Opening Act. 1 Act. 2 Act. 3 Act. 4 Act. 5 Act. 6 Act. 7 Act. 8 Act. 9 Act. 10 Ending
― セッション終了 ―
いいですか。もう一度繰り返しましょう。
いや、何度だって繰り返していいのです。
いわゆる超能力などというものは物理的なレベルでは実在しない。
それが存在し得るのは、人間の共同認識という世界空間において、
なおかつ共同幻想によってのみです。
― 竹本健治 『闇に用いる力学[赤木篇]』
琴音「お疲れ様〜」
長沢「お疲れ様でございましたぁ」
(控え目な拍手。ありがとうございました)
長沢「いやぁ。死にましたね」
K「死にました。ばんさーい(笑)」
長沢「ばんざーい(笑)」
芳樹「一番おいしい――」
長沢&芳樹「――死に方を(笑)」(綺麗にハモる)
K「あ、そうだ、片づける前にレベルアップ等を――生き残りの人で(笑)」
琴音「やりましょう」
K「今回、この神話的事件を生き延びたことにより、おふた方、<クトゥルフ神話>技能が5%増えます」
長沢「なんでこいつ(長沢)は<クトゥルフ神話>持ってたんだろうなぁ。謎だ(笑)」
芳樹「たぶん、何かを森で見たんでしょう」
K「たぶん。もしくは蛙の鳴き声に誘われて湖に行ったら何かを見ちゃった(笑)」
長沢「ゲロゲロゲロ……」
K「えーっと、それと、チェックしてある技能ありますよね。それぞれレベルアップを試みてください。それぞれ技能ロールをして、失敗したら1D10増えます。低い技能ほど成長しやすいということですね。
――あ、それと正気度も増やさないと」長沢「神話事件解決の」
芳樹「いやあ、いい死に方だった」
長沢「ちょっと不本意でしたね。もうちょっと、何かをしている途中で死にたかったですね」
K「(ふたりのレベルアップ作業終了を確認して)それじゃあ、この神話的事件を解決ならびに生き残ったことにより自信がついたので、正気度を1D10増やしてください」
(PCが自らの手で《さまようもの》にとどめを刺したのならば、正気度+1D20にしようと思っていたのですが)
(コロコロ……)
琴音「2」
高坂「2」
芳樹「同じだ(笑)」
(キャラクターシートを回収します)
長沢「初志貫徹できなかったのがおいしいですね、こいつは(笑)。お姉ちゃんの仇を取るどころか、自分がやられちゃって」
K「『クトゥルフ』らしいじゃないですか(笑)」
長沢「おいしいです。怪事件の調査に乗り出して自分が引っかかって死んじゃう。――堪んないですね(笑)」
(堪りません――という感覚を抱けるか否かで『クトゥルフ』を楽しめるか否かが決定されてしまうのかもしれません。つくづくマニアックなゲームですね。
――まあ、何はともあれ――)
<一同>「お疲れ様でしたぁ〜」
―― 『闇に用いる力学』 了
(プレイ時間:280分)
あとがき と、いうわけで、めでたし、めでたし。出来不出来はともかくとして、文字どおり僕の"名刺代わり"のシナリオでした。物語の中核を担うマジック・アイテムだけでなく、下手の横好きで生半可な科学知識を取り入れてみたり、美少女ではなく美少年を登場させてみたり(しかも三人も。うはうは♪)といったところが、いかにも僕らしい。
もちろん断っておかなければならないのが、シナリオのタイトルを初め、三人の少年、看護婦の名前、ボロアパートの名称などを、全て、敬愛して止まない竹本健治さんの作品から拝借してきている、という部分でしょう("パロディ"どころではなく"パクリ"です、これは。よい子は真似しないでね)。いや、それだけでなく、マックスウェルの悪魔を仲間にするというヒントを頂いたのも、竹本さんの小説からでした。竹本さんの世界をシナリオ化したと言っても過言ではないかもしれません。謹んで謝辞を述べさせて頂きたいと思います。――とは言いましても、この拙文が竹本さんのお目に触れる機会などないでしょうけれど("どうせ読まれない"ついでに……『闇に用いる力学[赤木篇]』の続き、早く書いて〜)。
閑話休題。僕にとってTRPG『クトゥルフの呼び声』のシナリオは、神話存在を登場させるための舞台装置に他なりません。個性溢れる神話存在たちを、どう自分なりに料理するか――それを考えているときが一番エキサイティングで有意義な時間と言えるかもしれません。そのため、ストーリーはあまり重視しない傾向にあるようですが……。
このシナリオは、《闇をさまようもの》を現代日本の都心部に出現させたいがためだけに創ったと言ってしまっていいでしょう。四六時中、常にどこかから光が発せられている現代、このあまりに有名なナイアルラトホテップの化身には、なかなか住み難い世の中となってしまっているようです。可哀想に(笑)。作中に登場するナイアルラトホテップの真意が掴みづらいかと思われますが、"手掛かり"は全て出揃っています。お暇な方は、這い寄る混沌の思し召しを空想し、素敵な解釈を与えてみてください。
三十年後、本当に続編を創ってみるのも一興かな? ――まだ僕が生きていれば。ところで、ヨシアは本当に何も知らなかったのでしょうか……?
