― スティーブン・キング 『デスペレーション』
◆ねばねばした、油を燃やした煙のような体と、数多くのねじくれた三本指の手を持つ下級のグレート・オールド・ワンです。
極めてマイナーな神格であるこのグレート・オールド・ワンは、かつてアメリカ・インディアンの部族であるショショーニ族によって、彼らの言葉でいう「酸っぱい土地」の地底の底、〈イニ〉と呼ばれる異次元との境目をつなぐ縦穴に封じられました。しかし、1848年にディアブロ鉱業という会社が、炭鉱を掘るためにその地に鉱山を作ったことにより、この神は解き放たれました。その結果この神は鉱山を掘っていた中国人労働者に憑依し、お互いに殺し合わせました。現在でもこの神は自らの憑代を求めて人間から人間へとその住処を変えつつ、廃坑の都市――デスペレーションに潜んでいます。この神が目的とすることはただ殺戮だけです。知的生物が争い合い殺し合うことはこの神にとって素晴らしい食事となります。
教団:タックを信仰する教団は存在しません。また、この神は信仰を嬉々として受け入れはするものの、ひとかけらもそれには報いません。信奉者は憑代として使い捨てられます。
攻撃と特殊な効果:タックは自らの三本指の手を生物の鼻と口に捻じ込むことにより、その肉体を憑代とすることが出来ます。憑依の対象となった者はこの神とPOWを対抗させてロールを行い、失敗するとこの神に肉体を奪われてしまいます。この神の憑依は哀れな犠牲者の魂を完全に破壊し、肉体と精神を完全に奪い取ります。この神は憑依した存在の技能や記憶をそのまま使用することが出来ます。犠牲者は憑依から一時間ごとにSTRとSIZ、CONがそれぞれ18ポイントになるまで1ポイントずつ増加します。一方POWは一日毎に1ポイントずつ失われます。POWが失われるたびに哀れな犠牲者の肉体は腐敗していき、まるで重度被爆者のように蕩けてゆきます。腐敗がひどくなった犠牲者が動き回っているのを見てしまった者は1/1D4の正気度を喪失します。POWが0ポイントになるかこの神が憑依を解いた時、犠牲者の肉体は完全に腐り落ちてしまいます。このような腐敗がひどくなる前に、この神はできる限り多くの人間を無差別に殺して殺戮の飽くなき欲望を満たそうとすると同時に、新しい憑依の対象をストックしようとします。この神は憑依している犠牲者を使って、別の人間の肉体に「移り変わる」ことが可能です。移り変わりは非常に簡単なもので、憑依者が口から別の人間や動物の口へと息を吹き込んだとき、この神とのPOW対抗ロールを同じく行い、対象が失敗すればこの神は新たな肉体へと移り変わります。この際古い肉体の持っていた技能はすべて失われますが、記憶は残ります。古い肉体はグズグズに腐り果てます。例え憑依した犠牲者が死亡しても、この神はいささかの痛痒も受けません。ただ〈イニ〉へと帰還するだけです。
極めて稀な例ですが、この神の憑依の際に、まるで誂えた服のようにこの神とぴったり合った肉体を持つ人間が存在することがあります。それは例えば脳、あるいは精神に異常を持つ、この神のぞっとするような精神と似た側面を持つ者です。そのような存在に憑依したタックは、その人間の妄想を歪んだ形――殺戮を振りまく存在に歪められた――で現実に実体化させることが出来ます。例えば心底からのサディストには人間をとらえて離さない歩く拷問機械を、ナチズムを狂信的に信じる者には彼の言いなりになる残虐なSSの部隊を、アニメを自閉的に好む引きこもりのオタクには人間を狩るアニメキャラクターを与えます。そのような狂人が憑依によってPOWを喪失しても、腐敗し死亡することはありません。ただしPOWが0になった時点で、この神はそのような狂人の精神を完全に奪い去り、そして妄想の具現化に自分に相応しい、荒涼で広大な砂漠の幻影の創造を加えます。砂漠の幻影は本物と変わらない広大さを持ち、一つの街を包み込むことすら可能です。犠牲者を本物と飢えと渇き、熱と冷気によって責めさいなみ、殺害しうるもので、加えてこの幻影は現実とさほど変わるものではなく、ただかりそめの存在であるというだけなので、〈精神分析〉のような技能で解除することはできません。この恐ろしい力は、ぴったり合った人間にタックが憑依できるまでは、タック自身には使うことが出来ません。彼のこの能力は、狂人の歪んだ精神がなければ失われてしまうのです。このような狂人を殺害した場合、幻影はすぐさま消え去り、タックは〈イニ〉へと帰還します。
この神は人間や動物の目の前に立って脳髄に直接囁きかけるか、あるいは自分のエネルギーを注ぎ込んだ掌サイズの小さな石像――その意匠は主に砂漠の動物、コヨーテや蠍やコンドルやガラガラヘビを混ぜ合わせ、醜悪に捏ね上げたようなものです――である〈キャン・タ〉を触れさせることで人間や動物を操る力を持ちます。対象となったものはPOW×5でロールを行い、失敗するとこの神の忠実な僕となってしまいます。魅了は性的快感――残酷な生贄や獣姦のような不浄な行為を通じた、神へと至る歪なエクスタシー――をもたらし、犠牲者を虜にします。1時間ごとに犠牲者は再び魅了に対して抵抗を行うことが出来ます。POW×5で再びロールを行い、成功すればこの神の魅了から脱出することが出来ます。この魅了は動物、とくにこの神が本拠とする西部アメリカの砂漠に住む、コンドルや蠍や毒蛇、そしてコヨーテのような生物にはもっと劇的に働きます。この神の存在する中心から半径5q以外の中に存在するそのような動物はこの神に完全に服従してしまいます。
タック、大きな神、穴倉から現れ出でるもの、コヨーテの王
STR 該当せず | CON 該当せず | SIZ 該当せず | INT 14 |
POW 20 | DEX 該当せず | 移動 16 | 耐久力 該当せず |
武器:憑依 特殊 ダメージ 魂の喪失
装甲:なし。ただしタックの煙のような体には通常の武器は効果を発揮しません。ただ魔術か火薬などによる強力な爆発により〈イニ〉を吹き飛ばすことのみがこの神を殺し得ます。タックが殺害された場合、巨大な、コヨーテや毒蛇などといった砂漠の動物が絡み合ったような煙が天へと立ち上り、この神は自分の本来存在すべき宇宙から少なくとも数百年は帰ってくることが出来ません。
呪文:〈キャン・タの作成〉及び砂漠に関わるあらゆる呪文をこの神は知っています。
〈キャン・タの作成〉……グレート・オールド・ワンの一柱であるタックを崇める石像、〈キャン・タ〉を作成するための呪文です。この呪文はタック及び彼の信奉者、そして外なる神々のみが知っていますが、幸いにして現在では彼の信奉者は死に絶えています。この呪文を行使する場合、砂漠の動物を象った小さな石像が必要となります。術者は10ポイントのMPと1D6ポイントの正気度を消費することで、石像にタックとのつながりを作り上げ、石像に触れた者にタックがおぞましい語りかけを行えるようにします。
正気度喪失:タックを見て失う正気度は1D4/1D10です。