」とは闇粒子の速度が遅い状態で、「薄い闇」とは闇粒子の速度が速い状態のことである。
●真の闇の形成について
速度の遅い闇粒子、中でも速度が「0」に限りなく近しいもののみを集結させることによって、闇は凝り固まり、闇の固体――闇の結晶体――が形成され、闇に質量が発生する。
●力学的儀式について
闇粒子を高速と低速とに分割し、低速のものをひとところに集めるための数式と、その儀式的実践方法。
(例の数式も交え、詳細な解説がなされています。ありていに言ってしまえば《呪文》が書いてあるということです。詳しくは後述)
これはエントロピーの法則をねじ曲げたものであり、これによって生み出されたもの=エントロピーの法則をねじ曲げることができるもの=マックスウェルの悪魔と呼ばれているものに他ならない。
●光が闇を駆逐する理由
光の粒子(正確には波動であり粒子)が闇粒子にぶつかると、その光の特異性ゆえに闇粒子のエントロピーが瞬時に増大を促進され、凝り固まった闇は拡散する。◆力学的儀式について
夜の闇の中で執りおこなうこと(闇粒子の分量が多いことが必須条件)。少しでも光の介入があれば、儀式の失敗の確率は格段に上昇する。
特殊な数式を床に記入し、その際、儀式執行者は自らの血液を適量、インクに混合する必要がある。
数式の上にこの書物を閉じた状態で設置し、参加者全員で数式を暗唱する。参加者のうち、少なくともひとりは数式の意味を理解していなければならない。
適度な時間そのまま闇が保てれば、数式は効力を発揮する。床の数式の上に設置された力学書の内側に速度の遅い闇粒子が集まり、空けられてある穴の中に固体を形成する。
更にその場が真の闇に包まれた状態であれば、続いて、更なる“力学的現象”が生じることであろう。
K「――というようなことが書いてありますね」
長沢「うわー、恐ぇー」
琴音「だから停電にした――」
長沢「じゃあ、なんとなく袋の中を見て――何だこりゃ、みたいな」
琴音「朝になったら(高坂は)家には帰ってくるのかな」
K「はい、帰ってきます。合流」
(あ、斜め読みによる正気度減少を忘れてた。一応、魔道書ですからね、これ)
芳樹「うーん、これは大変なものだ。本当だったら」
長沢「闇粒子の――固体?」
K「まあ、気体・液体・固体とあったら、普段の闇は"気体"ですな」
長沢「これができるということは――マックスウェルの悪魔の存在を実証しているような気が――ということは、こんなことするやつらは、やっぱり――現状ではあの三人しかいませんよね。
というわけで、じゃあ、やはりその固体も大事ですし本も大事だから、どっちか片方を所持しておいて、森川宅を訪ねてみるというのが一番ですね。とりあえず、誰かがどっちかを守っていて、もうひとりがどっちかを持って訪ねていくのがよいと」琴音「よく解んないんだけど、このできた黒いやつっていうのは、また外に出しておいて、また本があってベントラベントラやれば幾らでもできてくる――?」
長沢「できるんでしょう――!」
琴音「って、ことだよね」
長沢「こっち(結晶体)を、更なる暗闇に置いておくと――何かしちゃうぞ」
琴音「明るくしとかないと。――でも、最初本に挟まっていたとき、既に暗かったよね」
長沢「あれ? じゃあ、やばいことは、もう起きちゃったのかしらん? ――そういう推理もアリですよね」
琴音「光を当てとけばいいってことになるの?」
芳樹「拡散するの?」
長沢「拡散しちゃうと、凝り固まらなくなるから――消えちゃう?」
琴音「だんだん大きさがちっちゃくなってきちゃう?」
芳樹「ライト当ててみる」
長沢「タオルから出してみて、部屋の明かりもありますけど」
K「そうですね、特に変化はないですね」
(いったん固体になると、分子結合が非常に強固なものとなるのでしょう――ねえ、たぶん)
芳樹「陽の光じゃないと駄目なのかな」
琴音「停電にするくらいだから、普通の明かりでも」
芳樹「そうだね」
長沢「うーん、本とどっちが大事かな」
琴音「本は、絶対なくしちゃ駄目だよ」
長沢「とっても気になるんですけど――本が大事なのか、匣(はこ)が大事なのか――。書物を入れ替えて、ダミーにしたとしますよね。でもその匣が大事だったら、それも意味がないなと」
琴音「匣っていうのは、その鉄の枠ね」
長沢「やりかたを向こうが完全に熟知していれば、それも意味がないですよねぇ」
琴音「でも、それ自体も必要なんだよね、儀式には」
長沢「たぶん。固体を持っていれば更なる儀式ができるけど、本だけだと、固体を作るところから、やりなおさなきゃいけないかもしれない」
芳樹「だから本は渡せない」
長沢「黒いのを渡しても、まずいことになる場合もあるんですよ。もう本は要らないから。
――本の鍵の部分を完全に外すことってできますか?」K「<機械修理×2>で」
(コロコロ……)