―― 2000/7/20 Trapezohedron.
【影響を受けた作品】
『闇をさまようもの』(『ラヴクラフト全集 3』収録)H・P・ラヴクラフト著/大瀧啓裕訳(創元推理文庫)
『尖塔の影』(『クトゥルー 7』収録)ロバート・ブロック著/岩村光博訳(青心社)
『閉じ箱』竹本健治(カドカワ ノベルズ)より
「夜は訪れぬうちに闇」
「けむりは血の色」
「闇に用いる力学」
『闇に用いる力学[赤木篇]』竹本健治(光文社)
【参考文献】
『マックスウェルの悪魔』都筑卓司(講談社ブルーバックス)
『10歳からの量子論』都筑卓司(講談社ブルーバックス)
『学校の怪談に挑戦する』大槻義彦(ちくま文庫)
【オマケ】
力学書【◆】と、《闇をさまようもの》【◆】のデータです。――宜しかったらどうぞ。
追記 少しでも物理学を囓った方ならお解りなのかもしれませんが、当作品中で語られているマックスウェルの悪魔およびそれに付随するトラペゾの知識には誤りがございます。間違いだらけです。これをそのまま友達に得意げに話すと、恥辱と汚辱にまみれてしまう可能性があります。
さてここでは、そんな間違いを正すべく、異界探訪さまの文章をご紹介することに致します。
以下の赤枠内の文章は、異界探訪さまがトラペゾに送ってくださったメールより引用し、掲載に当たり一部レイアウト等の修正をしたものです。
(※途中の黒枠内の文章は、それぞれの疑問点に関して、異界探訪さまが再検討したのちに送ってくださった文章です。重ね重ね御礼申し上げます)
で、作中で気になったのが、マックスウェルの悪魔に関してと、闇分子の速度云々に関してです。悪魔に関しては名前は聞いたことがあるものの、余り詳しいことは知らないのですが、もしこの悪魔が細かい粒を選り分けることが出来たとしても、一度「ぬるま湯」になった水を温水と冷水に分けることは出来ないのではないか、と言うことです。
その前にもう一つ、分子の速度と温度の関係ですが、早い分子は熱く遅い分子は冷たいと書かれていますよね。ところが、正確には分子が熱いとか冷たいとか言うのはそのエネルギに依るものであって、速度がどうというものでは無いのです(と言い切った後で、もし違ってたらどうしよう(笑))。正確にはエネルギが高い分子程その運動が大きくなるために、各分子間距離が離れて行って気体の状態になると言うわけなんです。ひょっとすると貴方は、運動が大きいというつもりで速度が速いと言っているのかも知れませんが、一応そういうことです。
補足説明しますと、分子の運動速度が速いと確かに温度は高くなります。ですが、ここでいう運動速度とは、実は振動速度の事で、分子は振動しながら運動しているのです。解りやすく言うならば、野球のボールが完全に制止した状態でミットに届くのではなく、回転や振動をしながらミットに届いているのと同じ……余計解りにくいですかねぇ(笑)。で、その振動が速いんです。
何故振動が速いと熱くなるのか、答えは簡単、摩擦が発生するからです。空気中で激しく振動している分子は、それだけ摩擦熱が高くなるわけです。と言うことは、真空中では物の温度は低くなるのでしょうか。答えはイエスですね。宇宙空間は絶対零度なんてのはふた昔ほど前の通説でした事は、ご存じかもしれませんね。まあ尤も、宇宙空間は完全なる真空では無いのですが。
ややこしくなって来たのでまとめますと、『分子は速く振動すると、摩擦による熱エネルギを得て熱くなる。また、振動が速いと言うことは、何かにぶつかった際の反動も大きい訳で、その為運動も自然と大きくなる。熱い物質の体積が大きいのはこの為である』。
それで元に戻りますが、以上の説明から温水と冷水の違いを説明すると、つまり水分子の持っているエネルギが違うと言うわけなんですが。
では温水と冷水を混ぜて「ぬるま湯」が作られる過程を追って行きましょう。物質と言うのは、熱力学の第二法則にしたがってエネルギの高いものから低いものへと、そのエネルギを移動させています。では温水と冷水を混ぜるとどうなるのか、と言うと、エネルギの高い温水から低い冷水へとエネルギが受け渡され、最終的に両者の持つエネルギが等しくなった所で平衡状態となります(これはあくまで他とのエネルギのやり取りが無いものと仮定します)。つまり、この平衡状態こそが「ぬるま湯」と言うわけで、たとえ悪魔がいたとしても、各水分子の持っているエネルギそのものを奪って他に分け与える事が出来ない限り、「ぬるま湯」を再び温水と冷水に分かつ事は出来ないのです。
