― 『新約聖書』マルコによる福音書 5章9節
◆まずはじめに断っておかなければならないのは、このレギオンが、新約聖書でほのめかされている悪霊レギオンとはまったく異なる存在である、ということです。レギオンという語自体がローマの軍団や大多数という意味を表すものであり、この場で言及される外なる神の本当の名前ではありません。この外なる神の名を知る者は、少なくとも人間の中にはひとりもいませんし、万一いたとしても、彼あるいは彼女に、その名を口にする勇気などありはしないでしょう。おそらく、この名状しがたい外なる神を表現する言葉として用いられたレギオンという語が、のちに新約聖書の中で、悪霊の集団を表す適当な手段として用いられたのでしょう。
レギオンはその名のとおり、集団によって構成された生き物です。平均して直径約30p、厚さ10oほどの、薄い肉片か膜のような生命体が、レギオンを構成する最小単位です。この生命体はしばしば「レギオンの子供たち」と呼称され、地球はもちろん、月でも火星でもユゴスでもリクスでもイェキューブでも、最も遠いクェーサーでも、その存在が確認されています。子供たちの生態は明かされていない部分がほとんどで、個体による大きさはまちまち、漆黒から玉虫色まで実に多彩な色合いを有し、酸素やその他の気体を必要とせず、食物も不明です。何かを取りこんだり排出したりするような穴は、ひとつも見受けられません。移動方法は主に蠕動(ぜんどう)を繰り返し地面を這い進むというものですが、ときには泳ぎ、あるいは跳ね、身体を丸めて転がるということもします。ひょっとすると飛行能力も持っているのかもしれませんが、たとえそうだとしても、滅多に空を舞うことはなさそうです。子供たちに関してただひとつ間違いないのは、彼らが非常に大きな単細胞生物であるということだけです。
子供たちは普段は単独で生活し、光のない場所に好んで棲息します。食屍鬼の巣穴やクトーニアンのトンネルなどは、格好の隠れ場所でしょう。深海をゆったりとホバリングする姿も確認されています。彼らは基本的には安全で無害な生物なのです。――もしも何者かに襲われることともなれば、危険な本性を剥き出しにしますが。人間ひとりを殺すことなら充分に可能です。
レギオンの子供たちは、なんらかの法則に従って、時折、群れ集うことがあります。それには星晨の位置が関係していることがほとんどで、その他の理由としては、何者かの手による招来の呼びかけに応えてというものもあります。あるいは、やはり何者かが組織的かつ計画的にレギオンの子供たちを殺し続けるようなことがあった場合、彼らは本能的に種の危機を察知し、群れを形成します。
群れをなすときは、数えきれぬほど多数の子供たちが世界中から――ときには他の星からも――集合し、互いに寄り添って山のような塊を形作ります。レギオンの子供一体一体は、昆虫並みの知性しか持っていません。しかし彼らが集団を為すことにより、高度な知性と強大な力を併せ持つ外なる神、レギオンが誕生するのです。少ないときでも数千万、多いときでは数兆かそれ以上の子供たちが集まります。最大では、やはりこの宇宙に棲息しているすべての個体が集うことになりますが、幸いにしていまだそのときは訪れていません。完全なレギオンが誕生するときは、宇宙が終末を迎えるときなのかもしれません。
外なる神レギオンを形成している状態であっても、個体ひとつひとつの知性は変わらず、それぞれが今までどおり本能の赴くままに動き回ります。しかし全体で見た場合、彼らの動きは芸術的なまでに統制が取れ、完全に一個の神性を具現しているのです。まるで集団を操る、目に見えない偉大な存在がどこかに現れたかのように。ですが、もちろんそのような存在はありません。彼らはあくまで群れ集うことによって、自分たちでも意識することなく、智と力を行使できるのです。
外なる神レギオンは、招来に応じて現出した場合、必ず生贄を要求します。子供たちの集団意識の機嫌を損ねないようにするためには、たくさんの生贄を用意しなければならないでしょう。少なくとも、生贄たちのSIZの合計が、外なる神のSIZ以上でなければなりません。足りない場合は、まず招来の儀式を執りおこなった者を襲い、次に儀式の参加者を、そして最も近場の集落(最も生命の多い場所です。それは街であるかもしれませんし、動物の豊富な森林や、魚介類に満ちた海洋かもしれません)を、満足するまで攻撃し続けます。
攻撃と特殊な効果:レギオンに触れた犠牲者は、無数の子供たちが個別におこなう蠕動運動によって瞬く間に塊の中に引きこまれ、磨り潰され、吸収されてしまいます。逃れるためには、最初に触れた瞬間、自分のSTRをレギオンのSTRと抵抗表上で戦わせ、勝たなければなりません。もしこれに負けても、磨り潰しのダメージを受けて生きているならば(人間には無理な話でしょうが)、再び脱出を試みることができます。しかし、二度目、三度目、と試みてゆくたび、犠牲者は抵抗力を失っていきますから、成功率は毎回5%ずつ減少していきます。成功率が0%になった場合は、すみやかに犠牲者の身体はレギオンと同化します。子供たちの貴重な栄養源となるのです。