琴音「あ、13。できました」
K「はい、ぶち壊して外しました」
長沢「その匣と本を持っておいて、交渉の材料には鍵の部分を。――つまり、本は持っているんだぞ、という証拠を見せれば」
琴音「それだけ見せるために持っていくと」
長沢「本はこっちが持ってる。中身も持ってる」
琴音「持ってるって、誰が?」
長沢「誰が持ってるんでしょうね(笑)」
琴音「でも――隠しておいて、それを見張ってなきゃいけないんだと、バラバラになっちゃうじゃん、みんなが」
長沢「ですね。でも、どこかに置いておくのもまずいと思うんですよ」
琴音「みんなで持って、みんなで行くとか」
長沢「それもやっぱりまずいと(笑)」
(相談の末、結局全員で、ひとり暮らしをしているであろうヨタカのアパートを訪れることになりました)
K「車で行くんですね? はい、着きました。ちなみに夜は明けてもまだ雪は止まないね。ずーっと降ってます」
琴音「それって、この季節には珍しい?」
K「いえ、特別珍しくはないけど。東北内陸だから――降るでしょうか」
長沢「(鳴兎子の地図を見ながら)この地形だと――ちょうど落っことしていく形じゃないですか」
高坂「車は大丈夫ですかね?」
K「特に問題はないですよ。――普通に走るぶんなら」
琴音「なんか、この仄(ほの)めかしがなぁ(笑)」
K「――では、着きました。樹影荘。築五、六十年のボロアパート」
琴音「私、車に残っていまーす」
高坂「私も、車ですぐ逃走できるように、エンジンだけつけています」
K「はい、じゃあ、男子高校生ふたりが201の前へ」
長沢「とりあえず、コンコン、とやってみます」
K「反応はないです」
芳樹「鍵は?」
長沢「その間に鍵らしきものを探ってもらって」
K「ドアの上に鍵らしきものは――あります」
芳樹「取って、開ける」
K「開けた。開いた。――えー、六畳一間の狭い部屋で、そうだね、あるものと言ったら、本棚には古今東西のミステリがいっぱいで、あとは、棚にコーヒーと煙草」
長沢「煙草!? やーな中学生やねえ」
K「コーヒー豆とマルボロがいっぱい(笑)」
長沢「うわぁ、マルボロなんか吸ってるのか中学で。身体に悪いですよ」
K「そしたらね、書き物机――勉強机みたいなのがあるんですが、そこに向かって椅子に座っている細い影」
芳樹「よっ! ――声かけちゃう(笑)」
長沢「よ、依田くん――? って訊きますね」
K「部屋の中は陽が射さないので薄暗かったんですが、近づいていくとよく見えました。
恐らく、服装からしてヨタカでしょうが、机に向かってペンを握った体勢のまま――事切れてます」長沢「はい?」
K「全身に、例の激しい火傷のような痕がある」
長沢&芳樹「うーわー」
K「<正気度>ロール」
(コロコロ……)
芳樹「成功」
長沢「失敗です。(1D3……)うわ、また3が出た」
芳樹「大丈夫かぁ!?」
K「写真見てないから、免疫もないでしょうね」
芳樹「これは、あのときと同じ状態だ」
K「あれより更に酷い。服とかペンとか、身の回りのものは全然灼けてない。身体だけ。何かを書いてる最中だったみたい」
芳樹「それを見る」
K「ノートみたいで、走り書きで長い文章が書いてある」
芳樹「読む」
長沢「目を通しますね」
琴音「英語だったりして(笑)」
長沢「厭な中学生(笑)」
K「凄い乱雑な――日本語ですね」
芳樹「<日本語>ロールとは言わないよね(笑)」
K「そうだね、このページ読むだけなら。えーと――、」
琴音「ああ、光を! ――とか」
K「――何で判るんだろう(笑)」
琴音「知らないんだけど、何だろう(笑)」
K「それじゃあ、ちょっと長めなんですけど、こんな感じです(プレイヤーにハンドアウトを渡す)」
今、明かりが消えた 全てが闇に包まれた
何かがこちらへ来た感覚 オレはヨタカ
あいつがイチノであいつはヨシア 一緒に星を見た夜
ヨシアの瞳 黒い瞳
闇が凝り固まったような瞳 瞳とは露出している脳
中が歪んだ 不安だ 恐い 怖い コワイ
光が要る 夜は暗い
闇の粒子を拡散させる エントロピーを増大させる強い光が
闇は光だ光は闇だ 遠くが近く近くが遠い
オレはヨタカ 依田隆夫 なのにあいつが見える
あいつはヨシアだ いや闇なのか 同化して
マックスウェルの悪魔 闇そのもの
あいつはオレでオレはあいつだ 同じ闇の中で溶け合って
闇を通じて意識が流れる
分かつには光だ 明かりはないか 光がつくれれば
あいつをオレを照らせる
照らせば形がわかるいやわかるのでなく形が生じるんだろう闇の中から浮き彫りにされて
そして世界の法則に従うのか オレはここにいる
あいつと同じ闇の中に 闇はひとつ おぞましい臭い
ロデリック・アッシャー
近づく やってくる 光を光を
燃えているのは瞳なのか
揺れているのは翼なのか
そこにあるのは闇なのか
光をはやく光を
光闇光闇光闇光闇光闇光闇光闇光闇光闇光闇――