しかしこの現象は、あくまでエネルギが水分子の中だけにとどまらず、やがて外に放出されて行くことまで考えれば、十分エントロピ増大の法則を満たしていると言えるのです。
それと関連して、エントロピ増大の法則というのは、あくまで物事が外へと放散して行くことを言っているのであって、冷水と温水を入れた容器の仕切りを外して互いに混ざり合うのはこの法則とは無関係の様にも思えます。
実際この実験の例として、真空中に気体が広がると言うのは良く聞きますが、二種類の温度の水が混ざると言うのは僕は聞いたことが無いです。
更に付け加えておくと、この実験はあくまで他からの干渉が一切無いことが条件ですが、温水と冷水はその密度の違いからただ放っておくだけでは、そのままの状態で変化しないか、したとしてもかなりゆっくりな速度だと思います。
これを判りやすく説明する例として、2、3挙げておきますと、
冷めてしまったお風呂の水にお湯を足しても、熱いお湯は上部に溜って底は冷たいまま
アルコール濃度の違う酒を順に注ぐことでグラデーションを創り出すある種のカクテル
と言ったところでしょうか。
あともう一つ、この悪魔が水蒸気を氷にすることが出来ないと言っても、以上の説明から御理解頂けるでしょうか。悪魔が出来るのは、あくまで粒を選り分けることだけなのですから。
ではこれについて、改めて検証して行きましょう。まず、全くの無関係ではないかもしれません。
と言うのは、前述した熱い分子と冷たい分子と言うのを取り上げると、両者が単純に混ざりあっただけの状態でも、疑似的に『ぬるま湯』が形成されるからです。
冷めかけたお風呂のお湯が、場所によって熱いのか冷たいのか良く判らない、なんて経験は無いでしょうか。或は洗面器に半分程張った熱湯に冷水をもう半分足して軽く混ぜ、その中に手を漬けると一瞬熱くもあり冷たくもあり、でも丁度いい感じの温度だったり。
これはあくまで、ほぼ同じ間隔で熱い分子と冷たい分子が混ざっているために起きる現象です。例えて言うなら、パソコンの画面上に、赤いドットと青いドットを交互に並べると、紫に見えるのと同じことです。実際に紫のドットを置いている訳ではないのに、疑似的に紫に見えてしまいますね。
と言う訳でまとめると、『冷水と温水を入れた容器の仕切りを外すと、エントロピの法則に従って、一時的、疑似的に両者は混ざり合う。この時水分子の集合は、厳密な意味での「ぬるま湯」になっている訳ではないが、エントロピの法則を理解する上では充分な実験であると言える』。
勿論僕も、物理の専門家ではないのでこの知識も誤っている可能性もありますが(苦笑)。
最後に、身の回りから一瞬にして空気をなくすためには、マックスウェルの悪魔は一体どれだけの数が必要でしょう。或は、どれだけの速度で動ければ可能かという言い方も出来ますね。ただこの悪魔が、四次元よりも高い次元に存在していたら、時間の概念を無視できると言う考え方もありますが。
いかがでしょうか。僕のいい加減さが痛感できますね。特に言い訳はしないでおきます(笑)。
また、異界探訪さまのノベライズ『闇に用いる力学』から、シナリオ中では都合により割愛されていた(笑)数式がどのようなものなのかを窺わせる箇所を引用させていただきます。
この式はエネルギの循環を表してるんだけど、その全てを足すと本来増加するはずのエントロピがゼロになってる。つまり第2法則に則って空気中に物質が放散していく様子を表した式の、全く逆になってるの
この言葉に代表されるように、小説中の豊田美穂嬢の解説には、勉強させられることが多々ありました。
今後このシナリオをプレイするような機会が訪れたときには、ぜひ参考にさせていただきたいと思います。
異界探訪さま、どうもありがとうございました。
小説版『闇に用いる力学』をはじめ、鳴兎子を舞台にした異界探訪さまの数々の作品は、にゃるらとてっぷホテルの空中庭園に掲載されています。
物理学関連以外にも、何かお気づきの点がございましたら、皆様どうぞご遠慮なくおっしゃってください。
――2001/2/19 Trapezohedron.
Opening Act. 1 Act. 2 Act. 3 Act. 4 Act. 5 Act. 6 Act. 7 Act. 8 Act. 9 Act. 10 Ending
ないあるさま「お時間が許せば、『アーカム・ホラー』、どうでしょう?」
トラペゾヘドロン「やりましょう」
ないあるさま「やりましょうか」
けえにひさま「まず、(駒を)切んなきゃ」
ないあるさま「鋏ありますか?」
(こうして陽は暮れてゆく……)