教団:レギオンを信仰する人間の教団は、地球上では確認されていません。しかし存在しないとは限りません。シャッガイからの昆虫は、レギオンの子供たちを飼い慣らしていると同時に、外なる神レギオンを畏怖し、崇拝しています。
レギオンの子供の攻撃:レギオンの子供は、敵対者に飛びかかり、身体全体をぴったりと密着させることによって攻撃します。呼吸器系を塞がれた場合(実際、子供たちは本能的によくそうします)、「窒息(溺れ)」のルールに従ってダメージを判定してください。貼りついた子供を剥がすには、抵抗表上でSTRを戦わせ、勝たなければなりません。このとき、複数で協力すれば、各人のSTRを合計して判定することができます。しかし問題はそこにあります。レギオンの子供は犠牲者に対して特殊な吸いつき方をおこなうため、剥がれ落ちるさい、一緒に相手の肉をこそぎ落としてしまうのです。表皮の剥離だけで済むこともありますが、骨だけを残してごっそりと持っていかれてしまうということも少なくありません。子供たちは強引に剥がされない限り、通常、自分か犠牲者のどちらかが死ぬまで貼りつき続けます。貼りついている最中に神性レギオンを形成する事態となった場合は(ごく稀でしょうが)、子供はすみやかに、いっさいの傷跡を残さず、犠牲者から離れます。
レギオンの子供、群れ集うものども(下級の奉仕種族)
能力値 | ロール | 平均値 |
STR | 2D6 | 7 |
CON | 2D6 | 7 |
SIZ | 1 | 1 |
INT | 1 | 1 |
POW | 1D3 | 2 |
DEX | 3D6 | 10〜11 |
移動 5 | 耐久力 4 |
武器:貼りつき 30%、ダメージ 窒息
引き剥がし 100%、ダメージ 2D4
装甲:なし。しかし軟性に富んだ薄い身体のため、鈍器による攻撃では常に1ポイントのダメージしか与えられません。散弾のダメージも、最小限に抑えられてしまいます。それ以外の攻撃方法では、通常のダメージを与えられます。誰かに貼りついているレギオンの子供を攻撃する場合は、命中しなかった攻撃、ならびに余分なダメージ(オーバーキル)は、すべて犠牲者が被ります。
呪文:なし。
正気度喪失:レギオンの子供を見て失う正気度ポイントは、0/1D3です。
レギオン、大勢であるが故に(外なる神)
能力値 | ロール | 平均値 |
STR | 20D100 | 約1100 |
CON | 20D100 | 約1100 |
SIZ | 20D100 | 約1100 |
INT | 10D10 | 55 |
POW | 10D10 | 55 |
DEX | 10 | 10 |
移動 5 | 耐久力 約1100 |
武器:呑みこみ 100%、ダメージ db(必要とあれば、無生物であっても呑みこみ、破壊します)
装甲:なし。しかし軟性に富んだ薄い身体が無数に重なり合っているため、あらゆる通常の武器は1ポイント(貫通では2ポイント)のダメージしか与えません。火、電気、化学物質も、最低限のダメージしか与えません。魔術だけが通常のダメージを与えます。また、レギオンは食事をするごとに、犠牲者のSIZと同じ値の耐久力を回復します。耐久力が0まで減少すると、レギオンは群れを解散し、子供たちは個別に各地へと散ってゆきます。再び群れ集う、そのときまで。
呪文:なし。
正気度喪失:レギオンを見て失う正気度ポイントは、1D10/1D100です。
別に、某日本SF大賞受賞傑作怪獣映画を観て思いついたわけではありません。それ以前から、「群れる」生物の習性には興味を抱いておりました。特にアリ科の昆虫の集団意志には、戦慄すら覚えます。仲間全体を救うために、平気で身を投げ出しますからね(働き蟻や働き蜂には先天的に生殖能力がないため、己の命を軽視できるのかもしれませんが)。
シナリオに登場させるのは至難の業でしょう。いいアイデア? そんなものは思いつきません。思いつくものですか(居直り)。
デザインの過程で特に気を遣ったことといえば、いかにシンプルにするか、ということでしょうかね。単純な構造の生物という点を強調し、神に相応しい特殊能力(光線技とか、能力値の吸収とか、状態変化ダメージとか、そーゆーの)は省きました。純粋に、喰う。それだけです。もしかしたらレギオンは、喰うために集うのかもしれません。
喰うことしかしなくとも、それが宇宙的規模となり、宇宙的恐怖を表出した瞬間、そこに“神性”が見出されるのです。たぶん。
メキシコで目撃されたUMA“スカイフィッシュ”は、実はレギオンの子供だったりして……。