長沢「(笑)――プレイヤーとしては、とっても楽しいですねぇ(笑)」
K「マニア心を擽(くすぐ)って(笑)」
芳樹「実に――おいしいです(笑)」
長沢「他のページを見ることはできますか?」
K「はいはい。いっぱい、色んなことが書いてあります。どうやら日記というか覚え書きというか――綺麗に何月何日とは書いてなくて、唐突に何かを書き始めたり、変な日記だなぁと思ったら夢のことを書いていたりという箇所もあり、本当に乱雑ですね。解読にはちょっと時間がかかる」
長沢「それを持っていくことはできますか?」
K「可能です」
長沢「じゃあ、持っていきます、それを。――他に似たようなものは見受けられませんか?」
K「ないですね」
長沢「ないですか。――じゃあ、手掛かりになりそうなものを、部屋の中で探してみます」
K「<目星>どうぞ」
(コロコロ……)
芳樹「成功です」
K「何かあったかなぁ――特にないですね。そのノートだけです」
長沢「それを持って部屋を出ます」
K「出ました」
長沢「車に戻って、かくかくしかじか」
芳樹「ヨシアのほうが怪しかった」
琴音「イチノ――葉山くんの姿は?」
長沢「なかったよ。依田が死んでただけ」
琴音「だけ(笑)」
長沢「机に向かって何か書きながら死んでたらしくって、そのままにしてきたけど」
琴音「ちゃんと拭いてきた?(笑)」
長沢「これからどうしましょう」
芳樹「ノートを読みます」
K「じゃあ、解読したい人は<日本語>ロール」
高坂「では年の功を生かして(一行の中ではEDU最高)、読まさせて頂きます。(コロコロ……)普通に成功しました」
K「はい、あげる(プレイヤーにハンドアウトを渡す)。二枚あります。こちらが前編」
――世界を変えるにはね、世界の法則を根底から変えてしまえばいいんだよ
イチノはそう言った。
――世界の法則を変えるにはね、これは全く、実に簡単なのさ
イチノは自信に満ちていた。
――要するにマックスウェルの悪魔を仲間にすればいいんだ
イチノは、具体的な方法を教えてくれた。れいの、力学書の内容だ。なるほど、これなら、オレたちをないがしろにしているこのつまらない世界をいっぺんに変革することができる。
イチノは力学書に取り憑かれているみたいだ。注文した覚えのないという、鉄表紙の洋書に。オレが鍵を作り、開けた。イチノの役に立った。ヨシアと名前をつけてやった。ヨシアもオレとイチノの仲間だ。紛れもない局外者だ。まだまだ発展途上かもしれない。しかしオレたちにはない心の闇を持っていることは確かだ。
準備は万端だ。月のない夜、広い空の下。あとは実行するのみ。
明かりを落とすのはオレの役目だ。
世界をくつがえす。このくだらない世界を。闇が収束した 奇妙な黒い石 赤いスジ 闇の結晶体 闇の粒子
看護婦のチヒロには悪いことをしたかもしれない。彼女もつまらない人間のひとりだったが、少なくともくだらない人間ではなかった。
しかしそのおかげで、“悪魔”の力を実証することはできた。
イチノの発作はまずかった。照明だけを落としたつもりだったが、ナースコールの電力までも落ちていたとは不覚。ヨシアだけでも帰らせたが。
K「――それで、こちらが比較的最近書かれたものと思われます――」
胡乱なやつらの介入は、まずいかもしれない。イチノは大丈夫だと微笑むが、オレは完全には安心できない。結晶体を使った二度目の儀式は、もう少し先延ばししたほうがいいだろう。
用心に越したことはない。力学書はイチノの部屋から移動させた。ヨシアの様子がおかしい。やはり畏れを抱いているのか。いやそれとも、畏れているのはオレのほうなのか。ヨシアの瞳が自信に溢れて見える。ヨシアの瞳が黒すぎる。
ヨシアの目を見ていると、違う何者かに見つめられているような気分になる。見透かされているようで気分が悪い。狙われているようで気分が落ち着かない。
K「――こんな内容でございます」
長沢「何か、明確に記されていて何度も出てくるような場所って、ありますか?」
K「まあ、療養所くらいですね」
芳樹「やはり、怪しいやつの裏にいたのが怪しかった」
長沢「そうですねぇ――森川宅に行くのがいいと思うのですが、どうでしょう」
芳樹「葉山の家って、療養所に訊けば判る?」
長沢「そうですね。君野さんに電話して、葉山宅というか、彼の保護者みたいなのには連絡取れるんでしょうか、と」
K「親戚はこの鳴兎子市にいますけど」
長沢「葉山くんは、療養所のほうからいなくなったんですか?」
K「『ええ、夕べ停電になっているうちに』」
長沢「あぁ、そうきましたかぁ……」
高坂「一回、病室に行ってみます? 何か手掛かり残っているかもしれないですね」
長沢「じゃあ、療養所のほうに行きます」
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